現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
夢を諦めきれない私
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「そういうこと・・・。」
目を瞬かせる私。
「こういうこと。」
にやり、と怪しく美しく笑う姐さん。
そして私達の前には。
「ちっ。」
舌打ちをしながら酒をのむ泉さんがいた。
(お酒飲めるんだ・・・。)
今日は尾崎紅葉先生の主催の宴が入っていて、それが私達の担当だったのだ。
「何であんたがいるの。」
睨みつけられ、問われる。
あれ、むしろ何で私こんなことされないといけないんだろう。
「何でと言われましても・・・。」
「そうだねぇ、強いて言えば、尾崎先生がうちを御贔屓にしてくださるから、かねぇ。」
「川上は黙ってろ。」
助け船を出してくれた姐さんに、泉さんがぴしゃりと言う。
泉さんの方がずいぶん歳下に見えるのだけれど、お互いそんなことは気にしていない様子だ。
「あらぁ、あたしと鏡花ちゃんの仲じゃないの。」
「鏡花ちゃんって呼ぶな!」
この2人はどうしてこんなに面白いんだろうか。
泉さんは自分がからかわれているとは分かっていないんだろうなと思うと、ちょっとかわいそうになる。
「酒がもうすぐあくのが分からないの?
このグズ!
早く持ってきなよ!」
相も変わらずの毒舌に追い立てられるように、私は裏に回って酒を取りに行く。
そう言えばもうすぐ料理も次のを出す時間のはずだ。
厨房をのぞくと同じように料理を運ぶためにちらほら戻っている姿も見えた。
「音奴のとこの子だね。」
「はい、泉さんにお酒の追加も頼まれたので、一緒に持っていこうと思います。」
「そうかい、じゃああっちのをもらっていきな。」
「ありがとうございます。」
姐さんの付き人だからだろうか。
それとも、もともとみんないい人なのだろうか。
慣れなくて失敗ばかりの私なのに、丁寧に教えてくれる。
忙しいだろうに、申し訳ない限りだ。
だから今日はこぼさないように気をつけよう。
私の代わりに、他の姐さんが謝らなければならなくなるから。
料理を出すと、泉さんは私を睨みつけ。
「グズ、遅い!」
怒鳴った。
私の名前はグズじゃないのに、泉さんは私をグズと言う名前だと勘違いしている気がする。
「申し訳ございません。」
頭を下げると、泉さんはぷいっと顔をそむけた。
「・・・川上のやつ、支度に行ったみたいだけど?」
私ははっと顔を上げる。
(そうか、遅いって、そういうことだったのか。)
そう考えてみると、泉さんは案外優しいのかもしれない。
やっぱり、みんなに好かれている姐さんの付き人だからかな、とも思う。
(姐さん世界一!)
「ありがとうございます。」
思わず笑顔になってお礼を言う。
「ふん。」
でも泉さんは不機嫌そうな顔のまま、お酒をあおっていた。
姐さんの控室に走り込む。
「お、思い出したかい?」
舞い支度を終えた姐さんが意地悪な顔をして振り返った。
「申し訳ありません、姐さん!」
「時間、気をつけな。」
お咎めの声。
大好きな姐さんのお咎めは、何よりも堪える。
「はい・・・申し訳ありませんでした。」
頭を下げる。
泉さんが教えてくれなかったらどうなっていたことか。
「分かればよし。
行くよ。
荷物はそれだ。」
姐さんはすぐにいつもの優しい声になって、私の肩を叩き、部屋から出ていく。
「お客様相手だから、気をつけなよ。」
他の姐さんも注意をして、私の隣を通って行く。
「はい、申し訳ありません。」
私はもう一度頭を下げ、荷物を持って部屋から出て、姐さん達の後を追う。
部屋にもう一度入ると、お客様は皆すっかり出来あがっていた。
正面の空いたスペースが今日の舞台。
座布団を出したり、屏風をセットしたり。
ばたばたと準備を終え、私は再び食事をしている机の間に戻る。
少しすれば、べんべん、と三味線の音が始まった。
そして。
「やっぱりあいつぁ最高だね。」
お酒を飲んでいるおじさんが、赤い顔で楽しげに言うとおり、姐さんの舞は最高だ。
やったことのない私も踊りたくなってしまうくらい。
今度こっそり練習しよう。
「ありがとうございます。」
お礼を言って、空になったおちょこにお酒を注ぎ足す。
「お譲ちゃん、あいつと親しいのかい?」
「え・・・は、はい。」
戸惑いながらも頷いてしまう。
「今度会ってくれるように頼んではくれねぇか?」
私の頭はしばらく止まる。
ええっと、それはつまり。
「お礼はしっかりするからよぉ。」
どうやらこのおじさん、姐さんにお熱らしい。
でれでれと私の肩に手を回し、ばしばしと叩く。
地味に痛い。
下手に断るのもできないが、断らねばならないのは分かっている。
はてさてどうしたものか。
「あら、もう空っぽですね。」
とっくりをひょいっと持ち上げる。
私は白を切ることに決めた。
「おいおい。」
「新しいのを取ってまいります。」
笑顔を張りつけ、無理に手を引きはがして、私は立ち上がった。
後はあのおじさんに近づかなければ大丈夫。
「あんた今日は頑張っていたじゃないか。」
帰り道、姐さんが肩を抱いてぽんぽん叩いた。
その素振りに、何のことを言っているのか理解する。
姐さんの腕の中はいいにおいがするし、温かい。
思わず頬が緩むのが分かる。
(おじさんになんて渡すもんか!)
「どうしたんだい?
何言われた?ん?」
「姐さんに今度会ってくれるように頼んではくれねぇか?って言われました。」
「おや、そんなことだったのかい。
それでどうしたんだい?」
「お返事はせずに、お酒を取りに行かないと、みたいな振りをして離れました。
怒られなかったので大丈夫だと思います・・・。」
「おやまぁ、やるじゃないかい。」
嬉しそうな姐さんの顔を見ると、私も嬉しくなる。
「あしらい方、ちょっとずつ覚えてきたんだねぇ。
偉い偉い。」
まるで犬のように、両手で頬をむにむにと撫でられる。
犬扱いも姐さんなら嫌じゃない。
えへへ、と笑うと、姐さんは手を離し、にっこり笑った。
「この分ならいけるかな。」
何のことだろうと、私は首をかしげる。
「さ、帰ろうか。」
姐さんはその疑問に答えてはくれず、でも私を導くように歩きだした。
帰る場所
