CITY HUNTER
ガラスの靴なんていらない。
だからきっと、シンデレラにはなれない。
12時の鐘で階段を駆け下りたシンデレラは、脱げた靴に気づかずそのまま走り去ってしまう。
私のガラスの靴はイヤリングで、物語の王子様が探しに来たりなんてしなかったし、友達からの借り物だったから返してしまった。
待ってるだけじゃ、それは私じゃない。
それでも私がシンデレラの立場だったら、走るのに邪魔なドレスは脱いで、長い髪も切って、でも、一応ヒールの靴だけは履いて、階段を駆け上がっていこうかなぁ。
……肩に100tハンマーを担いで。
【シュガーボーイとシンデレラ】
「髪、伸びたな」
「え?」
背後の男がポツリと呟いて、香は振り返らずに聞き返した。
「湯船に着きそ」
「そういえば…結構伸びたかも」
大きな手が、少し癖の強い赤毛を掬い上げて水面から守る。
長身の二人が揃ってバスタブに浸かるとやっぱり狭い。だからどうしても位置は決まってしまって、僚に背中を預けるみたいに、足の間に入り込む。
最初は恥ずかしくて絶対無理だと思っていたこんな体勢も、意外と慣れるものだ。僚の体積でジャバーっと湯船からお湯が溢れ出した上に、香も入ってまたお湯が流れ出すのを見るのが、少し楽しい。お湯の蒸気で、浴室はあたたかい。
「またシュガーボーイじゃなくなっちまった」
「まぁ、ね」
その言い方がなんだかちょっと照れくさくて、香が自分の膝を抱えて丸まってみたら、腹部に僚の腕が伸びてきて、やっぱり包み込まれてしまった。
「僚、気付いてたのね」
あの時は、うん、としか返せなかったけれど。改めて、口に出しても彼は黙ったままで否定も肯定もしなかった。
「誕生日の理由もホントは気付いてた?」
「なんのこと~?」
「……」
ご自慢のもっこりを肘で潰してしまおうか。
「香チャン、こっわいこと考えてない?」
「バレた~?」
ほほほほほ、とわざとらしく笑ってみる。
「で、理由は?」
「言わなーい。私からは絶対言わない」
「ケチー」
言いながら、肩を少し引かれる。顔が近づいてくる気配がした。
目を、閉じる。
「慣れたな~」
「え?」
唇が触れ合うと思った直前。声がして、閉じていた目を開ける。
「最初はあんなにキョトンとしてたのに」
「?」
「香チャン、キス待ち顔とか出来るようになっちゃって~!」
「!」
からかうように言われたら、恥ずかしさが全身を支配する。
「だって僚が言ったんじゃない!キスをする時は目を閉じるのが礼儀ってもんだって……あ!」
「俺が?おまぁに?言ったっけ?」
眉毛をクイと片方上げて、わざとらしく聞いてくる。
僚は知らないんだった。あの日、絵梨子の計らいで変装した香とデートしたこと。
「いや…あの…えっと……!」
「へぇ~。ほぉ~~~。俺が、香に」
気付かれてる。絶対、気付かれた。
というか。
「アンタやっぱり気付いてたんだな!?」
「何が~?」
香を見つめる目が余裕で楽しそうだ。
なんだか悔しくて、また背を向けて彼の顔を見ないでいいようにする。
肩までしっかり湯船に浸かって、温もる。
香がなくしたと思っていたイヤリングが、都合よく香のGパンのポケットに入っているわけがない。
あれは、僚が入れたんだ。
あの時は…。
「都会のシンデレラって…あはは!」
思い出したら笑いがこみ上げてきてしまった。
「んー?」
「さらっと女の子をお姫様扱いしつつ…シンデレラって言っちゃうセンス!」
気の抜けた返事をしている男の手の甲を、湯船の中で少し抓ってみる。イテッと小さく声が返ってきた。いつも香以外の女にはああなのだ。そう思うと、やっぱりちょっとおもしろくない。
「僚って時々、すっごいポエマー」
「はぁ?」
「止めて、引く」
「流れ出すゲワイ」
どこかで見た言葉を言ってみたら、どこかで見た言葉が返ってきた。
「ってのは冗談で……気障ってこと!」
依頼人の美女に歯の浮くような台詞を真顔で吐くのも、何度も見ている。
「美人の前だと、どこかにスイッチでもあるの?」
くるりと振り返って、「切り替えスイッチ」と顔と顔を付き合わせて言ってみる。
「ポチ」
ボタンを押した音を言いながら、僚の鼻を押してみる。
「香にぃ?気障な台詞~?」
思いつかない、とでも言いたそうに、香の後ろ髪を手で弄りながらわざとらしい声を上げる。
「大人の階段昇ってく香ちゃん」
君はまだシンデレラさ、なんて歌うように続ける。
「何それ」
「いんや」
何か考えてるけど、教えてくれなさそうな含み笑い。でも、目が優しい。
「シュガーボーイじゃなくなっちまったな~って」
目を細めて、しみじみ実感するように。今日二回目のその言い回し。
