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大悪魔を召喚するはずだったのに!!








完成を目の前にして貧血で目眩がする。
けれど残り僅かな人生、禁忌を侵したって許されたい。
どうせ召喚したあと私が死んでしまえば召喚されたものが魂を喰らって契約が終了するはず。
希望すらないそんな未来に嫌気が差しながら指を切って血を垂らす。
ポタポタ、と血が指から滴って地面へと落ちる。その様子を見下ろしながら線を描く。
魔法陣が完成する。クラッと立ちくらみがした。
魔法陣が光りだし、ぼやける視界に人のような影が見えた。




『召喚できたのね…ははっ…』




記憶頼りでも召喚ができてしまうものが禁忌だなんて鼻で笑える。
自分の頬を叩いて気を張る。これから悪魔を相手にするんだから付け込まれてはいけない。気が弱いものはすぐに精神を蝕まれ、身近な人をも生贄に捧げさせた挙句に魂をあっという間に食べられてしまうと本で読んだ。




『やってやろうじゃない、もう貴族のお嬢様でもなんでもないんだから』




光が収まった頃、目の前に誰かが立っていた。光でやられた視界が少しずつ鮮明になっていく。
細身で長身の男。貴族の正装のような服にマントを纏ったきれいな顔立ちの男だった。
長身を曲げてこちらをじろじろと見てくる。
怪訝に顔を歪めると何か納得したように男はニコッと笑った。




「ふむ、なるほど?初めましてお嬢さん」



『私は召喚しただけでまだ契約してないわ、その呼び方はやめてくれる?』




この世界での「お嬢さん」は主従関係の呼び方である。
初対面の人間でもない男にそんな呼び方をされるのは馬鹿にしてるとしか思えない。
隙を見せまいと男をじっと睨みつけてよく観察をする。人間の形をしているということは少なくとも下級魔族ではない。その上この男は言語を話し、こちらの言葉もわかると見える。
なかなか厄介なタイプの魔族を召喚してしまったような気がしてきた。




「それは…」



男が口を開いた瞬間にゾクッと背筋が凍った。男の顔が見れない。
これはおそらく殺意。両親を連行したあの兵士たちからの殺意よりももっとおぞましく、恐ろしい。この殺気だけで心臓が止まるんじゃないかと思うくらい。
呼吸ができない。首を絞められてなんかいないのにものすごい力で締め付けられているように空気が吸えない。




「私が決めることであって人間が決めることではないですよ?」




固まる私の鼻を鋭く伸びた爪でつんとつつく。
そんなことをされても顔を横に反らせない。恐怖に身体が支配されている。
指はそのまま私の顔を撫で回す。




『………っ』




恐怖を振り払って勢いで後ろへのけぞる。足に力が入らずにそのままよろけて尻もちをついた。
ハッとなって男の方を見ると満足気にこちらを見下ろしている。
その時男の違和感を感じる。



『……あれ、あなた…』



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