現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
示された道を歩めぬ私
名前変換
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事件とは立て続けに起こるものかもしれない。
私の捻挫がようやく直ってきて、松葉杖なしでもなんとか歩けるようになった、温かな午後のことだった。
「森先生はいらっしゃいますか?!」
玄関で叫び声のような声がした。
夕食の支度をしていたフミさんと私は顔を見合わせ、駆けていく。
遅れて菱田さんも出てきた。
「今はお仕事でおられま・・・どうされましたか!?」
若い娘さんが泣きそうな顔で手を血に染めて立っていた。
「これは私のではなくて・・・
ウメさんが、包丁をはこんでいて、走ってきた私がぶつかって・・・!
どうしたら、いいのか、分からなくて!!」
その場で崩れ落ちてしまう。
フミさんが助け起こして背中をさすっている。
相当ショックだったのだろう。
だが、今はそれどころではない。
「家には誰か?」
私の問いかけに娘は首を振る。
なんとか助けを求めて隣の家まで来たのか。
この出血量だ、一刻を争うに違いない。
「菱田さん。」
振り返って、彼を見る。
「一番近いお医者さんを呼んできてください。」
「分かった。」
頷くと私達の横を通り過ぎ、外へ駆けだして行く。
今度は私の顔を心配そうに見あげているフミさんを見た。
強い瞳は、何でも言って、と言っている。
「フミさん、お手伝いお願いできますか。」
「はい。」
「清潔な布、それから裁縫道具を。
熱湯もお願いします。」
「分かりました。」
「娘さんのお名前は。」
「静香様です。」
「静香様はウメさんのところまで案内してください。」
震える娘は、立ち上がれそうにない。
フミさんに縋りついてばかりだ。
だが今、私を案内できるのは彼女だけだ。
繰り返すが、時間はない。
「フミさんは早くお湯の準備を。」
「分かりました。」
私は静香様をフミさんから引きはがした。
その頬を両手でぱちんと挟む。
「しっかりしてください。
私は医者です。
ウメさんのところに案内してください。
貴方が案内してくれないと、ウメさんを助けられません。」
静かに、でも強くそう言うと、静香様ははっとした様子で、涙をぬぐった。
そして立ち上がり、一つ大きくうなずいた。
「よろしくお願いします。」
はっきりとした依頼の言葉に、私は深くうなずく。
「咲さん、裁縫道具と布を先にお渡しします。」
フミさんが奥から風呂敷にまとめた荷物を持ってかけてきた。
「ありがとうございます、よろしくお願いします。
行きましょう。」
「はい!」
駆けだす静香様の後ろを、私は足の痛みも忘れて走る。
家は二軒隣りだった。
連れていかれたキッチンには、気を失った女性が倒れていた。
出血はかなり多い。
むせかえるような鉄の匂いに眩暈がした。
(血は・・・だめだ・・・)
遠い昔、おびただしい血を流しながら道路で倒れる女性の姿がフラッシュバックする。
(そうだ、あの日から私は、血が・・・)
ばたりと音がして隣を見れば、静香様もその様子に腰を抜かして座り込んでしまったようだ。
(だめだ、私がしっかりしなければ。
私が、助けると決めたんだ。)
口の端を歪に上げる。
ー無理にでも笑うと、心が明るくなるものだ。ー
そうだ、そう、習った。
ー心と体はひとつ。
心をだませ。ー
そう言ったのは、父だった。
厳格な、医者の鑑のような、父だった。
私はキッチンに足を踏み入れる。
「静香様!
私は必ず、ウメさんを、助けます!
ですから手伝ってください!
早く!」
決意の赤