現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
引き留められてしまった私
名前変換※注意
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トントン、と包丁の音がして目が覚めた。
日が傾いてきたのか、影が長い。
いろいろ逆転している気もなくはないが、気持ちのいい目ざめだ。
「藤田さん、おはようございます。」
台所をのぞけば、藤田さんはこちらをちらりと見た。
まるで良妻だ。
「すみません、寝過ごして。
手伝います。」
「ではそちらの鍋を頼む。」
とうふとわかめが入っている。
「味噌はそこに。」
言われた壺から味噌を取り出し、溶き入れる。
「食器はこちらのを使えばいいですか?」
「ああ。」
ご飯と、干物と、味噌汁と、和え物を順に盛り付け、居間に運ぶ。
最後にお茶を入れて。
「いただきます。」
「いただきます。」
すっかりなじんでしまっている自分が不思議である。
「おいしい・・・。」
「早く食え。
今日からお前も出勤する。」
「あ、はい。」
藤田さんはご飯を口に運ぶ私を見て、何か言いたげな顔をしている。
「あの、なにか。
あ、この和え物もおいしいですよ!」
「そんなことは聞いていない。」
そう言ってから藤田さんはため息をつき、お茶を飲むように口元をかくして、そっぽを向いて尋ねた。
「・・・痛みはないか。」
私は思わず目を瞬かせた。
そして、笑う。
彼は怪我のことを心配してくれていたのだ。
「ありがとうございます。
松本先生の薬のおかげで、大して痛みません。」
藤田さんは目をそむけたまま、そうか、と呟いた。
出勤すると若い男が先に出勤していて、藤田さんに敬礼をした。
軽くうなずいて通る藤田さん。
私はどうすればいいのか分からなくて、
「こんばんは。」
と、小さく挨拶をした。
相手はそれに面食らったらしく、しばらく間をあけてから、
「・・・こんばんは。」
と返した。
その時、昨日助けた子だ、と気づく。
「おい。」
部屋の奥で藤田さんが呼ぶので、私は慌てて追いかけた。
「男ものの制服しかない。」
「え、制服お借りできるんですか?」
「うちで働くなら着てもらわなければ困る。」
藤田さんは1着を手にとって私の体に合わせてみる。
「着てみろ。」
顎でしゃくった先には扉があった。
「はい。」
私はその扉の向こう、ちょうどこの前取り調べを受けた部屋に入って藤田さんから借りていた着物を脱いだ。
学ランのようなその制服は深緑色で、本当に藤田さんが着ているものと同じだった。
(ちょっと嬉しいかも。)
Yシャツに袖を通し、ボタンを留めていた時、ガチャリ、と音がしてドアが開いた。
「あ・・・。」
「あ・・・。」
間抜けな私の面を見た、先ほどの若い男が目玉が零れそうなほど目を見開いている。
「う、わっ・・・!」
そのまま下がって、何かに躓いたのか転んで派手な音を立てた。
私は慌ててボタンを粗方止め、男の方へといく。
「あいたたた・・・。」
頭をさする彼に、私はしゃがんで謝る。
「ごめんなさい、その、お目を汚して。」
「何事だ?」
そこに藤田さんがやってくる。
そして眉間にしわを寄せた。
だいたい分かったらしい。
「早く着替えろ。」
「すみません。」
私は慌てて部屋に戻り、Yシャツの残りのボタンを止め、上着を着た。
鏡がないから分からないが、これでバッチリのはずだ。
部屋から出るとむくれた顔をしたさっきの男と藤田さん、あと、部下の人が何人かいた。
「空太刀咲だ。
今日からうち所属となる。」
藤田さんが紹介してくれる。
こんなときまで仏頂面だ。
どんなに町の平和を守るおまわりさんでも、きっと町の娘さんたちには怖がられているに違いない。
そうは思いつつも、お世話になっている身。
にっこり笑って私は挨拶をする。
「昨日もお世話になりました、空太刀です。
よろしくお願いします。」
「よろしくね。
僕、吉良イヅル。」
さらさらとした金髪の、少し年上に見える男の人が声をかけてくれた。
優しそうな笑顔に、藤田さんも見習ったらいいのに、と思う。
「阿散井恋次だ。
よろしくな。」
赤い髪を高いところで束ねる青年が笑いかける。
強面だが案外優しいのかもしれない。
「・・・黒崎一護だ。」
ぶすっとしたオレンジ色の髪をつんつんと伸ばした青年は、先ほど私が驚かせてしまった人だ。
「うちの班はこれで全員だ。
あと昨日いた4人は浦原班の連中だ。
また業務でかぶったら紹介する。」
そう言えば物腰の柔らかな綺麗な金髪のリーダーの人とその部下らしき人たちがこの前はいたな、と思う。
「今日はうちは西の担当だ。」
藤田さんは棚から地図を出し、机に広げた。
そこには町の様子と、それを何本かの線が分割していた。
「吉良は壱地区、阿散井は弐地区、黒崎は参地区、俺と空太刀は四地区だ。」
細く長い指でしなやかに地図を指し示しながら告げられる。
3人は短く肯定の返事をし、敬礼をした。
黒崎さんも様になっていて、さっきの初な反応とのギャップに思わず笑いかければ睨まれた。
彼とは仲良くなれそうだ。
「いつも通り、何かあったら式神を飛ばして知らせろ。」
式神、というのはそれぞれが刀に封印している物の怪らしい。
昨夜教えてもらった。
私にとっては歳さんのことですね、と言うと、歳さんはひどく複雑な顔をしていた。
「それでは日没ととともに出動。」
「了解っ!」
本当に敬礼は様になっている。
私も真似して隣でやってみると、藤田さんが呆れたように溜息をついた。
「遊びじゃない。」
「解っています。
精一杯務めさせていただきます、藤田警部補。」
ちゃんと役職名で呼ぶと、彼はまた柳眉をひそめた。
そうこうしているうちに、部屋が薄暗くなっていく。
なんだかわくわくするのは、初めてのお仕事だからだろうか。
そんな私の気持ちが伝わってしまったのか、藤田さんは仕方がない奴だ、とでも言いたげに眉尻を下げる。
私を含め5人は腰にそれぞれの刀やサーベルを差した。
その頃になっても現れない浦原班に、私があたりをきょろきょろしていると、吉良さんが近くにやってきてくれた。
「浦原班は今日の日暮前から張り込みなんだ。
会うのは早くて明日だよ。」
やさしい笑顔に私も笑顔になってしまう。
「そうなんですね、ありがとうございます。」
「君が本当に強いのはよく知っているし、藤田警部補がご一緒だから大丈夫だとは思うけれど、十分気をつけてね。
最近何かと物騒だから。」
昨日会っただけの自分をこんなに心配してくれるなんて、なんていい人なんだろうと、咲は大きくうなずく。
「はい!
お気づかいいただきありがとうございます。」
「元気の良い返事でよろしい。」
少しおどけたようにそういう彼は、とても優しくて温かい。
いい人だなぁ、と思わずにはいられない。
それに比べ。
「いくぞ。」
不機嫌な声に思わず出そうになる溜息を飲み込み、私は振り返る。
「はい!」
大きな声で返事をして、すでに夜の闇に溶け込もうとしている彼の背を追いかける。
緑の背中は闇にとろんと溶けて、すぐに見えなくなってしまいそうで、私は足を速めた。
いざ、出陣