吊り橋効果?
「…私の立場はよーっくわかったわ…それで何をさせたいのよ」
睨むことだけはやめずに先程の勢いを抑えて話すと、少しの間の後に暗転していたモニターに白や黒とは違う色が広がった。
徐々にくっきりしていくそこには男らしきシルエットが映し出された。
―ふふふ…
不敵の笑みを浮かべたその人影は、目元にふざけた仮面をつけたひとりの人物。
その姿にくぎ付けになって凝視をしていると笑みを浮かべるだけの男がバッと画面いっぱいに両手を広げた。
―ようこそ!!!僕のデスゲームへ!!!
ひとりだけ間違えたテンションで放たれた言葉に理解に苦しむ。
何も言えずに言葉の意味を理解しようとしていると唇を尖らせた男が私に文句を言い始める。
ーえ?無言?そんなことある?デスゲームだよ?
デスゲーム?その単語は現実味のない言葉。いわばマンガとかアニメとかでよく見るものじゃないの?
”目が覚めたらデスゲームに巻き込まれた”ってやつ。
それに今、私自身が巻き込まれているってこと?
―お?わかってきた?わかってきたなら追い打ちしようか?
「…?」
―デスゲーム…すなわち死のゲーム!!!そう!脱出できなければあんたはここで死ぬ運命ってこと!!!
私の反応を楽しむように言葉を並べ、愉快そうに笑うモニター越しの男。
声だけではわからなかったがこうしてみると同い年くらいに見える。
いや、それよりも私には気になることがある。
―?どうした?恐怖で何も言えないか?考えられないか?まぁそうだよなー!大体の参加者みんな固まってたもんなー!
「……じゃあ、ひとつだけ」
―なんだ?命乞いは聞かないぜ。死ぬか脱出するしかあんたの運命はないぜ
私は俯いて震える手をぎゅっと握りしめる。
怒り?恐怖?今はそんなものよりも。
「その目元を隠してるマスクを取ってくれないかな??!」
―……………は?
あんぐりと口を開いて男は先程までの饒舌な喋りさえも忘れた。
ドキドキと鳴り響く心臓の音が耳元で聞こえるようだった。キラキラと輝く瞳はモニターに映る男に向けられていた。
たじ、と男が一歩後ろに引いた。
「なんだろう、女の勘って奴かな?ぜったいあなた私の好みの顔してると思うんだ。マスクしててもわかる、すっとした鼻に目元だって二重でくっきりしているでしょう?頬もふっくらお肉がついてるから少し肉付きがいいのかな。唇もぷっくりしててめちゃくちゃ好み。モニター越しでも確信する。絶対に私のタイプ」
―ちょちょちょ…!お、お前さっきからなんなんだよ!俺よりもまくしたてるんじゃねえ!誰が外すかこっちが恐怖すら感じるわ!
「えーちょっとだけ!ね?本当に少しだけ!さきっちょだけ!!!」
―本当にお前女かよ!!くっそ!誰だこんなやつ連れてきたのは!!
「どこにいけば会えるの?ねえねえ?それか途中で顔を見せてくれる演出とかある?」
―良いから大人しくデスゲームしてくれ頼むから!!!!!!
ぶつん、とモニターが消えた。
興奮が冷めぬまま鼻息を荒くしていたが、真っ暗になった部屋を見て現実に引き戻された。
はぁ、と一息吐いたところでモニターにまた何かが表示をされた。
―デスゲーム 第一弾「協力者?敵?裏切りゲーム!」
説明:ルールは至って簡単!この部屋から脱出をするだけ!
でもチュートリアルと違ってこの部屋に全部の謎を解くヒントも
アイテムがあるわけじゃない。
そこで必要なのが部屋の一角にあるリフト。これは上の階と繋がっていて
もうひとり君の協力者がいるんだ。相手から交換が申し込まれると
君は承諾か拒否かを選べる。君の必要とするアイテムを協力者が持って
いる可能性があるからぜひ交換をしてね!もちろん君から申し込むことも
できる。率先して利用しよう!
そして、このゲームには勝敗があるんだ。
勝つ条件はもちろん、相手より先に脱出をすること。
協力者よりも先に脱出をするんだ。そうすれば君は生き残れる。
敗北は、死。
大変だ!頑張って脱出してね!
「…頑張って……脱出してね……」
文のひとつひとつを読むけれども頭の中に入ってこない。
こんなの、協力者じゃない。
自分のためにアイテムが必要だけれど、相手の謎を解くカギを自分からも渡す。
協力しているように見えて取引だ。
駒をいかに進ませるか、そして相手が今望むものを渡さないように遅延をかけられるか。
頭を振る。
今はそんな場合ではない。一刻も早く私も謎を解かなければ勝つものも勝てない。
けれど私が勝ったら?
―敗北は死。
私が脱出する代わりにもうひとりは死ぬ?
……そんなこと、あってほしくない。おかしい。
もう一度頭を振る。
雑念が多すぎる。情報量がちっとも入らないのに多すぎて処理し切れない。
今は目の前の生還に向けて集中しよう。
「すべては主犯のマスクを取った姿を拝むために」
.