現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
引き留められてしまった私
名前変換※注意
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「すみません。」
「何度も謝るな。
その足で動かれて何かある方が迷惑だ。」
眉間にしわを寄せたまま、藤田さんは魚を綺麗に食べていく。
私もそれにならって夕食に手をつけた。
藤田さんが作ってくれた夕食である。
日没と共に仕事が始まるのに、私の分まで作ってもらって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「おいしい・・・。」
思わず呟く。
藤田さんは無反応だ。
「本当においしいです。
お料理、お上手なんですね。」
重ねてそう言えば、藤田さんは私を睨みつけた。
「さっさと食え。」
この人は忙しいんだった、と思いつつ、箸をすすめる。
箸休めの浅漬けを口に運ぶ。
「なにこれおいしい・・・!」
さっぱりとした口当たりといい、歯ごたえと言い、絶品だ。
「こちらもご自分で?」
「だからさっさと食えと言っているだろう!」
ほんのりと赤い頬。
(なぁんだ、照れているんだ。)
そう思うと一気に気が抜けてしまって、頬が緩んだ。
「良いお嫁さんになれますね。」
「男だ!」
ぴしゃりと言って食事をすすめる。
この人は不思議だ。
一体どんな人生を歩んできたら、一体どんなご両親にしつけられたら、こんな素晴らしい淑女、否、紳士・・・と言う柄ではないが、いい男になるんだろうと思ってしまう。
「私も負けないように頑張ります。」
ついに疲れたようなため息が聞こえた。
「・・・良いからさっさと食え。」
「無理なら洗いものは置いておけ。
それから無理に玄関まで出てこなくていい。」
お仕事に行く藤田さんを見送ろうと、片足を引きずりながら私は玄関までついてきた。
本当はお仕事に行くまでに片づけられる時間だったのだろうが、私が食べるのが遅いせいで洗いものは終わらなかった。
「大丈夫です。
歩きまわるのは無理だけど、立っている分にはそんなに痛みませんし。」
安心させようと笑ってみせるが、藤田さんは少し渋い顔をしている。
でももともとひどく涼やかな顔立ちだから、そんな渋さもまた良い感じ。
制服に身を包んだその姿は、昨日私を問いただしたものと一緒だった。
表情まで、一緒。
(様になるなぁ。)
不意に何か思い出したのか、藤田さんは部屋に戻るため、ふわりと私の前を横切る。
深緑の髪が、柔らかく風に揺れた。
(なんてきれいな髪なんだろう。)
のんびりとそんなことを考えてしまう。
出勤時間も近いはずなのになかなか戻ってこないので、用るを見に行こうかと考える。
忘れ物でもしたのだろうか。
しばらくして返ってきた藤田さんの手には、美しい藍色の紐があった。
「貸してやる。
何かと不便だろう。」
彼の視線は私の長い髪に向いていた。
私は驚いて目を瞬かせてしまう。
本当に細かいところまで気のつく人だ。
「すみません、ありがとうございます。」
有難くお借りする。
長い髪は縛っていないと不便なのだ、‘何かと’。
昨夜のことで思い知った。
彼は不便だとは思わないのだろうか。
(同じくらい長い髪をしているのに。
帽子で押さえられているのかな・・・?)
