現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
夢を諦めきれない私
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「姐さん・・・」
ぎゅうっと赤色の着物を握り締める。
辛そうな顔だった姐さんは、ふわりと笑ってくれた。
「安心しな。
・・・いなくなったりしないよ。」
いつも通りの優しい笑顔で、姐さんそう言った。
昨夜、男だと私が知ってしまった時の姐さんは、私を置いてどこかに消えて行ってしまいそうな雰囲気さえあった。
だから不安で仕方がなかったのだけれど。
「あたしにしたら、あんたの方がどこかに行くんじゃないかと思ったんだけどねぇ。」
「姐さん以外の人のところになんて、行きたくないです!
・・・姐さんが男の人でも、女の人でも、変わりません。
私は姐さんが大好きです。」
見上げる先には、驚いた顔の姐さん。
それから照れたように頬を掻いて、眉尻を下げた。
大きな手が頭をかいぐる。
「よしよし、うちの犬コロは忠義でよろしい。」
「姐さん!」
楽しい笑い声が響く。
そうだ、この日常が大好きなのだ。
それになんだか姐さんの秘密を知ったことで、距離が少し縮まった気がする。
それがまた嬉しいのだ。
「さ、仕事だよ。」
ぽんと背中を叩かれて、私は姐さんの部屋を出る。
「行ってきます!」
「おう!」
姐さんは男のはずなのに、私なんかよりもずっとずっと女らしくて、大人で、頼りになって、姐御肌で・・・
それからやっぱり男前だ。
ちょっとだけ前よりも男前度が上がった姐さんも、やっぱりやっぱり。
(だいすきだ!)
単純な私は、ご機嫌なのがすぐに表に出てしまったらしい。
「なんかいいことあったのかい?」
一緒に掃除をしていた先輩に笑われてしまった。
「はい!
とても嬉しいことが。」
思わず顔がにやけてしまう。
「いっちょ前に男でもできたのかい?」
にやにや笑う先輩に、当たらずとも遠からずだなぁと思った。
男ができた、というより、男だった、と言った方が正しいが。
「手を止めるんじゃないよ!」
向こうの方から静さんに見つかってしまい、注意されてしまった。
「「はい!」」
先輩と一緒に返事をした。
それがなんだか嬉しく思ったのは先輩もだったらしい。
二人で顔を見合わせて笑った。
昨夜、彼女は俺を男だと知った上で、同じ部屋に戻った。
そして男や女である前に、姐さんは姐さんなんだと訳の分らぬことを言って、ずっとずっと一緒にいてほしいと迫った挙句、俺の腕の中で眠ってしまった。
(その台詞が“男として”好いている奴に言うものなら、ずいぶんと男気溢れる愛の告白なのになぁ。)
彼女の感触は、今も腕に残っている。
温かく、やわらかいそれは代えが利かない、その上中毒性のある抱き枕だった。
・・・隣の布団に寝ているならなおさら。
薄暗がりの中、寝顔が白く浮かび上がっている。
見れば見るほど愛おしさが増す。
視線を離そうとするのに、離すことができない。
もう一度、頬に触れたい。
もう一度、この腕に抱きたい。
そして、今度は・・・。
ぱちりと薄い瞼が開いたのを見て、俺は固まる。
「・・・姐さん。」
とろんとした声、無邪気に笑う顔。
「・・・どうしたんだい?」
俺はなるべく平生を装って問うた。
「眠れないんですか・・・?」
「・・・ああ、そうだねぇ。」
「鬘つけて寝るから、肩こるんじゃないですか?」
そんなんじゃねぇよ、と言いたいがぐっとこらえる。
「だが・・・とると気持ち悪いだろ?」
試すように聞いてみると、彼女は頭を枕から持ち上げて、ぶんぶんと横に振った。
「私に気を遣っていてくれたんですか?
気持ち悪いわけないじゃないですか!
どんな姿も姐さんです。
私は姐さんの心っていうか・・・姐さん自身が本当に大好きなんです。
だから、姐さんが一番楽にしていてほしいです。」
一生懸命な様子に、胸が疼く。
愛の言葉のようなのに、それは違う意味を持っている。
聞けば聞くほど、苦しい。
こいつはもともとまっすぐで、大が着くほどの正直者で、馬鹿だ。
どうせ大きな秘密を共有できたおかげで距離が縮まって嬉しい、とでも思っているだろう。
それに安堵する一方で、憎いやつだとも思う。
「・・・いいのか?」
「はい、もちろんです!」
あまりに快い了承を得たので、鬘を外す。
そうすると目の前の少女は目を瞬かせた。
「あっ・・・前劇場の前で泉さんと話しをしていた人・・・。」
「・・・今頃気づいたのか・・・。」
溜息が出るのは許してほしい。
気付かれないか心配してはいたが、こうも気付かれていないと、それはそれで辛い。
「姐さんよりも素敵な人なんていないと思っていたけれど、本当でしたね。」
枕に頭を戻し、布団に顔を埋める様に、ふにゃりと笑う。
話が読めず、不思議そうな顔をすれば、彼女はちょっと恥ずかしそうに俺から目をそらした。
口元を布団で覆ったまま、小さな声が説明する。
「あの時、すっごく素敵な人だと思ったんです。
姐さんと同じくらい。
どっちが一番かなんて決められなくて。
だから、姐さんがやっぱり一番だなって。」
一番、一番、一番