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吊り橋効果?








目が覚めたら見知らぬ部屋だった。
意識が戻ったとき、床の感触でいつもの自分の部屋でないことに気づいた。最後に自分が何をしていたか虚ろな意識の中で思い出そうとするが上手く思い出せない。
徐々に鮮明になる視界で部屋を見回す。
薄暗い部屋には心もとない照明と無機質な壁、数少ない家具が備え付けられていた。
だるい身体を起こして立ち上がると、頭に痛みが走った。



「いった……。なんだろ、殴られたのかな…」



後頭部を慎重に触ると少し腫れている部分があった。
自ずと自分が気絶させられてここに運ばれていたことに繋がった。
不安と恐怖心が襲い掛かる。いつもポケットに入れている携帯に手を伸ばすがもちろんそこにはなにもなかった。



「…くっそ」


とりあえず部屋から出るべく扉の方に歩き出す。
ドアノブに手をかけて回すが、それが動くことは無かった。淡い期待を胸にやったものの本当に開かないと更に恐怖心が沸き上がる。
後ろを振り向いて部屋を見渡すと、あることに気づいた。



「この部屋、窓がない…」



第二の脱出口である窓がなかった。薄暗い部屋に光をさすものが照明だけだったのだ。
窓がないということはここは地下なのだろうか。



「…監禁されてる…のよね、多分……」



犯人が誰なのかも見当がつかない。そんな監禁されるレベルの恨みを買うようなことをこの人生した記憶はない。
とりあえず現状をただ待つなんてことはしたくないので行動を起こすことにした。















私の名前は「柴 空藍(しば くうあ)」。春から晴れて大学1年生になったなんの変哲もない女子大生。
これといって特徴もない私は普通に進学をして普通に学校生活を送って普通にバイトをして普通に家に帰っていた。
だがその日も普通に学校に通って普通にバイトに行っていた帰り道、普通にいつもと同じ帰り道を帰っていた時に、普通でないことが起きた。
それが今である。
そこからの記憶がないということは帰り道に襲われたのだろう。



「……脱出できそうな道具がないかな」



扉を調べた時にふと視界に入ったのはこのドアはカードキーをかざすと開く扉なのがわかった。扉の隣にそんな機会が取り付けてある。
部屋の一角を見ると、なんだか不思議な箱があった。数字式の南京錠がかけられた大きな箱。
後ろを振り返って反対側を見る。大きめの棚には上段が両面の扉になっている。試しに背伸びをして開くと何かが入っているのが分かったが中までは手が届かなかった。
中段はガラスの扉になっていて中に何かが入っているのがわかるが、開くには鍵が必要なようだ。
下段の扉を開くと、すんなりと開いた。
中を確認すると、踏み台があった。



「あ、これなら上の物が確認できる」



踏み台を引っ張り出して棚の前に設置する。
上に立って上段の中身を確認すると、何かのブロックのようなものが3つあった。
首をかしげながらとりあえず手に取ると至って普通なブロック。



「…うーん」




残りの調べていない部分の部屋を見ると、いかにも謎解きですと言わんばかりの仕掛け。
それを見た瞬間に私の中の疑問が解消された気がする。



「この部屋、脱出ゲームみたいな部屋だよね」



カードキーで開く扉、謎を解かないと開かない箱に使ってくださいと言わんばかりのアイテムたち。そして極めつけの目の前の謎解き。文字だと説明しづらいのもなんとも言えない。



「監禁したのは愉快犯なのかしら…」



がんばれば脱出できそうなことに恐怖心も収まってきて、目の前の謎解きに集中することにした。
まずは最初に見た南京錠付きの箱の手掛かりは今はない。
そして大きな棚の中段のカギも今はない。
ならば目の前の謎解きだが、たまに脱出系のゲームで見かける4×4の絵柄の付いた正方形のパズルをスライドさせて絵柄を元の絵に戻すと謎が解けるものであった。
問題なのはその絵柄の完成形を知らないということだ。
ある程度勘で行けるかと思ったがなかなか苦戦しそうな模様のためあてずっぽうでは骨が折れそうだ。
どこかに何かヒントがあるかもしれない。
とりあえずそのヒントを見つけ次第謎を解くことにした。



「狭い部屋だから簡単かと思ったけど……ゲームみたいにはいかないか…」



脱出ゲームは暇つぶし程度にはやったことがあるだけなのだが、その時の経験がいきるかどうかはこの現実ではわからない。
ヒントは見えないところに隠されていることが多い。なら見落としがあるかもしれない。念入りにもう一度この部屋を探してみよう。



「…あるとしたらこの棚からかな。」



大きな棚をよく観察してみる。何か文字がかかれていたり謎解きのヒントがあったりすることがあったからだ。
側面にはなにもなかった。
下段にも、なにもない。
本当に何もないのだろうか、と少しだけ焦りながら踏み台を使って上段も確認してみる。背伸びをして奥の方まで顔を突っ込んで確認をする。



「…っう。埃っぽい…」



舞い上がる埃をできる限り吸い込まないように気を付けながら確認をするも、なにも見つからなかった。
ぼうっとする思考の中上段の扉を閉める。
私の現実逃避でここは脱出ゲームではなく本当に私は拉致監禁されているのだろうか。
一番最悪な考えがよぎって身体全体が震えだした。



「う、わ…っ!」



震えのせいで足の重心が変わり、踏み台から足をふみはずしてしまった。咄嗟に目の前の棚に手を伸ばしてしがみつく。
重みのある棚は私を支えるには十分で少し前にずれただけで私は落ちることなく済んだ。



「び、びっくりした……」



踏み台から降りてまだバクバク鳴っている心臓を抑えて息を整える。一歩間違えたら棚の下敷きになっていただろう。
だいぶ落ち着いたところで視線をあげると、ずれた棚の後ろに何かがあることに気づいた。
灰色の無機質な壁と違った色に吸い込まれるように近づくと、何かが描いてあることに気づいた。



「ふぬぬ………」



棚を引っ張って壁から離す。
ズズ、と少しずつずれて書いてある文字を確かめると…。
私は首を傾げた。



「”目を反らして”?」


なんだかよくわからない文字に余計にわからなくなる。
謎は深まるばかりで進展がない。
だが、こうして何かを見つけられたということは少なからず脱出ゲームという線がまた復活した。
無事にここから出られたらいいんだけど……。



「目を反らすって、どういうことだろう。何に対してだろ…。目を反らす…直視しない…視点を変える?うーん…」



何かヒントになりそうなものに繋がらない。
とりあえず部屋の中を歩き回りながら周りを見渡してみる。
すると、私の目の前に広がった光景に思わず足を止めた。




「……まって…この天井…あのパズルの模様に似てる…?」



上を見上げた時、灰色のコンクリートのような天井の模様が目に入った。
無機質なその模様が、あのパズルの模様だと気づいた。
あとは、どの角度から見たものが完成形なのかがわかればゴールに近づける。



「……」



パズルの前に立って上を見上げる。
どこか、どこかの端のピースがわかればあとはそれに合わせて天井を見ながらひとつひとつ合わせていけばいい。違うのであれば90度回転させたものをまた作ればいい。
途方に暮れる作業だが、やっと見えた活路。
やらないわけにいかない。
そして私は上を向いては下にあるパズルを解き始めた。




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