「?」
髪を弄っていた僚の手が、香の両手をそれぞれ掴み、自分の太い首に絡ませるよう導く。されるがままくっついて、香は僚と見つめ合う。
「香」
声と一緒に喉仏が動く。
触ってみたい。
好奇心のままに香が右手で触れれば、硬いそこがゴクリを動く。
「女になった」
熱い声が耳を掠めて、香の鼓膜を震わせる。カッと全身が熱くなった。
「だ、誰が…」
したんだ、と真っ赤になりながら消え入りそうな声で絞り出す。
「だぁ~れかなぁ?」
滑るように肌に触れてくる手つきが、だんだん怪しくなってくる。このもっこり男。二人で湯船に浸かるこの状況の前に、散々…散々ベッドでしたではないか。
もう無理!と拒否する意図を込めて、身体を引き離すように両手で強めに胸板を押して、名前を呼ぼうとしたら。
「リョ、」
……俺の女になった。
耳元で囁かれた声に、香の全身の力が抜ける。顔が見えないから、吐息だけが耳にかかって熱い。
香の反応はバレバレのようで、ニヤリと満足げに笑われた気がする。
足の間にすっぽり挟まれていた身体が、逃げ出せないように足までホールドされた。
身体を少し持ち上げられて、下から請うように唇を奪われる。
ゆっくり、深く。味わうように。
熱に浮かされて、何も考えられなくなる。
触れ合ってもたらされる感覚で、身体が溺れていく。
都会のシンデレラは、お姫様になって王子様に会いたかったわけじゃない。
愛する男に、自分を女として見て欲しかった。
*****
勢いだけで書いちゃいましたー!!キャラおかしくてもごめんなさい。
お風呂に入ってます。Rじゃないけど肌色です。苦手な方はご注意。
奥多摩編終わって、香の髪が「戻っちまったな…シュガーボーイに…」より前の長さに戻る頃までには、もっこり関係になってたりし…て…?って思いついた私の妄想ぶっ込んだだけの話です。
香のあの襟足長い髪は、お風呂の時湯船についちゃいそうだよね~。って思って。
ホトトギス持ち込んで香に付けた冴羽僚ならこんぐらい言っちゃえー!って勢いで書きました。花言葉知ってたのかな?冴羽僚。
ふふふ。映画最高だったよ~~~。まだまだ見たいよ~~~!永遠に終わらないでCH!!!
映画観て9年ぶりにCH書いてみたら、冴羽さんヘタレなかった。驚き。
だからきっと、シンデレラにはなれない。
12時の鐘で階段を駆け下りたシンデレラは、脱げた靴に気づかずそのまま走り去ってしまう。
私のガラスの靴はイヤリングで、物語の王子様が探しに来たりなんてしなかったし、友達からの借り物だったから返してしまった。
待ってるだけじゃ、それは私じゃない。
それでも私がシンデレラの立場だったら、走るのに邪魔なドレスは脱いで、長い髪も切って、でも、一応ヒールの靴だけは履いて、階段を駆け上がっていこうかなぁ。
……肩に100tハンマーを担いで。
【シュガーボーイとシンデレラ】
「髪、伸びたな」
「え?」
背後の男がポツリと呟いて、香は振り返らずに聞き返した。
「湯船に着きそ」
「そういえば…結構伸びたかも」
大きな手が、少し癖の強い赤毛を掬い上げて水面から守る。
長身の二人が揃ってバスタブに浸かるとやっぱり狭い。だからどうしても位置は決まってしまって、僚に背中を預けるみたいに、足の間に入り込む。
最初は恥ずかしくて絶対無理だと思っていたこんな体勢も、意外と慣れるものだ。僚の体積でジャバーっと湯船からお湯が溢れ出した上に、香も入ってまたお湯が流れ出すのを見るのが、少し楽しい。お湯の蒸気で、浴室はあたたかい。
「またシュガーボーイじゃなくなっちまった」
「まぁ、ね」
その言い方がなんだかちょっと照れくさくて、香が自分の膝を抱えて丸まってみたら、腹部に僚の腕が伸びてきて、やっぱり包み込まれてしまった。
「僚、気付いてたのね」
あの時は、うん、としか返せなかったけれど。改めて、口に出しても彼は黙ったままで否定も肯定もしなかった。
「誕生日の理由もホントは気付いてた?」
「なんのこと~?」
「……」
ご自慢のもっこりを肘で潰してしまおうか。
「香チャン、こっわいこと考えてない?」
「バレた~?」
ほほほほほ、とわざとらしく笑ってみる。
「で、理由は?」
「言わなーい。私からは絶対言わない」
「ケチー」
言いながら、肩を少し引かれる。顔が近づいてくる気配がした。
目を、閉じる。
「慣れたな~」
「え?」
唇が触れ合うと思った直前。声がして、閉じていた目を開ける。
「最初はあんなにキョトンとしてたのに」
「?」
「香チャン、キス待ち顔とか出来るようになっちゃって~!」
「!」
からかうように言われたら、恥ずかしさが全身を支配する。
