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大悪魔を召喚するはずだったのに!!






「お嬢さん…」




アルカードがゆっくりと近づいてくる。
殺されるかもしれない恐怖に後ずさる。視界が滲んでアルカードの表情は見えないが、変わらず声色はなぜか優しい。私の現実逃避でそう聞こえるだけなのかもしれない。それか私を油断させるためのアルカードの演技なのかもしれない。
数歩下がって足元が見えなくて何かに躓いた。
バランスを崩してしりもちをつく。





『痛い…なにこれ…』



「お嬢さん、地面をよく見てください」



『…え、なに…』




アルカードに言われるままに涙を拭って躓いた元凶であるものを見る。
地面には見慣れたドレスが見えた。
手が震えた。そのあと足が震えた。気付いたときには全身が震えていた。
声が出なくて、離れたくても身体が言うことを聞かなくて、数秒呼吸ができなかった。



「お嬢さんは…もう死んでいるんですよ」



『……っ…は…』



「お嬢さん……私が何を言ったか聞こえてるんですか?」




見慣れたドレスにはちゃんと膨らみがあって手と足も生えていた。
けれど、顔だけがなかった。
首から上は血が流れ出たであろう赤黒い染みが広がっていて、よく見ると手と足もあらぬ方向に曲がっていたり潰れたりしていた。
誰がどう見たってこれは死体だった。






「お嬢さんは昨日の夜、転んだときに兵士に追い詰められて…」



『やめて!!!!……お願い…だから…』



アルカードが隣に跪いて肩を抱き寄せた。
自分の死体を見ていられなくて顔を覆って涙を流した。
何も思い出せない、自分が死んだことが信じられない。
だって私はここにいるんだもの。アルカードと空の旅をして、湖に行って、生きているんだもの。




「死んだことを自覚できないまま、魂になっていたんです。魂でしかないから悪魔召喚などできなかった。契約もしていないんですよ、私達」



『な、なん…』



「死者の魂から吸血なんてできないんです」



『……そ…っかぁ…』




涙が止まらない。
こうやって涙を流しているのもおかしいのだろうか。
アルカードの胸元に顔を埋めてひたすらに泣いた。
もうすでに死んでいたのに生きることを諦めようとしていたなんて、なんて自分は滑稽だったのだろう。
受けとめきれない現実にただただ胸が張り裂けそうなくらいに痛かった。





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