現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
引き留められてしまった私
名前変換※注意
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日比谷公園で刀を振るうようになって3日。
黒崎さんがめきめきと上達してきていて嬉しいなぁと勝手に思う。
彼は純粋で初でまっすぐで、強くなる可能性を秘めている。
吉良さんいわく、黒崎さんは今年採用された新人で、まだまだ鍛錬途中なんだそうだ。
でも凄く負けず嫌いだからすぐに上達するよ、と笑顔を見せていた。
彼も後輩の成長は嬉しいらしい。
吉良さんや阿散井さんは強い。
藤田さんほどではないけれど、私も純粋に剣だけだったら勝てるかわからない。
式神の力も強くて、戦いに加わってくれるから、本当に強い。
彼らが助っ人に入ってくれる間は、お茶を飲んでのんびりできてしまうほどだ。
藤田さんはそんな特別な力は使わないけれど、べらぼうに強い。
それにときどき、技が私と似ている気がするのが不思議だ。
尋ねれば、昔歳さんと一緒にいた時に学んだのだという。
そう言えば歳さんが私の剣を見たときに天然なんとか流がどうとか、言っていた気がする。
あの流派のことなのだろうか。
いずれにせよ、私が記憶喪失である限り、同じかどうかなんて分からないのだから仕方ない。
余計なことは頭の隅に追いやって、今日も刀を振る。
ばったばったと斬り倒していくうちに、私も黒崎さんみたいにめきめき上達していけたらいいなと思う。
やたら大きな怨霊を切り捨てた時だった。
「やはり君はこっちに来て正解だったかな。」
背後の気配に振り返って袈裟がけに斬りつける。
それはステッキによって防がれた。
私の剣が止められたのも驚きだし、それがステッキだというのも驚きだ。
斬り落とせそうなものを。
相手を思いっきり睨みつける。
目の前にいるのは赤いスーツにシルクハットの、銀髪の、糸目の男。
ずいぶんと派手な容姿で、一度見たら忘れるはずが・・・。
「・・・・ああっ!!!!」
しばらくの間を開けて、私は彼をどこで見たかを思い出し、思わず叫んだ。
そして飛びずさる。
「思い出してもらえた?
嬉しいよ、満ちゃん!」
このしつこい話し方、そうだ、間違いない。
マジックで私を・・・
(どうしたんだっけ?)
あの夜、私は一人だった。
家にいたのも一人。
頼れる人もいなくて、ただ独り。
死んだ祖父の位牌に手を合わせ、それからいつも一緒だった愛刀をその前に添えて、
(それから・・・そうだ、身一つで夜に外に出た。)
理由は一つだ。
(私、たしか・・・)
「思い出すのはまだ早いかな。」
ふわりと額に男の手が触れていた。
触れられるまで気がつかなかったし、触れられてしまえば動くことは叶わなかった。
(十分に距離はとっていたはず、な、の、に・・・。)
頭の中に靄がかったようになって、記憶が遠ざかっていく。
「でも、君にはやはり、兼定が似合うよ。」
彼の言葉の意味を考えようとするけれど、記憶をたどることはできない。
「てめぇ何者だ?」
その代り、歳さんが現れて尋ねた。
不思議なことに、怨霊達は何かに命令されたかのように一定の距離を保ったまま、襲ってくることはない。
(この人の・・・力?)
目の前の彼からは強大な力を感じる。
それは、怨霊から感じるものに似ている。
妖気のようなものだ。
「君は相変わらず、だねぇ。
でもごめんね、男には興味ないんだ。」
「質問に答えろ。」
「おお怖い。」
おどけて見せる彼に、歳さんは睨みを利かせる。
でもそれに怯える輩でもないらしい。
「冗談が通じないとモテないよ。」
「斬るぞ。」
「失礼。
僕はチャーリー。
奇術師だよ。」
「奇術師だ?
その前にてめぇは」
斬撃に身を低くする。
それは歳さんも、そしてチャーリーさんも一緒だった。
その一撃で、あたりの怨霊が全て消された。
強大な力だ。
藤田さんでも、阿散井さんでも、吉良さんでも、黒崎さんでもない。
(だ・・・れ?)
