現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
夢を諦めきれない私
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妙にうれしそうな表情に、胸が苦しくなる。
鬘をかぶっていた時の方が、ずっと気が楽だったと、いまさらながら思う。
あの時はある意味演じている状態だったから。
でも、今は違う。
素のままの俺が、出てしまう。
「ごめんなさい、姐さんと一緒にいられるのが嬉しくて私がしゃべってばかり。」
俺の表情に何を慌てたのか、そう言って困ったように俺を見上げた。
何をされても、苦しいことに変わりはないが、俺はなんとか笑って見せる。
「構わねぇよ。」
するとほっとしたような顔をする。
ああ、また胸が苦しい。
「あの、姐さんの名前、聞いてもいいですか?」
「川上音二郎、だ。」
「素敵。」
そしてまた、寝ぼけたふにゃりとした笑顔を浮かべる。
まったくもって罪な女だ。
「劇場の前で、みんな“川上様”に夢中だったんですよ。
こんなに素敵だったら、そりゃ夢中になりますね。」
ほんのり染めた頬。
まるで彼女が男としての俺に好意を持っているかのように感じてしまう。
(違う、こいつは、“姐さん”が好きなんだ。
"俺"じゃない。)
「やめろよ、お前に“川上様”だ何て呼ばれると、背中が痒くなる。」
俺は腕を枕に仰向けにごろんと寝てそう返すと、彼女は嬉しそうに笑った。
「また、昨日みたいに寝ていいですか?」
唐突な依頼は、俺に一瞬の沈黙を作らせた。
「あっ・・・ごめんなさい。
その、いや、ですよね・・・。」
気まずい沈黙を破ったのは彼女で、ごにょごにょ言いながら恥ずかしそうに布団を頭までかぶってしまった。
「嫌な、わけ・・・ねぇけど。
花の方が嫌じゃねぇのか?」
布団から目までだけ出てきた。
「嫌なわけ、ないです・・・。
なんだか姐さんの隣は安心するから・・・好きです。」
(・・・だれかこの馬鹿をなんとかしてくれ。)
そう思いながらも布団の端によって、掛け布団を開けてやると、子犬よろしく花が潜り込んできた。
腕の中で、ひどく嬉しそうに花が見上げる。
そして。
「おやすみなさい、姐さん。」
「お、おう。
おやすみ、花。」
ふにゃりと笑って、俺の胸に顔をうずめ、そしてあっという間に、眠ってしまった。
取り残されたのは俺だ。
(おい、この状況どうしてくれる・・・。)
俺はため息をついた。
昨日は仕方がない。
百歩譲ろう。
俺もこいつも疲れていた。
だからそのまま寝てしまったのだ。
うん、それでいい。
(だが今日はなんだ?)
目を閉じて、雑念を追い払おうとするのに、腕の中にはやわらかな女がいる。
俺の胸に額をこすりつけるようにして、ぐっすりと眠りこんでいる女が。
(否、餓鬼だ。)
そう言い聞かせねばやってられない。
無防備にもほどがある。
彼女はただ、腕の中にいるだけなのだ。
もちろん、何かをしているわけではない。
寝言も言わないし、寝像も悪くない。
何かしてきたら、それこそ大問題である。
真綿で首を絞められている気分になるのは、仕方がないだろう。
優しい呼吸も、閉じられた瞳も、どれもこれも愛おしい。
なのに彼女は、自分のことを男として見ないと明言する。
なのにずっとずっと一緒にいてほしいと、泣きそうな顔で頼むのだ。
自分を好きだという彼女が、"姐さん"という存在を通して俺を見てくれているのは知っている。
俺の心を好きでいてくれるのは知っている。
痛いほど、分かっている。
だが、男の俺は、好きではない。
彼女は俺の心が好きなんだと言った。
俺の隣が、安心するのだと。
まったくわけが分からない。
(こんな・・・餓鬼に・・・。)
抱きしめる腕を強くすると、花の眉が寄った。
「・・・ぅん・・・。」
どこか艶めかしく身じろぎをする。
肌が寝巻越しに撫で合う。
「っ!!」
堪らず花の上に覆いかぶさるように手をついた。
心臓が激しく脈打っている。
呼吸まで、荒いようだ。
(こんな、餓鬼にッ!!)
