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記憶の欠片を落としました。







中学生になった僕は、記憶の中の彼女を実感できるように美術部へと入った。
絵を描く才能はないだろうけど、鮮明すぎるその記憶のおかげで表現には困らなかった。



「またその絵かよ」


「他に描きたいものはないの?」



まわりにの生徒からはよくそういわれた。
でも僕は一心不乱に記憶の中の彼女を描き続けた。
いつか、彼女にこの絵が届くようにと願いを込めて。










「朔夜…おばあちゃんが亡くなったの…」


「だから、今度、お葬式でおばあちゃんに最後のあいさつしに行こうな」



中学になっても両親の僕への態度は変わらずに小さい子をあやすようにそういった。もう慣れてしまったからなんとも思わないが、そろそろ直してほしい部分ではある。



『おばあちゃんが……そっか、寂しくなるね』


僕はそう言って自分の部屋へと戻った。母方の祖母なので母親の目は赤くなっていた。
自分の母親が亡くなるのはきっと辛いのだろう。
そんなことを考えながら勉強机からノートを取り出して描きかけのページを開く。美術部の時以外にも記憶の中の彼女の姿を描き続けている。



『…本当に、この人は誰なんだろう』



これといった特徴的な建物や服装もない光景の中では調べようもなく、わかるのは彼女の姿のみ。
どうしてこの彼女の記憶が急に思い出され、そしてこんなにも鮮明なのかもわからないまま。
一度、両親にもこの絵を見てもらったことがある。
幼少期に出会った女性の記憶がふと今になって思い出されただけかもしれない、と思い。
けれど、両親は顔を見合わせて首を傾げた。



「綺麗な女性だから会ってたら覚えていそうだけど…」


「僕にも見覚えないな」


両親が出会ったことがないのなら、そうなのだろう。
結局10歳の誕生日に思い出してから進展はない。



『……今は学生で身動きが取れないけど…大人になればきっと探す手段が増えるはず……それまでに探す方法を考えたり、情報を集めよう』



ノートに描かれた女性を見つめる。いつも僕の方を見て微笑んでくれる。この光景を実際に見た時の自分もこんな風に心が温かくなったのだろうか。
僕と女性はどんな関係だったのだろうか。









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