「おや。
これはどういう状況でしょうねぇ。」
現れたのは藤田さんと同じ格好をした人だった。
やわらかな金髪が美しいと思う。
そして、口調が砕けているわりに、藤田さんに負けない鋭い目を帽子の下で光らせている。
「うちで保護しているはずの魂依。
その魂依と親しげに話している物の怪。
アタシはどちらを斬ればいいッスか?」
日本刀がきらりと光る。
私が裏切ったんじゃないかと思っているから、こんな聞き方をするんだろう。
「チャーリーとか言いましたねぇ。
アタシはあんたに忠告したはずだ。
二度と東京に現れるなと。」
過去にも二人は会ったことがあるらしい。
それにしても穏やかじゃない。
チャーリーさんは別に怨霊と違って、危ない物の怪ではないように見えるのに。
「聞いたねぇ。
でなければどちらかが死ぬまで、殺し合うことになる、と。」
チャーリーさんも糸目を開いて、ステッキを構えている。
これは殺るモードだ。
何が何だかわからないが、私は気づけば二人の間に割って入っていた。
なんだかよくわからないが、無駄な殺生を好む輩はいないと信じたい。
「庇うんですね?」
ずん、と男の殺気が私に向けられる。
背を冷や汗が伝った。
この人に勝つ自信はない。
刺し違えるのが関の山だ。
「頼もしいねぇ、満ちゃん大好き!」
背中から聞こえる声は、本当に、酔狂である。
勘弁してほしい。
「庇うとか、庇わないとか、そんなんじゃありません。
妖邏課というのは、化けの神を生み出す能力のある者や物の怪を監視、それに関する事件の処理が仕事だと伺いました。
彼と戦うことは、どれにあたるのですか?
・・・浦原警部補。」
彼を見たのは、妖邏課で兼定を持てる者はいないか確認するため、皆が集まった時だった。
簡単な挨拶しかしなかったが、覚えている。
彼は藤田さんと同じ地位にいる人で、つまりは彼と同じように強い人だ。
「貴女は知らなくていいことだ。
藤田警部補に教えられませんでしたか?
所属はしていても、一時預かりに変わりはなく、貴女もまた、監視対象にすぎない。
そんな女に教えることなどない。」
次の瞬間、兼定が高い音をたてた。
腕がしびれる。
目の前で細められた視線。
「よく止められましたねぇ。」
収まることを知らない殺気。
鍔迫り合いは明らかに不利だ。
「そりゃどうも。」
なんとか隙をついて飛び下がる。
「藤田警部補も認める腕、かぁ。
アタシの殺気に腰を抜かさない女がいるとは、驚きッスね。」
歳さんが私を庇うように立った。
「お前が何を考えてこいつを襲うのか知っちゃいねぇ。
だが、俺たちにはこいつを殺したくねぇ理由がある。」
「理由って?」
尋ねる私を、歳さんは呆れたように見、浦原さんはおもしろい子だと、くつくつ笑った。
「チャーリーはお前の過去を知っている。」
ため息交じりの歳さんに、私はようやく思い出した。
「・・・あっ!!」
「いやだなぁ。
せっかく満ちゃんが忘れていることを思い出させないでよ。」
のんびりした声に満は振り返って睨みつける。
「チャーリーさん!
本当に、どういうことですか?」
「・・・時が来たら、教えてあげるよ。」
月の光を受けて金色に輝いて見える瞳が、静かに語りかけた。
私はその真剣な眼差しに、言葉を返すことができない。
「それから。」
チャーリーさんは浦原さんに目を向けた。
「僕は君が思っているようなことには関係ないよ。」
「さぁ、どうでしょう。」
浦原さんの方もなんだか殺気を引っ込めたようだ。
納得してくれたのだろうか。
「あまりいじめないでほしいな、その子。」
「貴方がアタシの目の前から消えたら、考えて差し上げましょう。」
チャーリーさんは少しさみしそうな顔をしてから、するりと闇に消えた。
消えた鍵