君の名前をもう一度。
『俺が、提案するのは…思い出を振り返るレクリエーション的な……ものです』
「レクリエーション?」
大輝の提案に意図がわからないクラスメイトは聞き返した。
頭の中でさっき4人で話した内容をまとめながら説明していく。
『えっと…まず始めに俺が最初に提案した展示。あれを用いてみんなで3年間で撮った写真を集める、もちろん強制じゃないから使っていいものだけを使う。そこから何個かピックアップして簡単なミニゲームにできそうなものを選ぶ。それをお客さんに体験してもらうゲームにしようと思ってる』
「例えば部活でサッカーしてる写真を使うなら簡単なフリーキックをしてもらって得点をランキングなり景品がでるなりするとかな」
「あとは授業風景とかなら、クイズ問題を出したりとか」
大輝の説明に佐藤と鈴木も補足して説明をしてくれた。
その補足もあってかクラスメイトみんなに伝わったらしく各々評価している。
ドキドキしながら佐藤の手を握る手に無意識に力が入る。
「原田!大丈夫だ!もしダメだったとしても俺たちの案を出せただけでもなんか俺うれしいわ!」
「そーだね!大輝くんがいなかったらこうやってみんなに言うこともできなかったよ」
「私もそう思う!」
3人の笑顔が心に染みる。
すると、ざわついていたクラスメイト達からひときわ大きな声があがった。
「俺はありかな、って思う。各々できることが割り振られると思うし、何かひとつに縛られないのはみんなにウケると思う!」
「私たちも賛成かなーウチらの写真結構あるしね?」
「予算的にも案外何個か作れそうじゃね?」
予想よりも好感触なクラスメイト達の声にほっと胸をなでおろした。
佐藤たちもガッツポーズをして喜んでいる。
担任もチョークで大輝たちの案を付け加えて、その上にはなまるを書き足した。
そして前を向いて手を2回たたいた。
「よし、じゃあ大方決まっている気がするが多数決を取るぞー。ほかに案があるものはいるかー?」
しん、と静まり返る教室。ほかに案があるものは出てこず、そのまま多数決の流れへとなった。
前から出ていた案から多数決は取られていき、少数がお化け屋敷や相席屋で手を挙げた。
そして残るは大輝たちの案。
「じゃあレクリエーションが良いと思った人ー」
大輝たちが手を挙げる。
それに続いて何人かの生徒も手を挙げる。クラスの半数の票が大輝たちの案に入った。
正の字を書き終えた担任が前を向いて口を開いた。
「よし、じゃあ今年のウチのクラスはレクリエーションということで!今日はもう時間がないが次回のHRからは中身を決めていくから各自考えておけよ。あと、原田と佐藤。ふたりは提案者だからなそのままウチのクラスの文化祭実行委員に任命するぞ。鈴木たちもフォローしてやってくれ」
『ええええええええええええ』
「や、山ちゃん!それは違うだろっ」
最後はクラスメイト達に笑われて無事に文化祭の企画決めは終わった。
自分の意見も言えたが、当初の目的の梨子の写真の展示については急がず押し付ずにできる範囲でやっていこうと思う。
担任に任命され文化祭実行委員となってしまった大輝と佐藤はさっそく今日の放課後、企画案発表のため収集されたのであった。
「お疲れ!ふたりとも!」
「お、鈴木待っててくれたのか」
『つ…疲れた……』
文化祭実行委員として会議のようなものが終わった後、教室へと戻ったふたりは残っていた鈴木たちに迎えられた。
談笑をしていたであろうふたりの間にある机にはノートが広げられていた。
適当にふたりの近くの席に腰を掛けてノートを覗き込む。
『なんだそれ?』
「あ、これは夏休み明けから今までのノートの写し。梨子のために用意しとこうかなって」
「そうそう梨子ちゃんのことだけどもし今から時間あれば梨子ちゃんのお見舞い品もっていかない?」
「え、今から?面会時間とか大丈夫なん?」
会議で遅くなったものの今は17時前。病院までは自転車で30分もかからないくらいだが。
梨子は今面会謝絶中だ。解除されているかはわからないがそれほど精神的につらい状態なのかもしれない。
大輝の方を見る3人の視線におずおずと答える。
『今からだと梨子に会えても話す時間とかないし休みの日にゆっくり行こうぜ』
「あーまぁ確かにそうか。いくら記憶喪失って言っても会ったら会ったらでいろいろ話したくなっちゃいそう」
「うんうん、私も梨子ちゃんと話したいなぁ」
大輝の一言に梨子と何を話すか花を咲かせる女子達。
佐藤の方を見ると、神妙な顔つきでこちらを見ていることに気づいた。なんだよ、と口の動きで伝えると、佐藤は重そうに口を開いた。
「んや、あんな喧嘩してた割にはなんか、必死っていうか…」
『…』
担任に言われた時と同じようにドキッと心臓がはねた。
そういわれても仕方がないような行動をしているとはその時から自覚を持っていたがまさか佐藤に言われるとは思わなかった。
だが、ここで正直にすべてを話すには心の準備も心の整理もついていない。
佐藤から目をそらして鈴木が書いたであろうノートを見つめながら口角だけあげた。
『はは、なんか中身が小学生だと子供に優しくしなきゃみたいなあれだよ。まだ性格のひねくれてない無邪気な感じ』
「…そうか、まぁそうなるか」
納得したのか、してないかはわからないが佐藤はそれ以上言及してくることはなかった。
途中から女子達も会話に交じって日曜のお昼にお見舞いに行くことを決めてその日は解散することになった。
ひとり家路を急ぐ大輝は今日1日を思い返す。
梨子のために文化祭企画を提案してそれが形になりそうだが肝心の梨子を文化祭に連れてこれるかがこれからの課題となる。
脚のリハビリは率先して手伝うつもりだったがまさか面会謝絶になるとは思わなかった。面会謝絶中にリハビリが進んでいればいいのだが。
文化祭に来た梨子は、楽しんでくれるだろうか。またあの笑顔を振りまいてくれるだろうか。
いつの間にか自分の中であの笑顔が忘れられなくなっている。
家にたどり着いた大輝は自転車を止めて鍵をかける。玄関のカギを取り出して鍵を開け家の中へ入る。
『…ふぅ』
リビングのソファに雪崩れるように座り、携帯を手に取る。
璃子からの返信はなかった。
土曜日の予定はない。璃子の家に行こう、と予定を立てて重い腰をあげてキッチンの冷蔵庫に吸い込まれるように歩き出す。
中を物色してこの空腹を紛らわせるものを探す。
適当に魚肉ソーセージを引っ張り出して歯で袋を破って中身を貪る。
璃子にもう一度会えたのなら、なんて言って声をかけよう。
電話では「どこか遠くへ行こう。そこでふたりだけの結婚式をあげよう」と言っていた。
うーんと唸りながら最善の行動を考える。璃子とこんなにも関係がこじれたことがないことで何が正解なのかがわからない。
ただ梨子のことで気持ちが浮ついていた自分の行動が璃子を追い詰めてしまっていたのは担任からの言葉で気づいた。
もう一度、璃子に気持ちを伝えるべきなのだろうか。
食べ終わった魚肉ソーセージの袋をゴミ箱に放り込んでソファへ寝転がると眠気が襲ってきた。
本能のままに目を閉じて意識は遠のいていった。
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