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君の名前をもう一度。





璃子との通話が急に途絶えて何回もかけなおしたが繋がることはなかった。トークを何度も送っても既読すらつかない。
妙な胸騒ぎがして梨子の見舞いに行ったという璃子の言葉を頼りに病院の周りを走り回って璃子を探したが見つからなかった。
数時間探し続けて体力も尽きて諦めて病院の中へと入っていった。



「こんにちは」


『こんにちは…すみません戸叶梨子さんのお見舞いにきたんですけど…』



大輝が息を整えながら看護師にそう言うと、一瞬硬直した看護師は眉を下げて申し訳なさそうに口を開いた。



「申し訳ございません。梨子さんのご気分が今日は優れず本人から今日お見舞いに来られた方に断りを入れてほしいと言われていまして」


『え…?!でも今日お姉さんはお見舞いに来たって…』


「…申し訳ございません。私共にはお答えできません」



そのあと会話が進むことはなく、諦めて大輝は病院を出ることにした。
何が起こったのかわからないまま物事は進んでく。
様子のおかしい璃子。急な面会謝絶の梨子。
ふたりの間に何かがあったのだろうか、と大輝は考える。



『…璃子が、急に梨子になくなった記憶のことを話すとは思えないし…』



璃子がもし今日見舞いに行って梨子に真実を話したとしてそのショックで梨子が面会謝絶をしたのなら今の状況になるのはわかるが、
妹想いで誰よりも家族を大切にしている璃子がそんな早急な判断で行動するとは到底思えない。
焦りと不安で鼓動が早まる。
悪いことが起こらないことを祈りつつ家に帰宅する大輝だった。













数日後、学校。



「原田ー!」


『ん、どうした』



教室で普段通り授業を受け、休憩時間に佐藤が名前を叫びながらこちらに駆け寄ってきた。
その隣には鈴木の姿もあった。



「あのね、この間話してた梨子のお見舞い品のことなんだけど」


「色紙とみんなで一本ずつ簡単な造花を作って花束にしようと思うんだけどどうかな」


『いいんじゃない?生花はダメなところ多いけど造花なら病室に飾っておけるし』



大輝の言葉に佐藤と鈴木は顔を見合わせて笑った。そんな二人を見ていつの間にこんなに仲良くなったのか、とあきれながら笑う。
面会謝絶されたことが気にかかるが、看護師を経由すればお見舞い品も渡されるだろう。それを見て梨子にまた元気な姿を見せてもらいたい。
その日のHRで佐藤と鈴木の提案がクラス内に発表され梨子と仲良かった女子や梨子のことを気にしていた男子たちが進んで話し合いをする姿が見られた。
次の日からお見舞い品の準備は始められた。色紙は担任が買ってくれることになり、造花に必要な材料はクラスメイト達で折半になった。
鈴木と佐藤がもうすでに造花の材料を買ってきており、思いのほか順調に造花は作られていった。



「手先が器用じゃねーからむずいなこれ」


「あはは!それ本当に花をイメージして作ったの?」


「団子じゃん!」


クラスメイトたちもまだ忙しい人もいるなか時間を見つけて協力してくれている。
形も大きさもバラバラな色とりどりの造花と伝えたいことがたくさん書き込まれた色紙。
どれも3日ほどで完成された。
クラスメイト達から受け取った物を3人で集めて綺麗にラッピングをし始める。



「よし!これでいいかな!」


「おおー!ありがとう鈴木!やっぱ女子ってすげーわ」


『本当だな。男子の造花の酷さ、見れたもんじゃない』



造花を紙でくるんで鈴木が丁寧にリボンを付けた花束を見て3人で笑う。
女子たちが梨子に渡してほしいと個人的に贈られたものも袋にまとめて次の休日に3人で病院へ渡しに行くことになった。



