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君の名前をもう一度。





「ねえ」



みんなが話し合う中、ひとりの女子の声がその空気に割って入った。短い呼びかけだったが声がみんなに届いたのか会話が止まり、声の主の方へ向いた。
大輝もその視線を追って女子の方を見た。



「ももちゃんのヘアーセットコレクション、ずっと保管し続けてたんだけど、それを原田くんの案と組み合わせて飾って、文化祭ではお客さんのヘアーセットをするっていうのはどうかな?」


「え?私の?」



女子の言っているももちゃん、とは鈴木のことである。
突然話題に出た鈴木は目を丸くさせて自分のことかと確認している。女子からはウケがよさそうだが男子の方からは賛同の声はなかった。



「髪に興味あるのは女子くらいだろ?俺たちにせいぜいできるのはワックスとかだし、知らない男の髪を触るのは、なぁ?」


「だよなぁ…一般客でハゲおやじとかきたらどーするよw」


「お客様ーセットする髪がございませんってかw」



バカにするような会話をする男子サイド。
大輝は女子の提案が出てきたときにこれだ、と思ったものの男子からの意見もわからなくもなかった。
ここの問題を超えられれば男女ともに意見を受け入れてくれるだろう。
もう一押し、何かないだろうか。



『……こ、こういうのはどう?えーと…ヘアセットカフェ…みたいな感じでカフェなんだけど、女性限定でヘアセットができて…男子はカフェ運営とか…』


「えー…俺らカフェかぁ」


「女性にはウケそうだけど…そもそも一般学生にヘアセットしてもらいたいって人いるのかな?」


「専門学校とかでもないもんね、ココ」



大輝が苦し紛れに出した案は逆効果。クラスメイト達は渋い顔をして暗黙の了解で却下となった。
また一から企画案の絞り込みをし始めるクラスメイト。担任も話を聞くだけで何も言わない。
刻々と時間が流れる。



「おい原田」


『…ん、佐藤か』



いつの間にやら大輝の立っている場所から一番近い前の席に来ていた佐藤。その近くには鈴木とさっき発言した女子も佐藤の近くの席に座ろうとしていた。



「さっきの鈴木の案、俺も良いと思うんだけどなんかいい案ねーかな」


『ああ、ヘアーデザインか。俺もそう思ってたところ』


「いやいや私のことはきにしないで」


「ももちゃんの腕は確かだよ。中学の時から女子に人気だったもん」



ひとりでは焦りでこれといった良い案が思いつかなかったが3人が来てくれたおかげで冷静に考えられるようになってきた。
幸いほかの生徒たちも考えがまとまっておらず考える時間はありそうだった。
4人で良い案をひねり出す。



「カフェはウケが良くなかったな、それとは組み合わせるをやめよう。ほかに相性悪そうなのはお化け屋敷と迷路、たこ焼き屋も微妙だな」


「残るのは、展示か相席屋…」


「これは…ほぼほぼ一択だね…」


『相席屋か……。保身に走るとカフェとなんら変わらなくなるから差別化しながら考えないとだな…』


「食べ物の代わりに…ヘアセットとか…」


「さっき却下になったのと一緒だよ…それ…」




無理なのだろうか、と4人の顔が暗くなり始める。
もう何も案が浮かばない。梨子を喜ばせたくて暗い思い出じゃなくて楽しかった思い出で記憶を思い出してほしくて写真やみんなと一緒に交流することを文化祭の催し物にしたかった。
自分一人の思いを無理に押し通すわけにもいかず、4人に無言の時間が流れる。




「……今から新しい案って出せると思うか?」




沈黙を先に破ったのは佐藤だった。
神妙な顔つきで大輝の方を見る。思わぬ発言に少し驚いたが真顔で縦に首を一度振った。
それを見て佐藤は女子ふたりの方に目を向けた。ふたりとも少し不安そうに佐藤の方を見る。



「俺が今、思いついたのは…原田の案のみんなから写真をもらって展示をする。その写真の中にあることをここで再現をするんだ」


「…つまり例えば食堂でご飯を食べている写真だったら食堂のご飯をここで食べるってこと?」


「忠実にはできなくてもそれっぽいことを一般客にも体験してもらう感じ…かな。」


「体育館で遊んでるならここで小さなゴール作って遊んでもらうのもいいかもね」


「そうそう、そんな感じ。んで、鈴木のヘアセットの写真であればお客さんが望めばそれを体験できるってことにすれば…」


『みんなの意見がまとまる…かもしれない』


「ただできることは限られるし、全部を全部するわけにもいかないからそれでもめなければ…」



佐藤がそう言い終わる前に視界の端で何かが動いた。
そちらに目を向けると、先ほどまで隣でしゃがんでいた大輝が立ち上がっている。決意したかのような力強い瞳で前をむきながら。
まさか、と思い佐藤が大輝の腕を掴もうと手を伸ばすと、一瞬で伸ばした腕が逆に大輝に掴まれていて、そのままぐいっと上へと引っ張られる。反射的に立ち上がる形になる。
ふたりが立ち上がったのを見て鈴木達もなぜか立ち上がる。
3人はもう決意を決めたようで、佐藤も諦めて腹をくくることにした。



『みんな!もう一度聞いてくれ』



大輝が声をあげる。クラスの視線がまた大輝に集まる。
担任も腕を組んで目を閉じていたが大輝の方を見た。
先程までは一人で立っていた場所に今度は3人の心強い友人がいる。大輝は拳に力を籠める。



『もう案は出し切っていたんだけど……もうひとつ案を出させてほしい』


「まぁ自信があるのならいいと思うぞ、私は」



担任の様子を伺うと、にっこり笑って頷いた。
クラス中の視線を浴びながら今度は上手くいくように祈る。
覚悟を決めていると、ふと自分の手に何かが触れた。視線を手元に向けると佐藤が大輝の手を握っている。
何事かとよく見ると女子2人も手を握り合って鈴木と佐藤も握り合っている。4人が団結している、そう大輝に鼓舞しているかのようだ。
3人の気遣いと激励に大輝は笑ってクラスメイトに向けて口を開いた。





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