大悪魔を召喚するはずだったのに!!
『良い風ね……この状況にならなきゃこんな当たり前のことにも幸せを感じられなかったなんてもったいなかったわ』
「人間はすぐ死にますからね、弱い生き物です」
『そんな人間だからこそ、良いこともきっとあるわ。私はそう思う』
「………」
それからは会話をせずお互いに目を閉じて時間がゆっくり進むのを感じていた。
サラサラの髪が風に揺れて手に触れたり、呼吸をしているのをももから感じたり、自然よりも今はアルカードを肌に感じていた。
それからしばらくして気付いたら眠ってしまっていたらしい。
目を覚ますと今度は私がアルカードの肩にもたれていた。身体を起こすと身体からアルカードの羽織っていたマントがかけられており、目を覚ました私にアルカードが気付いた。
「おはようございます?お嬢さん」
『えぇおはよう…良い目覚めだわ…』
ぐぃーと伸びをする。
立ち上がって私がアルカードにマントと返すと、慣れた手つきでマントを羽織った。
そしてこちらを向いて手を差し伸べる。
意図はわからないまま令嬢の癖で差し伸べられた手に自分の手を重ねた。
アルカードが手を引き寄せると私の身体はアルカードの胸と腕に包まれた。
「お嬢さん。お嬢さんを連れていきたいところを見つけました」
『…?どこ、かしら?』
どことなく先ほどと違う雰囲気を出すアルカードに茶化すこともできずに抱きしめられたままとりあえず会話を続ける。
抱きしめられていると表情が見えないが、声色はとても穏やかで微笑みながら話しているのだろうか。
「お嬢さんの国へ1度帰りましょう」
『…っ。裏切るつもり…?』
「いいえ。私の主はお嬢さんですよ。私の見せたいものはそこにしかないのです」
『そう…なら私はアルを信じて付いていくわ』
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