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君の名前をもう一度。





璃子との仲直りを無事に果たした大輝は璃子が居酒屋に出勤する時間まで愛を育んだ。
久しぶりの充実感と幸福感、璃子の存在の大切さが身に染みた1日だった。
家に帰った後、親に何も言わずに朝早くから出て行ったことを心配され怒られたが、仲直りの報告をしたら一安心した、とわらってくれた。






次の日ー…。



「よう、原田。意外に早いな」


『くああ、なんか早く起きて一番乗りだった』



お昼、集合場所の駅へと早く着いた大輝は人が行き交う駅の出入り口の端に立ってあくびをしながら携帯で暇つぶししていた。
少ししてどこかの電車が着いたのか駅から出ていく人が増え、その中から佐藤が出てきた。電車の到着時間的にちょうどいい時間がこの時間だったのだろう。
腰に手を当ててこちらを見る佐藤は私服姿にどこか新鮮に感じる。
学校では一緒にいることが多いがプライベートで会うことはあまり無く思ったよりもおしゃれに気を遣っているのか大人っぽい服装をしていた。




「おい原田、彼女持ちの割に普通の恰好なんだな」


『え、服装に彼女もちもなにもあんの?』


「彼女の前でもそんなんだったのか」


『そこまで服に興味なくて、ダサくなければいいかな、くらい』


「若いうちは楽しまないとっ」




佐藤はケタケタと笑って大輝の隣にあるベンチに腰かけた。
それから佐藤と会話していると集合時間になり、駅から鈴木と山口が出てきた。ふたりとも制服姿と違って女子らしいかわいらしい格好をしており手にはクラスみんなで作った大きな造花の花束と色紙が入っているであろう袋を手に提げている。佐藤が駆け寄って荷物を受け取っている。
そのままカツコツとヒールとコンクリートがあたる音がして4人が無事に合流した。



「ごめーん待った?」


「いーや、俺らもさっき着いたとこ」


「ももちゃんギリギリまで服装が決まらないとか言うんだもんびっくりした!」


「それはごめんって!」



女子ふたりがきゃっきゃとじゃれて佐藤がそれを見て笑っている。
これが本来の高校生の在り方か、と少し気おくれのする大輝。
高校生は謳歌しているつもりだが、璃子しか見てこなかったためにほかの女子に目をやるタイミングはなかった。梨子以外では。



「大輝くんもごめんね、休日に呼び出しちゃって」


『あーまぁ。俺も梨子の姉ちゃんの代わりに見舞いに行く予定だったし』


「先に用事済ませるか?昼飯がまだならすましてからでも良いけど」


「ごめーん…私食べ損ねた…」


『俺もまだだわ』


「私も朝食べたきりだから軽くつまみたいかな」


「じゃあファミレスかなんか行くか」



意見が一致して4人はファミレスへと足を運んだ。
ご飯食べてない組はご飯を食べて軽食組はサイドメニューやデザードを食べた。
大輝は梨子が面会謝絶をしていたことを話すか悩んでいたが、楽しそうに話している3人を前に暗くなるような話を切り出すのに気が引けて何も言えないでいた。
面会ができるようになっていることを祈るしかできない。
だべるのもほどほどに全員が食べ終わったのを確認して佐藤が「行くか」と先陣を切った。
ご飯組が支払いを持ち、ファミレスを後にした。
病院までは歩いて20分ほど。
女子のヒールのことも考え駅へ戻ってバスに乗っていくことにした。



「そんな歩くと思わなくて普通にヒール履いてきちゃった」


「女子の戦闘服みたいなもんだろ?しゃーない」


「なんかその言い方かっこいいw」


『佐藤、そんなに饒舌だったか?』



運よく自分たち以外の乗客がいないバスの中で談笑をする。楽しく時間を過ごしていると10分もかからないくらいで目的地の大病院へとバスが止まった。
大輝が入り口へと歩いて扉を開ける。
その後ろをきょろきょろしながら3人がついてくる。あまり3人とも病院とは縁がない健康体なため大病院にくることなどなかったらしい。
大輝も最初の頃はなにもわからず困惑していたのを思い出した。
受付の看護師に話しかけて梨子の見舞いだと伝えた。
看護師の表情は前と変わらず申し訳なさそうに眉を下げている。
だが今回は大輝だけではなく、後ろに造花の花束や荷物を持った友達3人がいる。