「だって僚が言ったんじゃない!キスをする時は目を閉じるのが礼儀ってもんだって……あ!」
「俺が?おまぁに?言ったっけ?」
眉毛をクイと片方上げて、わざとらしく聞いてくる。
僚は知らないんだった。あの日、絵梨子の計らいで変装した香とデートしたこと。
「いや…あの…えっと……!」
「へぇ~。ほぉ~~~。俺が、香に」
気付かれてる。絶対、気付かれた。
というか。
「アンタやっぱり気付いてたんだな!?」
「何が~?」
香を見つめる目が余裕で楽しそうだ。
なんだか悔しくて、また背を向けて彼の顔を見ないでいいようにする。
肩までしっかり湯船に浸かって、温もる。
香がなくしたと思っていたイヤリングが、都合よく香のGパンのポケットに入っているわけがない。
あれは、僚が入れたんだ。
あの時は…。
「都会のシンデレラって…あはは!」
思い出したら笑いがこみ上げてきてしまった。
「んー?」
「さらっと女の子をお姫様扱いしつつ…シンデレラって言っちゃうセンス!」
気の抜けた返事をしている男の手の甲を、湯船の中で少し抓ってみる。イテッと小さく声が返ってきた。いつも香以外の女にはああなのだ。そう思うと、やっぱりちょっとおもしろくない。
「僚って時々、すっごいポエマー」
「はぁ?」
「止めて、引く」
「流れ出すゲワイ」
どこかで見た言葉を言ってみたら、どこかで見た言葉が返ってきた。
「ってのは冗談で……気障ってこと!」
依頼人の美女に歯の浮くような台詞を真顔で吐くのも、何度も見ている。
「美人の前だと、どこかにスイッチでもあるの?」
くるりと振り返って、「切り替えスイッチ」と顔と顔を付き合わせて言ってみる。
「ポチ」
ボタンを押した音を言いながら、僚の鼻を押してみる。
「香にぃ?気障な台詞~?」
思いつかない、とでも言いたそうに、香の後ろ髪を手で弄りながらわざとらしい声を上げる。
「大人の階段昇ってく香ちゃん」
君はまだシンデレラさ、なんて歌うように続ける。
「何それ」
「いんや」
何か考えてるけど、教えてくれなさそうな含み笑い。でも、目が優しい。
「シュガーボーイじゃなくなっちまったな~って」
目を細めて、しみじみ実感するように。今日二回目のその言い回し。
「?」
髪を弄っていた僚の手が、香の両手をそれぞれ掴み、自分の太い首に絡ませるよう導く。されるがままくっついて、香は僚と見つめ合う。
「香」
声と一緒に喉仏が動く。
触ってみたい。
好奇心のままに香が右手で触れれば、硬いそこがゴクリを動く。
「女になった」
熱い声が耳を掠めて、香の鼓膜を震わせる。カッと全身が熱くなった。
「だ、誰が…」
したんだ、と真っ赤になりながら消え入りそうな声で絞り出す。
「だぁ~れかなぁ?」
滑るように肌に触れてくる手つきが、だんだん怪しくなってくる。このもっこり男。二人で湯船に浸かるこの状況の前に、散々…散々ベッドでしたではないか。
もう無理!と拒否する意図を込めて、身体を引き離すように両手で強めに胸板を押して、名前を呼ぼうとしたら。
「リョ、」
……俺の女になった。
耳元で囁かれた声に、香の全身の力が抜ける。顔が見えないから、吐息だけが耳にかかって熱い。
香の反応はバレバレのようで、ニヤリと満足げに笑われた気がする。
足の間にすっぽり挟まれていた身体が、逃げ出せないように足までホールドされた。
身体を少し持ち上げられて、下から請うように唇を奪われる。
ゆっくり、深く。味わうように。
熱に浮かされて、何も考えられなくなる。
触れ合ってもたらされる感覚で、身体が溺れていく。
都会のシンデレラは、お姫様になって王子様に会いたかったわけじゃない。
愛する男に、自分を女として見て欲しかった。
*****
勢いだけで書いちゃいましたー!!キャラおかしくてもごめんなさい。
お風呂に入ってます。Rじゃないけど肌色です。苦手な方はご注意。
奥多摩編終わって、香の髪が「戻っちまったな…シュガーボーイに…」より前の長さに戻る頃までには、もっこり関係になってたりし…て…?って思いついた私の妄想ぶっ込んだだけの話です。
香のあの襟足長い髪は、お風呂の時湯船についちゃいそうだよね~。って思って。
ホトトギス持ち込んで香に付けた冴羽僚ならこんぐらい言っちゃえー!って勢いで書きました。花言葉知ってたのかな?冴羽僚。
ふふふ。映画最高だったよ~~~。まだまだ見たいよ~~~!永遠に終わらないでCH!!!
映画観て9年ぶりにCH書いてみたら、冴羽さんヘタレなかった。驚き。
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