現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
夢を諦めきれない私
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「もう夜も遅いから、静かにしてるんだよ。」
「はい、姐さん!」
「だから静かに!」
思わずはきはきと返事をしてしまえば、すぐにたしなめられた。
「はいっ。」
私は小さくなって、姐さんについていく。
奥の方まで進んで、襖をあけると綺麗に片付いた部屋があった。
「入りな。
あたしの部屋だよ。」
「おじゃましまーす。」
私が入ると、姐さんは襖を閉めた。
「で、花。
あんた家の場所は分かるのかい?」
「それが・・・姐さん・・・。」
たまたま助けてくれた人に言うのもどうかと思う。
でも、拾った物の面倒というのは最後まで見なければならない。
(のだ、きっと。)
ということで、申し訳ないが、相談してみることにした。
(チャーリーさんよりもよっぽど信頼できそうだし。)
かくかくしかじか。
嘘をつくのが下手な私が包み隠さず話す訳の分からない話を、姐さんはうんうん、と聞いてくれた。
ありえない、とか、信じられない、とか言わずに。
「分かった。
なら、記憶が戻るまでうちにいな。」
予想をはるかに上回る返事と、その頼もしい笑顔に、むしろ私が戸惑ってしまうくらいで。
「でも、そんな、どこの馬の骨かもわからないですよ、私。」
「そりゃ記憶喪失だから仕方ないだろ。」
「悪い人かもしれないじゃないですか。」
「悪い奴はあんな野良犬くらいでびーびー言ってられないよぉ。」
姐さんは笑いを必死にこらえているようだ。
「ま、ビビりの子犬1匹ひろったくらいなもんだ。
ちゃんと面倒くらい見るさ。」
私はやはりその姉ご肌っぷりに感動してしまって、思わず抱きついて叫んだ。
「姐さんっ!」
もちろん、小声で。
「ありがとうございます!
私、置いてくれるなら何でもします!」
「よしよし。」
姐さんはやはり子犬よろしく私を撫でて、それからぽんぽんと頭を叩いた。
「それじゃあ、今日はもう寝な。
疲れてるだろ?」
そう言われて、私はどっと疲れが出てきた。
「ほら、布団敷くよ。」
どうやら布団は一組しかないらしい。
手伝おうとぼやぼやしているうちに布団は敷かれて。
「さ、入りな。」
めくられた掛け布団の中に収まる。
しかしどうやら姐さんははいらないようだ。
これは姉さんの布団なのに。
「姐さんも・・・。」
すでに半ば寝ている私。
「気にしなくていいよ。」
「気にします・・・ダメ、です・・・。」
ぎゅっと握ってぐいぐい布団にひっぱる。
「仕方ねぇなぁ。」
ぽつりとつぶやくと、姐さんがごそごそと布団に入ってきた。
私はなんだかそれが嬉しくて、姐さんに抱きついた。
「おや、すみな、さい・・・。」
気づけば私は夢の中。
姐さんのため息なんて、聞こえなかった。
「花、花。」
ぼんやり声が聞こえて、意識が浮上する。
目を瞬かせると、目の前に綺麗なお姉さんがいた。
いいにおいがする。
お香のにおいなのかな。
「姐さーん。」
「こら、寝ぼけてるんじゃないよ。
あんたのこと、この置屋の主人に言って交渉しに行かないといけないんだから。
身支度おし。」
その言葉に一気に置かれた状況を理解する。
(そうだ、私確か明治時代の東京に来たとか、変なマジシャンに言われて・・・。)
「はい。」
「にしても、あんた変わった着物だね。」
言われて自分の姿を見下ろす。
ただのスウェットなのだが、確かにこの時代からすると素材も珍しいのかもしれない。
「・・・なんででしょうね?」
とりあえず会話を合わせておく。
記憶喪失とは便利だ。
「あんた、背丈もそれなりにあるから、あたしの着物でもなんとかなるでしょう。
とりあえず、これでも着ておきな。」
渡されたのは橙色の着物だ。
そう、着物だ。
(着れるわけがない。)
姐さんはそそくさと自分の化粧を始めてしまう。
(どうしよう・・・。)
とりあえず着物を広げてみた。
紐だの肌着らしきものなどあるにはあるが、訳が分からない。
とりあえず肌着らしいものを着てみる。
(右前?左前?)