「少々お待ちください」



受付の看護師は奥のナースステーションへと入っていった。
以前と対応の違うことに大輝はほっと肩を撫でおろし、3人の方へと振り返った。



「どうしたの?お見舞いできそうかな?」


「戸叶の調子が悪いとか?」



看護師が奥に行ったことを不安に思っているのか大輝に詰め寄ってくる。どうどうとなだめてとりあえず待つように言うと、そわそわとしている。
ほどなくして受付ではなく奥の通路から見慣れた看護師が出てきた。その姿は木嶋だった。



「大輝くん、お久しぶりです。梨子さんのお見舞いありがとう」


「あ、木嶋さん…えっと梨子は…」


「……すみません。会わせられるような状態ではないんです」


「あ、あの!梨子は!梨子は大丈夫なんですか!」


「意識は戻ったって大輝くんから聞いて…」



大輝と話していた木嶋のところに女子ふたりが焦ったように話しかけている。
佐藤もふたりを止める様子無く、木嶋の返事を待っている。
申し訳なさそうにしている木嶋の様子に鈴木と山口がしゅん、と木嶋から離れた。




『あの、木嶋さん。梨子の状態だけでも教えてもらえませんか。俺たちが力になれるなら梨子に会わせてほしいです』


「…ここではあれなので、場所を変えましょう」




木嶋が奥の通路へと案内する。それに続いて大輝が歩き出すと後ろをまた3人がついてくる。車椅子や松葉杖をついている患者さんに気を遣いながらとある診察室の一室へと案内された。
5人もはいると少し手狭な空間。
しん、と静まり返ったその空間に木嶋の声が少しだけ響く。



「梨子さんは、今なんらかの精神的ショックにより、心を閉ざしている状態です」


「心を、閉ざしてる?」


「具体的にはどんな…」


「会話をできる状態ではなく意識はあるけれど抜け殻のような状態、です」


「…そんな」


「おい原田、そんな説明聞いてないぞ」


『ごめん、俺もそんな状態だとはしらなかったんだ』


「梨子さんの容態に変化が起きたのは最近のことです。それからは親族以外を面会謝絶の状態だったので大輝くんも入れなかったんです」


「め、面会謝絶って…」


「ですので、今の状態の梨子さんはお見舞いに来てくださった皆様にもショックが大きいですし、梨子さんもあまり見てほしくないのではないかと思っています」


『…木嶋さん、その梨子の精神的ショックの原因って記憶のことですか?』


「…すみません。私たちにもわからないんです」



木嶋は頭を下げた。
大輝も何も言えずにあの日、璃子が梨子のお見舞いに行った日のことを思い出していた。
すると大輝の後ろからガタッと音がして振り返った。
鈴木が身を乗り出して木嶋に詰め寄った。



「…お願いします!梨子とあわせてください!私たち、文化祭で梨子も遊びに来れるようにって企画してるんです!クラスみんなで、梨子も欠けずに最後の思い出を作れるようにって…だから!だから梨子にもそのことを伝えたいんです!」


「…!そうだよ、梨子との思い出の写真をたくさん飾ってみんなと過ごした楽しい思い出を思い出してもらおうって…!」


『木嶋さん、俺からもお願いします』


「お願いします!」



4人で頭を下げる。
木嶋は慌てて頭を上げるように言うが、会いたい思いを必死に伝える4人は頭を上げることはなかった。
鈴木と山口はお互い震える手を繋いで「お願いします」と言い続けている。
いつもおちゃらけている佐藤も無言で頭を下げ続けている。
最終的に木嶋の方が折れて、梨子の様子を一度見てくる、と4人で診察室を出て休憩所に案内された。





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