「気をつけてくださいね。」
そういうと、彼は不機嫌そうに鼻を鳴らし、ぴしゃりと引き戸を閉めて出て行った。
気に障る事をしたのだろうか。
「まぁいっか。
とりあえず。」
髪を簡単に縛る。
現代ではなかなかお目にかからない髪紐であるのに、ずいぶんと慣れた手つきであったが、満はそれに気づくことはなかった。
そして、藤田の目の前では見せなかったような軽い動きで台所までいく。
片足を引きずっていたのはカモフラージュのためなのだ。
(そうでもしないと、藤田さん見張りをつけかねない。)
痛みはあるが、このくらいなら耐えられた。
体が慣れているようにさえ思える。
「さぁて。」
食器を前に腕をまくった。
水道がないこの時代、洗いものはなかなか面倒だ。
よくわからないままに、汚れさえ落ちて入れば文句はないだろう、と、適当に済ませる。
私にも時間があるわけではない。
夜になれば、またきっと奴らがやってくるから。
私は戸締りを手早く済ませ、一か所の窓だけ開けておいて、そこから外に滑り出る。
もうすぐ日が沈む。
そうすれば奴らは、また襲ってくる。
あれだけ手入れされていた庭だ。
すでに庭は見れたものではないが、これ以上荒らすわけにはいかない。
(どこか人がいない広い場所にいかないと。)
右も左も分からないこの世界で、思い当たる場所なんて、一か所しかなかった。
いつも通り巡回をする。
今日は特に大きな事件もなく、いたって平和だ。
最後の巡回場所は日比谷公園。
広い園内は人気もなく、相変わらず寒々としている。
その寒々しさに、過去を思い出す。
斬り合いの日々と、その中で得た、かけがえのない仲間や、部下、そして、上司。
(副長が使われている時、兼定に怨霊など憑いてはいなかった。)
となれば、その後怨霊がついたということになる。
藤田は手を握りしめた。
(兼定に取りつくなど・・・許せん。)
「はぁっ!!」
公園の奥で声がした。
あの声の出し方は知っている。
あの掛け声の後に繰り出される技を知っている。
知っていた声よりも高いけれど、それでも、本質的なところが同じだった。
俺は考えるよりも先に走り出した。
腰のサーベルが喜ぶようにカタカタとなる。
ー同じ匂いがするぞ、
そうだ、あの、兼定とかいう刀だ!ー
刀に取りついている鬼が嬉しそうに笑った。
木立を抜けると、広場がある。
一歩踏み込んで、藤田は足を止めた。
見慣れた美しい広場に、血が舞っている。
サーベルに映る景色は、懐かしささえ感じる戦場に化していた。
自分が生粋の殺し屋だと感じる瞬間だ。
斬り合いの中に、居場所を見いだす。
生きがいを見いだす。
(・・・狂っている。)
それは自分だけではない。
目の前に広がる光景の、中心に居る人物も同じだと、直感する。
その者は踊るように物の怪を斬りつけていた。
水を得た魚のように、生き生きと。
束ねた髪が宙を舞い、切れの長い目が、物の怪を射抜く。
俺は目を見開いた。
こんなに驚いたのは、生まれて初めてかもしれない。
「副長!」
思わず呼んでしまっていた。
(違う。
そんな、そんなはずはない!)
そうだ。
彼は死んだ。
部下であった俺は生き残ってしまったのに。
あの人は、刀で切り殺されるのではなく、鉄砲弾で死んだと、聞く。
それを知ったときは、どんなに不本意だっただろうかと、一晩中震える拳を握りしめた。
だが、俺がどんなに悔もうと、その死を共にできなかったことは変えようのない事実。
会津への忠義を果たそうと、必死に戦っていたあのころには、彼は死んでしまっていたのだ。
目の前で怨霊達と戦う背中は、よく見れば自分がよく知るものよりも小さく細い。
(あれは・・・あの女だ。)
しかしその刀を抜く姿は、ひどくあの人に似ている。
俺の目に映る姿はまだ若い娘なのに、サーベルに映る姿は副長そのものに見える。
それが、自分が最後まで共にいることを選ばなかった戦場のように見えて、俺は駆けだした。
副長によく似た女を背後から襲おうとした怨霊を切り捨てる。
姿はサーベルの刃でしか見ることはできないが、殺気と気配はいつからか分かるようになっていた。
この刀についた怨霊のせいかもしれないが。
「ふ、藤田さん!?」
振り返って応戦するつもりだったのだろう。
兼定を構えた女が振り返って驚いたような顔をした。
こんな顔をすると、この女は副長ではないのだと感じるのに。
(戦っている姿は、本当に。)
「助太刀致す。
理由は後で説明しろ。」
その顔に話しかけると、女は慌ててまた背後から襲いかかってくる怨霊の相手をする。
「ダメです、貴方には関係がない!」
刀を突き刺した敵を蹴り飛ばして刀を抜きながら、女は叫んだ。
「ないわけあるか!」
同じく藤田も叫び、怨霊の首を撥ね飛ばす。
「その兼定は今は亡き俺の上司の愛刀。
それをお前が扱っている時点で、関係がある!」
目を見開いた満が藤田を見た。
こぼれんばかりに見開かれた目は、やはり彼によく似ている。
彼も時折、こんな顔をしたと、懐かしみながら、刀を怨霊に突き立てる。
「分かったらさっさと片付けて話せ。」
「そ、それは・・・刀に聞いてからです!」
(怨霊の許可を取る女とは、面白い。)
藤田は自然と表情を緩ませ、再び刀を振りまわした。
不思議な運命