浴衣を着た時にそんな話があった気がして、でもどうなのか思い出せない。
「・・・かしな。」
不意に襟元に大きな手が伸びてきて、襟を整えてくれる。
「良く見て覚えるんだよ。
いつまでもあたしが着つけてられないからさぁ。」
面倒くさそうに、でも丁寧に着ものを着せてくれる。
着終わってみると、スウェットよりもだいぶしんどい、のは仕方がないか。
「ありがとうございます、姐さん!」
「はいはい。
ちょっと待っておおき。」
言われた通り、姐さんが化粧をする間、私はじっと待っていた。
この時代はファンデーションや口紅など、手軽なメイク道具があるわけでもないようで、なんだか見るからに面倒そうだ。
でも、姐さんは手早くそれを自分の顔に乗せていく。
ただですら綺麗な顔が、どんどん綺麗になっていく。
「姐さん、綺麗・・・。」
鏡に映る顔に思わず呟けば、姐さんは色っぽい笑顔を浮かべた。
「女に口説かれるのは初めてだねぇ。」
立ちあがった姐さんに、つられるように私も立ち上がる。
間近で見つめる。
赤い唇に血色のいい頬、形の良い眉に長いまつげ・・・
やっぱり、とっても綺麗だ。
「あたしがあんたの身の上、簡単に説明するから、きちんと挨拶するんだよ。
奇術師やら未来から来たとかいうくだりは言わないことにするよ。
良く思わない人もいるかもしれないからねぇ。」
「そ、そうですよね。」
当たり前で、非常に正しい判断だと思う。
「さ、行くよ。」
部屋を出ればまだ外は暗いのにもう何人もの人が起きて動いていた。
大きな屋敷の奥へ奥へと進んで言って、一つの部屋の前で姐さんが止まる。
「ちょっといいかい?」
「あん?
音奴かい、はいんな。」
さっと襖をあけて中に入ると、中には年配の女性が一人、煙管をふかしていた。
落ち着いた感じの女性で、厳しいおばあちゃん、みたいな雰囲気だ。
その人は私を見て怪訝そうに眉をひそめた。
「静さん、実はねぇ、この子、花って言うらしいんだけど、
昨夜野良犬に追いかけ回されているのを拾ってねぇ。
どうやら転んだときに頭打って、記憶がなくなっちゃったらしくてさ。
ほっとけなくて連れてきたの。
一晩一緒にいたけど悪いことはしないみたいだし、本当の悪党ならもっとましな嘘つくだろうし。
悪いんだけどあたしの付き人として、置屋におけないかねぇ?」
姐さんがそんなふうに置屋の人に紹介してくれたので、私もあわてて頭を下げた。
顔をあげればじいっと静さんは私を見ている。
きっと彼女はこうして何人もの人を面接してきたんだろう。
「付き人をつけたことのない上、稼ぎ頭のあんたが言うんだ。
一人くらい構わないが、働いてもらうよ。
いいかい?」
「もちろんです!
精一杯努力しますので、よろしくお願いします!」
もう一度深く頭を下げる。
すると静さんは淡く微笑んだ。
「返事は人並みには出来るようだね。
よし、朝食食べたら西の間にきな。
掃除の手伝いを頼むよ。」
「はい。」
「ありがと、静さん。」
姐さんの後をついて部屋から出ると、私は思わずため息をついた。
これで何とかしばらく生活できそうだ。
とはいっても、これからの働き具合だろうけれど。
そう思うと急にお腹がすいた。
考えてみれば昨夜は何も食べていない。
「朝食、食いに行くか。」
お腹の音が聞こえたのだろう。
姐さんがくすりと笑って、私を促す。
「ついでにここのみんなにあんたを紹介するよ。」
頼もしい背中を私はついて走る。
「あの、付き人って、何をすればいいんですか?」
「何ってそうだねぇ、荷物運んだり、身支度手伝ったり、御座敷に上がってあたしの手伝いしたり・・・
そんな雑用だね。」
マネージャー的なものだろうか。
姐さんの活躍を応援できるなら、私も頑張れる気がする。
なんて思うあたり、すでにすっかり姐さんのファンになってしまった。
役に立つかどうかはさておいて。
「私、頑張ります!」
「期待してるからねぇ。」
よしよしと頭を撫でられてすっかりご機嫌になった私は、そのあと食堂でしっかり皆さんに挨拶できた。
(なるべく姐さんのお世話にならなくてもいいように、しっかり自立しよう。)
そのためにも、人間関係をしっかり作らなきゃ。
がんばります!
