現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
引き留められてしまった私
名前変換※注意
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大きいというほど大きくはないだろうが、独り暮らしにしては立派な家だと思う。
藤田さんは部下をたくさん連れていた。
その人達の態度から見ても、どうやら藤田さんは偉い人のようだった。
その割には寂しい家に住んでいるように思う。
庭も、わびさび、と言ったらそうなのかもしれないが、草も生えていなく、またあまり花が咲いているわけでもない。
家の中にも必要最低限のものしかなく、どこか寒々しくも思える。
(藤田さん本人みたい。)
そう思ってからちょっと失礼かな、と反省した。
藤田さんは私に台所を好きに使うようにといって、部屋の中をあらかた説明すると仕事に出かけてしまった。
私は兼定と、与えられた部屋で夕陽が沈むのを眺めている。
紅い陽が沈んでいく。
街に暗闇が降りる。
(さて、どうするかな。)
歳さんは今日は明治23年4月1日だと言った。
ぜひエイプリルフールの嘘であってほしい状況だが、どうやらそうでもないだろう。
問題はいくつもあるが、まず年号だ。
(明治時代ってずいぶん前じゃない?)
どうも納得いかないが、街並みや藤田さんを見ていると納得行ってしまうのがどうも悲しい。
赤く染まった空。
太陽の光が消えていき、部屋に暗闇が少しずつ顔を出す。
それと同時に、私の隣にぼんやりと影が現れ始めた。
「歳さん・・・。」
にやりと上がった口の端。
「なかなかいい家にいるじゃねぇか。
どうしたんだ?」
「ふざけないで。」
歳さんはふん、と鼻で笑って腰を下ろした。
闇が深くなるほど、歳さんの姿ははっきりとしてくる。
そして月明かりが私達を映し始めるころには、向こう側が透けないくらいになっていた。
不思議だ。
歳さんはそれほどまでにこの世に執着があるのだろうか。
私はうっとおしい長い髪を背中に払った。
出来るなら髪を縛るゴムがほしいところだ。
「歳さんが消えてから大変だったんだからね!」
「なにがあったんだ。」
「泥棒捕まえたと思ったら警察に連れていかれて、事情聴取ですよ。
兼定だって取られそうになったんだから。」
「だが俺はここにいる。
うまくやったな。」
大きな手が頭にぽんと乗せられる。
こうして触れることもできるのに、怨霊だなんて、不思議。
「褒めて帳消し、なんて思ってないでしょうね?」
「お、案外しっかりしてんじゃねぇか。」
「馬鹿にしないで。」
歳さんは静かに微笑んだ。
それは寂しげで、ずっと独りでいたんだな、と思うと、ちょっとくらいは許してあげたくなる。
「ここはどこなんだ?」
「事情聴取をしたおまわりさんの家です。」
「・・・どういう風の吹きまわしだ?」
眉をひそめる歳さんが面白い。
「そのおまわりさん、藤田さんって言うんだけど、妖邏課っていう、化けの神を生み出す能力のある者や物の怪を監視、それに関する事件の処理がお仕事なんだって。
夜はお仕事だから、家を好きに使って良いそうです。」
「ずいぶん気の効く奴だな。」
込められている皮肉に気づかないほど私も馬鹿ではない。
「そんな言い方ダメですよ。
どうやら、この兼定に見覚えがあるらしくて。
兼定がもし俺の知っているものであれば、その刀が選んだお前を追い返すことはできないと。」
歳さんの眉間にしわが寄る。
瞳が光る。
「・・・藤田、と言ったか。」
「はい、藤田五郎さんです。」
歳さんは首をひねる。
「しらねぇな。」
「歳さんの名前・・・つまり、兼定に取りついている怨霊の名前を聞かれました。
一応、答えませんでしたけれど。」
「それでいい。
怨霊の名など、むやみに言うものでもない。
それに。」
