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君の名前をもう一度。




(このpageは璃心と大輝のほのぼの回です。飛ばして読んでもストーリー上あまり関係ないです)






『ん……』




朝。
甘い香りとカーテンから差し込む光で目が覚めた。
ぼんやりと天井を見つめていると右隣から温もりを感じた。
視線を向けると璃心がすやすやと寝息をたてて眠っている。大輝の右腕ががっちりホールドされていた。
そうか、昨日あのまま璃心の家に泊まったんだ。
と、思い出しながら頭上にある収納の上に置いた携帯を手に取る。
時刻は5:43。いつもの朝練に起きる時間くらいか。習慣というのは恐ろしい。彼女と甘い時間を過ごして泊まってもこの時間に起きるとは。
璃心はいつも6時に起きて仕事の準備をしていたはず。
だが昨日あのまま眠りについてしまったために璃心はお風呂に入れていないはず。かろうじてスーツは脱がせたがこのまままたスーツを着て出社はできないだろう。




『………璃心、璃心起きて』




少しだけ揺する。
すぐに璃心は瞳を開いてぼんやりとこっちを見ている。寝ぼけている璃心の姿に少しときめきながらも身体を向き合わせておでこにキスをする。
頭が冴えてきたのかニッコリと微笑んで「おはよう」と言った。
ふたりとも起き上がって伸びをする。大輝の方が朝が強いのか璃心はまだぼんやりとしている様子。




『璃心、シャワー浴びておいで』


「ん……?うん、ありがとう」



大輝に言われて気づいたのか、ベッドから起き上がってクローゼットの中の棚から下着やらを取り出した。
大輝に隠すことと照れることもなく動いてるあたり気づいてないのか頭が起きてないのか。
パタパタと部屋を出て浴室の方へと向かったようだ。
残された大輝は何もしないわけにも行かず、璃心の部屋を出てリビングへと向かった。
相変わらずの大惨事が起きているリビング。少し片付けるか、と置き直せる大きいものを記憶頼りに配置し直した。
散らばっているものは残すものか捨ててもいいものなのかの判別ができず、とりあえず拾い集めて1か所にまとめることにした。
割れてしまった写真立てや花瓶や鏡はキッチンを覗くと割れ物入れがあったためそのなかに慎重に捨てた。ほうきとちり取りなどはないだろうか、と探しているとキッチンのところにある裏口のところに立てかけてあった。それで破片等を拾い集める。
ついでにあった布巾でキッチン付近の調味料入れが散乱している場所と、テーブルなども拭きあげて、椅子を配置し直す。
ふう、と応急処置のような掃除をし終えて璃心の朝食を準備しようと冷蔵庫へ向かった。
料理は何もしたことがない、とりあえずすぐ食べれそうなものをチョイスしてみた。
食パンと、チーズ、それにハム。玉子は自信がなかったからやめた。
マーガリンの使いさしがあったのでそれも取り出した。
食パンにマーガリンを塗る。その上にチーズとハムを乗せてサンドする。
オーブントースターに入れて様子を見ながら焼く。
ちょうどその頃璃心がお風呂から出てきた。お風呂上がりにも関わらずすでにスーツのシャツとスカートとを着ている。
頭にバスタオルを乗せて何かを探しているようにキョロキョロとしている。



「あ…掃除してくれたんだ、ありがとう」


『ぃゃ、何もすることがなかったし…でも捨ててもいいものなのかわからなかったからまとめただけなんだ』


「…んーん、こうして散らばってないだけ少し落ち着く、鏡割れちゃってたかな」


『あ…うん。割れてたから割れ物入れに入れたよ』


「そっか、洗面台で乾かしてくるね」



璃心は大輝の返事に少し残念そうにドライヤーを持って仕事鞄から化粧ポーチを取り出して洗面台へ向かっていった。
パンに焼きめが付いたのを確認した大輝は幸い無事だった食器棚から平皿を手にとってパンを乗せた。
飲み物は何がいいだろうか、と冷蔵庫を見て悩んでお風呂あがりだからと冷たいお茶にした。
時計を確認すると6:29になっていた。なんとか璃心の仕事には間に合いそうだと一安心して皿を乗せたおぼんをリビングのテーブルへと運んだ。
その時大輝の携帯が鳴った。




『もしもし…』


「大輝!!あんたなにやってんの!!昨日飛び出してから璃心さんの家に泊まるだけ言って!!!」


『ごめんて…帰ったら話すから今はちょっと待ってて』


「帰るっていつ頃になるのよ。ご飯は用意してないからね」


『あー…飯はコンビニで買うよ…これから病院にも行く予定だから昼過ぎには帰れるようにするから』


「ご迷惑にだけはならないようにね、ほんと全くあんたは…」



『分かってるよ…じゃあ切るからね』




母からの小言を聞き流しながら通話を切る。
廊下の方を見るとちょうど璃心が髪を乾かし終えてリビングに入ってくるところだった。
髪も綺麗にまとめられて化粧も薄くしてあるようだった。仕事用の支度をした璃心は本当に大人っぽくて好きだった。



「わ、朝ごはんまで用意してくれたんだ、ありがとう」


『食材勝手に使ってごめん。けど、できる限り失敗しないようには頑張ったから…』


「んーん、ありがたいよ、食べてもいい?」


『どうぞ、召し上がれ』




席に着いた璃心は手を合わせてパンをかじった。
サクサクっと焼いたパンが音を立てる。
美味しそうな顔をして頬張る姿を見て、大輝は優しい笑みを浮かべていた。
ゆっくりと食事を終えた璃心は身だしなみを整えてカバンを持って仕事へ行く準備が整った。
それと同時に食事の片付けを終えた大輝も持ってきた物をポケットに突っ込んで璃心と一緒に家を出た。
出勤時間より少し早めに出た璃心は大輝と分かれるまでゆっくりと歩いた。
昨日よりも元気が出た璃心の姿を見て大輝は心から喜んでいた。それに気付いている璃心も安心させるためにたくさん笑った。
璃心の心は思ったよりもダメージを受けていた。それは本人も気付きたくない事実だがこの傷だけは大輝にも見せたくはなかった。
笑顔でいれば皆が安心するから。それを改めて胸に刻み込む。それが自分を傷をつけていることにも気付かずに。



『行ってらっしゃい、璃心。気をつけてな』


「ありがとう、大輝くんも梨心のことよろしくね」







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