現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
引き留められてしまった私
名前変換※注意
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四地区は日比谷公園を中心とする地域で、比較的通りが広い。
これも私の怨霊を呼び寄せてしまうことを考慮したうえでの配置なのだろう。
「1時間巡回をし、次の1時間は水野の助太刀をします。」
日比谷公園で私と藤田さん、それから歳さんは予定を話し合う。
「了解です。
でも大丈夫ですか?
藤田さんずいぶん忙しくなりそうですが。」
「ああ。
7時、11時、3時は黒崎、吉良、阿散井が来ることになっている。」
「あの餓鬼か?
面白そうだ。」
楽しげに笑う土方さんの笑顔は、ずいぶんいじわるそうだ。
そうこうしているうちに、あたりに不穏な空気が流れ始める。
怨霊が集まり始める気配だ。
「藤田さん、そろそろ。」
「相分かった。
無理はせぬよう。」
強面ながら一応気遣いの言葉をかけてもらい、私は顔を引き締めて頷く。
「来たぜ。」
歳さんの言葉に、私たちは互いに背中を向け、藤田さんは駆けだし、私は兼定を振り上げた。
あんな細い女のどこにこんな力が眠っているのかと、俺は驚く。
瞬発力も、気配を探る力ももちろんだが、あの剣術は並みじゃない。
昔どこかで見たことがあるような気がする動きだが、どこの流派かまでは思い出せない。
でも驚いている場合ではなかった。
慌てて愛刀の残月を引きぬいて怨霊を切り裂く。
俺の気配に振り返った切れ長の目は一瞬、視線だけで俺を殺しそうなくらいの殺気を帯びていた。
思わず俺は残月を握り締めるも、彼女の殺気はすぐに消えた。
「ええっと、黒崎、さん。」
ぽとりと落ちた言葉は、さっきの鬼のような姿からは予想もつかないような声で、俺は拍子抜けしてしまった。
「あ、ああ・・・。
あっ!」
振り下ろされた刀に俺が叫ぶより早く、彼女は身をひるがえした。
「おっと。」
そしてそのまま回転をかけて敵を斬り倒す。
呆気にとられている俺の隣を風が通り過ぎたかと思うと、背後で断末魔。
振り返れば俺の背後を狙っていた怨霊を、彼女が倒したところだった。
「昨日も思ったんですけど・・・
黒崎さん、いつか死にますよ。」
ひそめられた眉に慌てて俺もあたりの怨霊に向かって刀を振った。
俺は男だし、訓練も受けてきた。
体力にも、運動能力にも、そして剣術にも自信はある。
それなのに。
(なんだよあいつ!)
明らかに俺以上に多くの怨霊を倒している。
彼女の身のこなしは異常なのだ。
相当戦いなれている。
あの藤田警部補と並んでも何ら遜色ないほどだ。
そしてはっと自分がここに派遣された理由を思い出す。
「あ、あんた、この1時間は休憩にあてねぇと!」
「でも、黒崎さん放っておけないですし。」
その背中は疲れを感じさせない。
もうこの戦闘は始って1時間以上たっているはずだった。
ちらりと振り返った彼女は笑顔だった。
「この次の休憩は藤田さんですから。」
警部補に全幅の信頼を置いているのが分かった。
そして、俺ではいかに頼りないかを突き付けられた気がした。
やるせなさに刀を思いっきり振るう。
ー仕方なかろう。ー
俺の愛刀から式神、残月のおっさんの声がする。
ー一護は彼女には劣る。ー
「だが太刀筋は悪かねぇ。」
耳に飛び込んできた男の声。
振り返りかけて、目の前の敵を思い出し、先に片づける。
「お、学習したじゃねぇか。」
皮肉を言う男を振り返る。
彼は昨日、自分たちを腑抜けと呼ばわった、彼女の刀にとりついている怨霊が、姿を現していた。
切れ長の瞳も、つややかな髪も彼女によく似ていると思う。
この怨霊も相当の力を持つことは、俺にもよくわかった。
実際、彼が取り憑いている兼定を正気で持つことさえ、俺には出来なかった。
怨霊である“歳さん”の力が強すぎて、それが柄を伝って身体にどんどん侵入してくる。
その“怨念”に身体が支配されていく感覚は、今思い出しても身の毛がよだつ。
残月のおっさんに言わせると、もともとかなりの力を持っていた上、恨みを受け、かつ強い執念を持ったまま死んだ可能性が高いらしい。
「うっせぇ・・・。
斬るぞ。」
悔しくて睨みつければにんまりと口の端が持ち上がる。
嫌な笑い方だ。
「歳さん、意地悪しないの。」
呆れたように水野が笑った。
そして背中越しにぽつりと言った。
「黒崎さんにもどんどん強くなってもらわないと、ね。」
歳さんは満足げにうなずいた。
同年代の女にけしかけられるのは、何とも言い難い屈辱だ。
ーなかなかいい女だ。ー
残月のおっさんがにやりと笑っているのも気に食わない。
「・・・おう。」
改めて残月を握りなおし、俺は力いっぱい振るう。
水野の身体の動きを盗み見ては、自分のものにしようと試してもみた。
あの機敏さは身体の大きさの違いもあり、簡単にまねできるものではないが、足捌きは大いに参考になる。
(怨霊と戦いなれている。)
ーそうだな。
あれは尋常じゃない。ー
俺と同じことをおっさんも感じているようだ。
女の魂依という、もういないとまで思われた存在が、なぜこんな風にぽっと俺たちの前に現れたのか。
極めて不思議だった。
だが藤田警部補に聞いたところで教えてもらえるとは思えない。
彼は口も態度も固すぎるほど固いのだ。
「そろそろ1時間たつのでは?」
かけられた声に時計を確認すると、確かにもうそんな時間だった。
「大丈夫です、行ってください。」
怨霊と戦っているとは思えないような穏やかな声に、俺は一つうなずいて公園を離れる。
最初から最後まで、細い背中は戦い続けていた。
(次は休憩をとらせてみせる。)
心に誓いを立てれば。
ーそうだな。ー
残月のおっさんは楽しげに笑った。
不思議な女