歳さんは静かに立ち上がった。
「・・・どうしたの?」
「兼定を抜け。」
「えっ?」
「早く!」
歳さんの姿が消えた。
刀が脈打つ。
そうだ、これはきっと
(歳さんの鼓動。)
庭先から入ってきた黒い影。
私の姿を見ると虚ろにあいた目を見開き、襲いかかってきた。
私は刀を握り、影の攻撃を受け止める。
人の形をしたようなそれは、体と同じ黒い影のような刀を持っている。
気をつけないと飲み込まれてしまいそうな、影。
はじき返して大きく踏み込み、袈裟がけに切り捨てると、影は月光の中に消えてなくなった。
ー俺の名を言えば寄ってくる輩は多いだろうからな。ー
刀が、きぃんと月光に光った。
「どういうこと?」
ーそれだけ恨みを買った野郎だということだ。
その藤田という男も然り。
俺が知らねぇところでそいつの身内を殺していた奴かもしれん。ー
垣根から別の影が飛びかかってくるので、慌てて応戦する。
ーこいつらもそうだ。ー
一度受けたら今度は攻めに転じる。
相手に攻撃の隙を与えず、一気に攻めきれば、また月光に消えた。
ー俺の匂いに惹かれてやってくる、憎悪の固まり。
俺と同じ怨霊だ。ー
またひとつ、またひとつと光に消して行くが、きりがない。
お腹もすいた。
「・・・極悪人だったんですね。」
刀が笑った。
ー鬼だと恐れられていたからな。ー
今度は私が笑う。
「そんな鬼さんを守って差し上げるなんて、私はなんて優しいんでしょう!」
ばっさりと、また怨霊を切り捨てる。
ー救えねぇ阿保とも言うがな。
おい、手ぬるい奴ばかりじゃねぇから気をつけろ。ー
「了解。」
振り返りざまに太刀を受け流すが、かなり重い一撃だ。
これは一筋縄ではいかないかもしれない。
「綺麗だった庭が台無し。」
ー知るか。ー
「藤田さんかわいそう。」
ーそいつの肩をもって、泣くことになってもしらねぇぞ。
もう少し疑うことを知った方がいい。ー
「藤田さんはそんな人じゃ、」
黒い刀がひゅうっと顔のすぐそばをかすめる。
危ない危ない。
「ないよ。」
間合いを詰めて一気に剣を突き上げるも、逃げられてしまう。
ーまぁいい。
それはそうと、てめぇ、天然理心流か。ー
「さぁ?
記憶、」
足を払うように斬り込まれた刀を、跳んで避ける。
「ないから!」
ーそうだったな。ー
分からないと言ったのに、歳さんはなんだか嬉しそうだ。
敵と同じく、足を払うように斬り込み、でも私はこれはフェイク。
やはり飛んで逃げた敵に、素早く刀を突き立てる。
ーよく聞け。
これからお前はずっとこいつらに付きまとわれる。
まぁ、お前の場合魂依だから、そうでなくとも物の怪に好かれるだろうがな。ー
私は戦いながらその声を聞く。
ーだからこの兼定を折るか、誰にも見つからないところに捨ててくれ。
魂依っていうのは、ただでさえ物の怪に好かれる。
だからそれまでは人からも物の怪からも、俺がお前を守る。
成りたいなら剣豪に仕立ててやってもいいがな。ー
「ごちゃごちゃ煩いな。
こんだけ迷惑かけといて、今更何?」
この人は人の気持ちをなんだと思っているんだ。
卑屈な人。
命を粗末にする人は嫌いだ。
(あ、怨霊だから死んでるのか。)
それでもだ。
「迷惑だと思ってたらとっくに放り出してる。」
歳さんが息を飲むのを感じる。
驚くほどのことじゃないと思うんだけど。
「私、感じるの。
兼定は、大切にして、守らなきゃならない。」
私は鬱陶しい髪の毛を後ろに払った。
「記憶喪失で、この時代のこともよくわからない頼りない私だけど、私、剣は好きなの。
この兼定も好き。
いくらでも私が面倒を見てあげるから、少しくらいの迷惑なんて気にしないで。」
歳さんが笑った。
おかしそうに笑った。
「なんですか?」
ーいや、てめぇが俺の知っている馬鹿に似てんだ。
途方もねぇ馬鹿な男だった。
・・・分かったよ、てめぇに任せる。ー
似た者同士?
