現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
引き留められてしまった私
名前変換※注意
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「さぁて、どうしたものか。」
浦原さんが鬱陶しげに私を見た。
その浦原さんを油断なく歳さんが睨む。
「朝になれば藤田警部補がここに来られます、
その時に全て話されたらいいと思います。
判断してくださるでしょう。」
「ずいぶんと藤田さんを信用していらっしゃるようですね。
聞くところによると、藤田さんの家で軟禁されているそうではありませんか。
ずいぶんと短い間ではありますが飼いならされましたか?
藤田さんも隅に置けないなぁ。」
ずいぶん不埒な話が唐突にきて、思わず目を瞬かせる。
「ずいぶんと突飛な発想ですね。
あのカタブツな藤田さんがそんなことをなさると?」
「人は見かけによらないというじゃないッスか。」
「いやー、さすがに無理でしょ。」
「分かりませんよ。
男はみんな狼ッス。」
「どうでもいいけど。」
私は自分の背後に忍びよっていた怨霊を振り返りざまに切り倒した。
「夜明けまで、続きはお預けで。」
「それもそうか。」
彼も怨霊を切り倒したのだろう。
音とともに斬撃が通り過ぎた。
空が白んできた。
もう少しの辛抱だ。
くたびれた腕に再び力を込める。
しばらくすれば怨霊達の姿が、光に透けてきた。
ほっとする瞬間だ。
こうして私の今日は終わる。
いつもならば。
残念ながら今日はそうでもないけれど。
「気をつけろ。」
歳さんはそう一言残して消えてしまった。
刀を握ったまま浦原さんが私を振り返る。
いつでも切る準備はできている、と言ったところだろうか。
「さて、では」
「おはようございまーす!!!」
どこから声が出てきたのかと思うほど、能天気な、そしてテンションの高い声が私達の耳に届く。
がさがさと植木の陰から出てきたスーツに眼鏡の長身の男は外国人のようだ。
ずいぶんと早起きな人だ。
「おや、小泉さん。
おはようございます。」
浦原さんの知り合いらしい。
「浦原サン!
まさかここで事件でもあったんですか?!」
わくわく、という表現がまさに正しいと思ってしまうようなその様子。
ずいぶんと変わった人なのだなぁと思う。
しかし、今は救世主と呼びたい。
「ええ。
まぁ、いつものことッス。」
「いつも!?
いつもここで物の怪が出るんでしょうか?」
「ここ最近ッスけどね。」
「Wow!!
どうして早く知らせてくださらなかったんですか!」
どうやらこの人、物の怪の追っかけのようだ。
こっちは毎日殺されかけているというのに、ずいぶんと能天気な男である。
「いやなに、ちょっと藤田サンがねぇ・・・。」
突然出てきた名前に私は二人を見た。
浦原さんがにやりと笑っている。
・・・嫌な予感がする。
「藤田サン?
彼がどうしたというのですか?」
「実はこの子、最近見つかった魂依なんッスけど、軟禁して監視してるんッスよ。」
「それはまたどうして?
制服から見て、妖邏課の方のように見えますが。」
「記憶喪失らしくて。
夜は怨霊と戦わせ、昼間は自分の家に軟禁してるんッスよ。
あの人は。
・・・小泉さんどう思います?」
浦原さんの言葉は間違いではない。
でもその言葉の雰囲気が、妙に怪しいのだ。
彼はふわり、と何の前触れもなく私の肩を抱き寄せた。
「出会って間もない、こんな若い女性を、ですよ。」
深くかぶっていた帽子を奪われ、私はあっとその帽子を追う。
「返してください!」
「なんとぉ!!!」
私の訴えは小泉さんの大きな声にかき消された。
「それはあってはなりません!
藤田サンは一体何を考えていらっしゃるのでしょう!?
お嬢サンッ!!」
がしっと肩を掴まれた。
浦原さんは楽しげににやにや笑っている。
(完全に遊んでいるなこいつ!!!)
「なにか嫌なことをされているとか、大丈夫ですか?
こんな小さなお身体で!
手も傷だらけではありませんか!」
途方もなく面倒なことになってしまった気がしてならない。
「何をしている・・・。」
地を這うような声があたりに響いた。
低い声なのによく通るなぁと、場違いなことを考えてしまう。
小泉さんの向こうで、藤田さんが腕を組んで見ている。
むしろ睨んでいる。
「いやぁなに、ちょっと頼まれましてね。
彼女をいじめないようにと。」
浦原さんがにたりと笑った。
今まで考えなかったが、藤田さんと浦原さん、もしかしたら、仲がものすごく悪いのではないだろうか。
藤田さんと一緒に来たのだろう。
彼の後ろに控える阿散井さんはめんどくさそうに見ているし、黒崎さんはあきらめているし、吉良さんは慌てている。
・・・もしかしたらよくあることなのかもしれない。
そしてこれをさらにややこしくするであろう人物が声を上げた。
「ひどいではありませんか、藤田サンッ!
こんなうら若き乙女を軟禁して監視するなんて!!
貴方には武士としての誇りはないんですか?
しかも怨霊と戦わせるなんて!」
テンションの高い早口の声が私の斜め上で捲し立てる。
彼の手は私に近づこうとした藤田さんをさえぎっていた。
どうやら藤田さんから護ろうとしているらしい。
その向こうから深緑色の瞳がひたと私を見据えた。
「この状況を
正しく、が強調されたのは気のせいではなかろう。
「誤解を解こうとしたのですが」
「誤解!
