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CITY HUNTER

「恋愛は『男は名前をつけて保存。女は上書き保存。』ってよく言うじゃない。あれって本当なのかしら?」

 香がキャッツアイでホットコーヒーを飲んでいると。美樹がふと言い出した。
 今日は海坊主が外出していていない。こういう日は、時々女子トークで盛り上がったりする。

「保存?」
「恋は心の中にそうやって保存していくって。ほら、パソコンとかのデータファイル形式に例えてるんじゃない?」
「ごめん。あたしパソコン詳しくなくって…」
 機械音痴な上に恋愛初心者な香にはさっぱり理解できず、頭の中が『?』でいっぱいだ。
 男は過去の恋を一つ一つ名前をつけて心の中に仕舞っていくが、女は新しい恋をしたら、過去の恋のことは忘れてその上に新しい恋をのせて保存していく。そういった意味なんじゃないかと、美樹は香に教えてくれた。

「考え方や捉え方は人それぞれだから、ホントか嘘かは分からないけどね」
「恋の思い出とか…そんな感じなのかな?」
 二人とも、それぞれ一人の男しか浮かばないので、上書き保存と言われてもピンとこなかった。

「ファルコンも名前をつけて保存なのかしら?」
「僚は……まさにそれっぽい、かも?」
 結局、そんな曖昧なまま、本日の女子トークは一段落してしまった。





 上書き保存ってなんだろう?

 あたしは、僚の前がいないから、とりあえず最初に名前をつけて僚を保存?
 それって高校の時?
 で、再会してその時、僚の上に僚を上書き保存したの?

 僚はきっと、今までたくさんの人の名前をつけて保存してそうだけど。

 ベッドの中で、甘い疲労感に包まれながら、香は昼間美樹と話していたことを思い出した。
 こうやって一緒に夜を重ねるようになっても、やっぱり「あたしは僚が好きだな」って気持ちが重なって積もっていく。これも上書き保存なのだろうか。機械音痴な香だから、よく分からないけれど。
 結局、僚に溺れて、途中からわけわかんなくなって、頭の中、僚でいっぱいになって、気付いたらこの幸福な疲労感だ。

「男は名前をつけて保存。女は上書き保存」
「なーにそれ」
 座ってヘッドボードに置いてある煙草に手を伸ばしていた僚が、香の呟きに興味を示した。

「なんか男女の恋愛の違い?って」
「へぇ」
「よくわかんなくって。あたし」
「男女の恋愛心理なんて理論立てしてもムダムダ!」
 断言してから、僚は煙草を一本口に咥えて火をつける。

「そうなの?」
 経験者っぽくなんか偉そうに言う僚になんか腹が立った。
 だから、昼間から気になっていたことを、この際直接聞いてみる。

「あたしは?ちゃんと保存してある?」
「え?」
 そんなこと聞かれるなんて思っていなかったんだろう。煙草を吹かしていた僚が香に目を向ける。

「あたしは、僚のどこ?」
 どこに保存してある?って確認したかった。時々不安になる。こうなって前より僚のこと知ったから、余計。

「OS」
「おーえす?」
 僚が少し目を細めて、煙草の吸い殻を灰皿に押しつけた。まだ火をつけたばかりなのに。

「そこに保存してあるの?」
「おまぁ、機械苦手なくせに食いつくのなー?」
 ちょっと困ったように、でもどこか嬉しそうにニヤつきながら。

「おーえすってどこ?」
「どことかじゃなくて、OSはOS」
 頭をクシャクシャっと撫でられた。

「はい。香ちゃんパソコンは落として。僚ちゃんのもっこりが立ち上がりま~す」
「ばか」
 香に抱きつく僚からは、慣れた煙草の匂いが少しだけした。OSの意味は分からないままだけど、不安はすぐにどこかへ飛んでいった。





「よく分かんないから昨日聞いてみたんだけど、やっぱりよく分からなかった」
「え!聞いたの?……どうだった?」
 美樹が少し期待した目で尋ねてくる。

「あたしはどことかじゃなくて、おーえすって」
「わぁお!!」
「え?」
「冴羽さんもなかなか言うようになったわね…。オペレーティングシステムか~」
「え、何それ?!」
「ご馳走さま!私も今夜ファルコンに聞いてみよ」

 何重にも鍵をかけて、奥に奥に仕舞い込んでいたら、いつの間にかソレがないと使い物にならない代物になっていた。

 気付いていないのは、香だけ。






*****
ポンコツだと、OSにハンマーで「コラ!動け!」って昭和のテレビみたいに扱われます。そんな冴羽PC。
CHの恋愛観って「男は名前をつけて保存、女は上書き保存」っぽいなと思ったので。ミックとかずえさんとかなんとなく。んじゃリョウは?ってなって書きました。
多分色んな人が思ってると思うけど、リョウがミック達二人の解説してるとこ何度読んでも笑っちゃいます。お前が言うかって。笑
ピロートーク芸人なので、頭の中こんなんばっかです。自分で香にこそ恋愛の解説したげてよ、冴羽さん。
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