大悪魔を召喚するはずだったのに!!
ーアルカード編
毎日がくだらない時間だった。
自分が吸血鬼の王として君臨してから数百年が経っただろう。
父や祖父など何代も前から王として統治していたが反乱者や陰謀をはかるものは多く、そういう輩を見せしめに殺している日々。
刺激なものなどなくたまに下界に降りては血のうまそうな処女の女の血を吸い、金品を盗んで喜んでいる盗賊や吸血鬼ハンターなどを暇つぶしに殺して鬱憤を晴らしていた。
それが私、アレクセイ・ドゥ・アルカード。
ライカと出会ったときもただの気晴らしに森の高い木に立って景色を眺めていたときだ。
目立つ赤いドレスで走る女を見て血を頂こうと思ったが誰かに追われているのに気付いて踏み止まった。
女はすぐに躓いて転んで何十もの兵士に囲まれて、散々暴行を受けた上に斬首され、首は持ち帰られていた。
くだらない人間の世界に飽きて去ろうとしたときに女のいた方から物音がした。
「……あれは」
女はまた走っていた。
確かに斬首されたのを見たにも関わらず変わらず恐怖心を露わに走っていたのだ。
気になって追うと洞穴に潜り込んで出てこなくなった。
興味が出たわけでもないが体を霧に変えて洞穴に潜り込む。
「(召喚陣でも書いてるのか…?)」
霧のまま女の行動を見ていると数時間かけて顔を真っ青にしながら召喚陣を書き上げた。
どうせなにも起こらないのは分かっていたが、どうせならこの死の自覚がない魂のお遊びに付き合ってやろうと召喚されたように目の前に姿を現してやった。
目を見開いて驚く姿を眺めながら手始めに絡んでやった。
「はじめまして、お嬢さん?」
最初は生意気な態度に力の差を見せつけるために弱い人間なら気絶してもおかしくない殺気を放ってやったが、思ったよりも意志は強く震えながらも吸血鬼の殺気の呪縛から逃れていた。
徐々に出てきた興味から契約と称して死人の魂に吸血をしてみた。肉体に触れることはできるのになんの味もしなかった。血のようなものが流れているのにいつものような芳しい香りも甘いか苦いかの血の味も何もしないのだ。
吸血ができないのはつまらなかったが、おもちゃのように弄ぶと表情をコロコロ変えながらも反抗する意志を見せる女に少しずつ興味が湧いていた。
吸血鬼の世界でも、人間の世界でも、こんな対応をできるものは少ない。
その上この女は魂であって死の自覚もない。
死んだことを伝えてみよう。そしたら意思の強い女はどんな反応をするのだろう。
「お嬢さん、あなたはもう死んでいて魂だけの存在なんですよ」
雰囲気を出すために真剣にそう伝えてみた。
反応が楽しみだったが表情から悟られないように必死に隠した。
だが、女は表情を変えずに「聞こえなかった」と言ってみせたのだ。
この距離で聞こえないなんてありえない。もう一度先程より大きく言ってみた。今度は反応も見せなかった。
死んだことに関することが女には聞こえていなかった。
流石にこのことには自分も戸惑った。
魂が潜在的に死んだことを受け入れたくないからかわからないがそうさせているのかもしれない。
その後も女と話しながら悶々と考えていると僅かな殺気を感じた。
咄嗟に女を庇ってしまった。魂だけの女を見えているのは私だけだろうにいつものように避けることが何故かできなかった。
肩にもろ銀が塗られているであろう銃弾が突き刺さり多少激痛が走ったが、吸血鬼の王であるアルカードにはこんなもので灰にはならない。
軽く返り討ちにして見せたが本気で心配してくる女に初めて罪悪感を覚えた。
だからかわからないがたまたま覚えていた精霊の湖に向かうとその湖を見た瞬間初めて目を輝かせて反応を見せた。
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