「ねぇ大輝くん」


『ん?』


「梨子は今、どんな感じなの?文化祭にもこれなさそうなのかな」


『文化祭か……』


「高校最後の文化祭だもんなぁ。去年はなんか、こう不完全燃焼だったよな」


「だよね、今年は盛大にやりたいね」



梨子はリハビリも始める予定だと言っていた。
もしかしたら、と悶々と考える。その間佐藤と鈴木は去年の文化祭のことで盛り上がっていた。
数分考えこんでいると大輝に気づいた鈴木が顔を覗き込んできた。



「大輝くん、大丈夫?」


『…っえ、ああうん』


「そんな戸叶さん深刻そう?」



ふたりの顔を見てあることを思いついた大輝は椅子から立ち上がった。
急に立ち上がった大輝に驚くふたりを置いて教室から出る。去り際に一言だけ残して。



『ごめん、梨子のことは山ちゃんせんせーに相談してから言うわ!』


「え、お、おう。待ってるわ!」



残されたふたりは顔を見合わせて不思議そうに顔を傾げた。










数分後 職員室


コンコンッ


ガララと扉を開けているであろう人物の席に目を見やる。
他の教員と会話していてこちらに気づいていないようだ。ほかの教員の視線を感じながら職員室内に入って目的の人物のところへ歩く。



『山ちゃんせんせー』


「ん?おお、原田か。どうした?」


『あー…えっと、相談したいことがありまして』



ちら、担任と話していた先生の方を見ると察したのか笑顔で担任に一言言って去ってくれた。
改めて担任が全身でこちらを向いて用を訪ねてきた。



「それで、相談ってどうした?ああ、就職の結果か?」


『それもありますけど…その、梨子のことで』


「そうだな。結果は家に郵送しようと思っていたし今言っても良いがどうする?」


『…じゃあ中庭に行っても良いですか』



担任は快く承諾してくれてふたりで中庭へと移動をした。運よく中庭には生徒の姿はなかった。
簡易的なテーブルに腰かけて先に担任が口を開いた。



「よし、じゃ早速だが原田の面接結果だ」


『…う。とうとうこの時が来たんですね…』



手渡された紙を受け取る。三枚折にされており、それをおそるおそるゆっくりと開く。
パッと目に入った文字は結果の案内。定型文の後にすぐ結果は書かれていた。



『山ちゃん…合格だ!!!合格した!!!』


結果は合格、と書かれていた。パッと顔を上げて担任の方を見るとにこやかにこちらを見ていた。すでに結果を知っていたのかわからないがその表情に安堵感に包まれた。
ひとまずは自分の問題はこれで解決した。



『山ちゃんせんせーのおかげです。ありがとうございます!』


「いやいや、原田は見かけによらず真面目な時はまじめだからな」


『それは褒めてるんスかね』


「あはは!ごめんごめん褒めてるつもりだ。それで?次は原田の話を聞こう」



楽しそうに笑う担任は、平謝りしながら大輝の本題を促した。
思い出したかのように大輝の表情が強張った。
前回ここで大輝と話した時は大輝の梨子への感情の変化に不安がよぎった担任はその表情の変化も気づいた。



『…まず、梨子の現状はこの間話した通りです』


「うん。記憶が無くなってしまわれたんだよな」


『…それで璃子…梨子のお姉さんとこのことを伝えるか今でも悩んでいたんです』


「そうだな……難しい問題だと思う」


『でも、記憶が戻るのかさえわからない。その間梨子に隠し続けるのも無理なことだと思うんです』


「…どこかでつじつまが合わなくなったり環境の変化もあるだろうし」


『はい、なのでもう俺としては梨子に記憶喪失のことを話そうと思ってます』


「…辛い役を任せてしまうのが申し訳ないな」


『それで、そのあとのケア…というか梨子の記憶を戻す手伝いを山ちゃん先生含めてクラス全員に頼みたいんです』


「?どういうことだ?」


『梨子を文化祭に呼びたいんです』


「記憶がないのに…学校に呼ぶのか?教員として復学は早い方が助かるが……」


『復学は…まだ難しくても文化祭に”客側”として呼ぶことはできると思うんです』


「なるほどな」


『そこで、俺らのクラスの出し物を3年間の思い出を飾る展示会にしたいんです』




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