現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
夢を諦めきれない私
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「はぁ?!
言ったの?
っていうかばれたの?」
先日の話を聞いた鏡花ちゃんは、ガタンと椅子を後ろに倒して立ちあがった。
相当驚いたらしい。
その反応がどうも苛立たしく、ちらりと睨んだ。
今日は居酒屋で飲みだ。
花代も芝居も、どっちもがっぽり稼いでいる俺の奢りだ。
誰かに話を聞いてもらわなければ、爆発しそうだった。
ぐいぐいと酒を飲む。
仕事柄飲ませることは多いが、飲むのだってずいぶんと好きな方だ。
「ばれる前に全く同じ反応をしていたのを覚えているか?」
彼は慌てて倒れた椅子を戻して席に着く。
「で、どうなったの?」
「どうもこうも・・・なんともないさ。
今まで通り。」
「同じ部屋で寝てんの?」
鏡花ちゃんはただですら大きな目を丸く見開いた。
かわいい顔してるもんだ。
「当たり前だろ。」
「まさか布団まで?」
思わず詰まった俺に鏡花ちゃんは目を見開いた。
「あんた、手早すぎない?」
「違ぇよ!
・・・なんもねぇんだ・・・。」
思わず頭を抱える。
(抱えたくもなるだろう、この状況っ!!!)
「お前が言ったように、憧れの姐さんが男だと解ったことがあまりに衝撃的すぎて、出ていくくらいの方がまだよかったかもしれねぇ。」
「何情けないこと言ってんの。
何言われたわけ?」
俺はまた酒を煽った。
思い出したくもないのに、思い出してしまう、言葉達。
言われて嫌なはずがない、むしろ嬉しいはずの言葉なのに、思い返すたびに胸が詰まる。
「姐さんが男の人でも、女の人でも、変わらない。姐さんが大好きなんだ、だの、
姐さん自身が本当に大好きなんだ、だの・・・。」
自分で言っていて恥ずかしいやら情けないやらで思わず机に突っ伏してしまった。
「うわぁ・・・えげつな・・・。
まぁ、飲みなよ。」
俺の手にひやりとお猪口があたった。
言われるがままに更に酒を煽る。
鏡花ちゃんは苦笑を浮かべてちびちびと酒を飲んだ。
「にしても、川上にしては珍しい。
女なんか落としてなんぼ、なんだろ?
普段はファンの女相手にあれだけ愛想振りまいて、年中発情期みたいに手を出してきた癖に。
あんたに好意を持っていることは間違いないんだ。
なら落とすのなんて、簡単だろう?」
鶯色の瞳が挑戦的に俺を見上げた。
「そんな、こと・・・あいつにできるわけねぇだろ。」
何を言うのかと思わず睨みつける。
「なんで?」
それに答える言葉は見つからない。
あいつは今までの女のように扱える相手じゃない。
今までの女はみんな、俺と付き合うのが楽しみだった。
要は遊びみたいなもんだ。
男女関係を深めて、欲望を発散し、互いに満足感を得る。
はじめはみんな、遊びのつもりなんだ。
逆に本気になられて困ったこともあったが、遊びのはずだったろうと言って別れてきた。
女に惚れるのも楽しいし、惚れさせるのも一興。
大人の嗜み、とでも言うか。
酒を飲むのと同義だ。
一人女と関係を持つ度に、演技も深まる。
だが花は。
「あいつは・・・違う。」
途方もない馬鹿だ。
まっすぐで、純情。
嘘をつくことも知らないし、嘘つかれることも知らない。
だまされるなんて思っちゃいない。
馬鹿みたいに素直で、眩しい。
だからこそ俺は“姐さん”から抜け出せない。
まっすぐな彼女を、裏切ることなんてできない。
男女の仲に進むなど、以ての外。
「簡単にいうんじゃねぇ。」
不貞腐れて酒を煽れば、相手は馬鹿にしたように溜息をついた。
「大抵は、簡単に落ちるさと言って笑うか、今に見てろと言って酒を煽っていた年中発情期がこのざまとは。
笑えるね。」
「うるせぇ。」
今日の鏡花ちゃんは、なぜだか妙に大人に見えた。
酒のせいだろうか。
ふと何かを企むように目を細め、彼はことりと首をかしげた。
「なんなら、僕と勝負してみる?
あの馬鹿相手なら負けるつもりはないけど。」
唐突な話に、俺は動揺する。
しかしそんなの見せられるはずがなくて、小さく笑って見せた。
役者魂だ。
「今までの話聞いてたか?
俺は遊ぶつもりはねぇ。」
すると楽しげに鶯色が笑った。
「弱気だね。
芯まで女になった?」
安い挑発だ。
「潔癖症のくせに。」
「それが不思議なことに、花なら触れるんだ。
この前知ったんだよ。」
鏡花ちゃんが自分の細いけれど節張った綺麗な手を見て、意味深に微笑んだ。
(いつもグズと呼ぶくせに。)
ただ彼女の名前が呼ばれただけで、ずくりと胸がきしむ。
彼が自分の手で何を思い出しているのかと考えるだけで、虫唾が走る。
この前、と言われて思い当たるのは一つしかない。
(襲われたのを助けてくれたと思ったが・・・。)
鏡花ちゃんもこれでも女が今までいなかったわけじゃない。
あの時はあんなに手を出していないと言っていたけれど、そうでもないかもしれない。
彼も容姿と相まってわりと女に好かれる方だ。
よりどりみどりと言っても過言ではないだろう。
彼自身、もともと花のことは嫌いではない。
むしろ毒を吐きつつも面倒を見ていることも多く、好いているだろうことは薄々感じてはいた。
隣で無防備で寝る花の甘い誘惑は、身を持って体験しているだけに、その誘惑に負ける想像は難しくはない。
「だからなんだっていうんだ。」
睨みを利かせてもそれに怯むような相手でもない。
「さぁて、どっちに落ちるかな。」
楽しげに熱燗を眺める瞳は、花を思っているのか優しく揺らいでいて、それに無性に腹が立った。
いつのまにか