なぜ、目の前の女は寝ているのか。
なぜ、自分の心臓はこんなにも高鳴っているのか。
呼吸がかかる距離に、好きな女が無防備に眠っている。
泣きそうな顔をして笑いながら、好きだと訴える女が。
それなのに、抱きしめることはできても、それ以上進むことなんて。
(できない。
お前が“姐さん”を好きでいる限り。)
俺は唇を噛み締めた。
女に不自由した事のない俺にとって、自分が撒いた種とはいえこれ程の屈辱を味わうのは初めてだった。
押し殺す想い
鬘をかぶっていた時の方が、ずっと気が楽だったと、いまさらながら思う。
あの時はある意味演じている状態だったから。
でも、今は違う。
素のままの俺が、出てしまう。
「ごめんなさい、姐さんと一緒にいられるのが嬉しくて私がしゃべってばかり。」
俺の表情に何を慌てたのか、そう言って困ったように俺を見上げた。
何をされても、苦しいことに変わりはないが、俺はなんとか笑って見せる。
「構わねぇよ。」
するとほっとしたような顔をする。
ああ、また胸が苦しい。
「あの、姐さんの名前、聞いてもいいですか?」
「川上音二郎、だ。」
「素敵。」
そしてまた、寝ぼけたふにゃりとした笑顔を浮かべる。
まったくもって罪な女だ。
「劇場の前で、みんな“川上様”に夢中だったんですよ。
こんなに素敵だったら、そりゃ夢中になりますね。」
ほんのり染めた頬。
まるで彼女が男としての俺に好意を持っているかのように感じてしまう。
(違う、こいつは、“姐さん”が好きなんだ。
"俺"じゃない。)
「やめろよ、お前に“川上様”だ何て呼ばれると、背中が痒くなる。」
俺は腕を枕に仰向けにごろんと寝てそう返すと、彼女は嬉しそうに笑った。
「また、昨日みたいに寝ていいですか?」
唐突な依頼は、俺に一瞬の沈黙を作らせた。
「あっ・・・ごめんなさい。
その、いや、ですよね・・・。」
気まずい沈黙を破ったのは彼女で、ごにょごにょ言いながら恥ずかしそうに布団を頭までかぶってしまった。
「嫌な、わけ・・・ねぇけど。
花の方が嫌じゃねぇのか?」
布団から目までだけ出てきた。
「嫌なわけ、ないです・・・。
なんだか姐さんの隣は安心するから・・・好きです。」
(・・・だれかこの馬鹿をなんとかしてくれ。)
そう思いながらも布団の端によって、掛け布団を開けてやると、子犬よろしく花が潜り込んできた。
腕の中で、ひどく嬉しそうに花が見上げる。
そして。
「おやすみなさい、姐さん。」
「お、おう。
おやすみ、花。」
ふにゃりと笑って、俺の胸に顔をうずめ、そしてあっという間に、眠ってしまった。
取り残されたのは俺だ。
(おい、この状況どうしてくれる・・・。)
俺はため息をついた。
昨日は仕方がない。
百歩譲ろう。
俺もこいつも疲れていた。
だからそのまま寝てしまったのだ。
うん、それでいい。
(だが今日はなんだ?)
目を閉じて、雑念を追い払おうとするのに、腕の中にはやわらかな女がいる。
俺の胸に額をこすりつけるようにして、ぐっすりと眠りこんでいる女が。
(否、餓鬼だ。)
そう言い聞かせねばやってられない。
無防備にもほどがある。
彼女はただ、腕の中にいるだけなのだ。
もちろん、何かをしているわけではない。
寝言も言わないし、寝像も悪くない。
何かしてきたら、それこそ大問題である。
真綿で首を絞められている気分になるのは、仕方がないだろう。
優しい呼吸も、閉じられた瞳も、どれもこれも愛おしい。
なのに彼女は、自分のことを男として見ないと明言する。
なのにずっとずっと一緒にいてほしいと、泣きそうな顔で頼むのだ。
自分を好きだという彼女が、"姐さん"という存在を通して俺を見てくれているのは知っている。
俺の心を好きでいてくれるのは知っている。
痛いほど、分かっている。
だが、男の俺は、好きではない。
彼女は俺の心が好きなんだと言った。
俺の隣が、安心するのだと。
まったくわけが分からない。
(こんな・・・餓鬼に・・・。)
抱きしめる腕を強くすると、花の眉が寄った。
「・・・ぅん・・・。」
どこか艶めかしく身じろぎをする。
肌が寝巻越しに撫で合う。
「っ!!」
堪らず花の上に覆いかぶさるように手をついた。
心臓が激しく脈打っている。
呼吸まで、荒いようだ。
(こんな、餓鬼にッ!!)
なぜ、目の前の女は寝ているのか。
なぜ、自分の心臓はこんなにも高鳴っているのか。
呼吸がかかる距離に、好きな女が無防備に眠っている。
泣きそうな顔をして笑いながら、好きだと訴える女が。
それなのに、抱きしめることはできても、それ以上進むことなんて。
(できない。
お前が“姐さん”を好きでいる限り。)
俺は唇を噛み締めた。
女に不自由した事のない俺にとって、自分が撒いた種とはいえこれ程の屈辱を味わうのは初めてだった。
押し殺す想い