誤解などしてはおりませんよ!
今、藤田サンよりもよっぽど信頼のおける浦原サンがおっしゃったではありませんか!」
「いえ、私からすると藤田さんのほうが」
「騙されてはいけませんよ!
この人は物の怪と聞くと倒すことしか考えていない。」
どうも小泉さんはテンションが上がりきってしまっているせいか、私の話を最後まで聞いてくれない。
そもそも浦原さんだって物怪に対してかなりドス黒いものを抱えていそうだ。
それを隠して上手く小泉さんと接しているだけで、使えるものは使える主義に見える。
だけど私は、藤田さんと一緒でそういうことは下手だ。
「いえ、私も当たらずとも遠からずでして・・・。」
ようやくしばらくの間が空いた。
「・・・なんと!」
小泉さんはばっと後ろをふりかえり、がしっと私の肩をつかんだ。
忙しい人だと思う。
「どうしてそんなことをなさるのですか?」
「そ、それは相手が私を殺そうとするからで。」
「それには何か理由があるのでしょう!」
「ええ、のっぴきならない理由がございまして。」
「近代化が進む今、もののけは姿を消しつつあるのです!
きちんと話し合って共存していく道を」
「もういい。
離せ馬鹿者。」
どん、と体を強くひかれた。
私はよろめきながら小泉さんの方を見、彼の姿は緑の背中によって隠された。
「貴様にはわからん。
それだけだ。」
その背中が妙に寂しげなのは、気のせいだろうか。
「わからんではすみません!
これだからオサムライさんは!」
なんだかいろんな人が馬鹿にされた気がして、私は藤田さんの背中から思わず出た。
「お侍かどうかは関係ないと思いますけど。」
「おっしゃることはもっともですね。
では、頭の古い藤田サン、と申しましょうか。」
その言い方に妙に腹が立って、つかつかと男に歩み寄り、その眼鏡を奪う。
「何を!
返してくださいっ!」
男は相当驚いたようで私に手を伸ばした。
その手にわざと眼鏡を持った手を握らせる。
予想以上に力は強い。
フェミニストの彼が、これほど力を込めるなど。
(それほど気づかれたくなかったか?)
そのまま腕を引いた。
男はつんのめるように私に倒れこむ。
鼻先が触れ合うほどの距離で、私が男の胸を押し、足を踏ん張って転倒を免れる。
触った感触から筋肉は大してなさそうだ。
転倒の様子を見ても武術は身につけていないだろう。
そして。
(義眼だ。
・・・しかも微かに魂依の気配が残っている。)
驚いたせいだろう。
見開かれたままの目を、私はじっと見つめた。
「も、申し訳ありません!
かよわいお嬢さんに、私は、なんということを!」
ぱっと離れてすぐに取り繕ったのだろうが、もう遅い。
「物の怪を視たことはあるかもしれないですが、怨霊に殺されかけたことはないですよね?」
一瞬取り繕われた顔も、すぐに驚きの表情を浮かべる。
それは藤田さんや周りの人たちも同じだった。
「一体・・・一体どうしてそれを?」
「勘みたいなもんです。」
物の怪が見えるか見えないかは、気配でわかる。
この世界で魂依と言われる人と言うのは、気配が違うのだ。
自分で言うのもなんだが、私の魂依としての力はやたらめったら強いから、同族を見つけやすいのかもしれない。
「人には人の事情があり、世界があります。
貴方が物の怪を殺したくないのは、彼らによって死ぬような目に遭ったことがないからでしょう。
戦場で敵がライフル撃ってくるのに、話しあいましょうなんて惚けたこと言う馬鹿なんていやしない。」
「もういい。」
藤田さんの声は無視する。
ここで終わるのはフェアじゃないから。
「その代り私も、貴方の言う物の怪と共存する世界を知りません。」
男のブルーの右目と、グリーンの義眼がじっと私を見つめ、そして。
「すばらしい。」
「は?」
とぼけた声は藤田さんだ。
「素晴らしいお嬢さんだ!」
藤田さんを押しのけて、男の人が私の視界に割り込んできた。
そして手を取って、握り締める。
「私は小泉八雲といいます。
八雲とお呼びくださいね、咲サンッ!」
「は、はぁ・・・。」
「貴女とぜひ物の怪の素晴らしさをお話した」
「離せ馬鹿者。」
本日二度目だ。
どんと押されて、緑の背中が、小泉さんを隠す。
「まだ報告書も書き上がっていない。
これ以上邪魔をするなら公務執行妨害で連行する。」
「なんと!
私達の交流をそんな無粋な物で邪魔するおつもりですか?」
「邪魔しているのは貴様だろう。
行け。」
顎で示された執務室へと私が歩き出すと、小泉さんは捨てられた子犬よろしく寂しそうな視線をよこす。
「あ、あの、またの機会に・・・。」
そう言うと彼はぱあっと表情を明るくした。
ポケットからノートを取り出して、何かをメモする。
それをちぎると私のところまで駆け寄って、手に握らせた。
「こちらは帝国ホテルの私の部屋番号です!
平日は授業がありますが、土日でしたら部屋におります。
よろしければランチでもいかがでしょうか?!」
「早く行かんか。」
藤田さんが私の肩を押し、小泉さんの手が離れる。
「え・・・っと、その・・・」
「お待ちしておりますので!」
キラキラした瞳の小泉さんに答えを言う暇もなく、藤田さんに強く背中を押されて連行されてしまった。
お誘い?