記憶の欠片を落としました。
僕には前世の記憶がある。
いや、正確に言うと記憶ではない「とあること」だけを鮮明に覚えているのだ。
それを持ってもう何回目かの人生。
僕はめぐまれた家族と環境に囲まれて幼少期より愛情を溢れんばかりに注がれて10歳の誕生日を迎えた。
大きなケーキに両親の満面の笑み。それに目を輝かせてケーキに灯されたろうそくを吹き消す。
その刹那、自分の頭の中に記憶が流れ込む。
見たこともない場所。見たこともない女性。
見たこともないものなのに、自分の中にはなぜかその光景が懐かしく感じられた。どうして今まで思い出せなかったのかと思えるくらいに。
自然あふれる場所に、淡いピンク色のドレスなのかワンピースなのか、長いスカートを履いた女性がこちらを見て微笑む。その口元には白い八重歯。茶色の癖一つない髪は風と踊っているようになびいている。幻想的な光景だった。
それからは、その女性のことが忘れられずに中学生になった僕はその女性に会いたいとまで思うようになった。
いや、歳を重ねるうちに会わなければならない、と焦燥感が増していた。
どこの誰で何をして、今もなお記憶のような見た目なのかもわからないのに。
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