現在の連載では主人公同士が関わることはありませんが、今後関わりが出てくるため、各々の主人公で名前変換ができるようにしてあります。
夢を諦めきれない私
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気づけば石畳の上に立っていた。
目の前に見えるのは、お堂、だろうか。
辺りには誰もいない。
夜なのだ。
夜だというのに、明るいのは、満月が良く見えるから。
いや、違う。
夜だというのに街の明かりがほとんどない、から月が明るく見えるのだ。
私は思わず立ち上がった。
「・・・ここどこ?」
境内には誰の姿も見えない。
(何でこんなところに?)
私の頭は混乱するばかりだ。
「あ、花ちゃん。」
不意にかけられた声に私は盛大にびくついた。
恐る恐る振り返れば、そこには赤いスーツに身を包んだ、片眼鏡の男。
「・・・あ、貴方は。」
そうだ、この男だ!
この男のマジックに協力して、そして。
「・・・マジックに協力して・・・それから?」
「それから実はね、ちょっと失敗しちゃって、君を明治時代の東京に連れてきちゃったんだよ。」
「明治時代の東京・・・?」
さっぱり意味が分からない。
そもそも明治時代って、それってタイムスリップっていうこと?
そんなこと現代科学で出来るの?
っていうか、マジックって種と仕掛けで出来ているもので、なんでこんなわけのわからないことになってるわけ?
「ちょっと天才が過ぎたようだね。
僕もビックリだよ!」
ヘラリと笑う姿。
全く悪びれていない。
本当に訳が分からない。
変な人に絡まれただけなのかもしれない。
「あ、あの、貴方は?」
一応聞いてみる。
「僕は奇術師、チャーリーさんとでもよんでよ。」
とりあえず胡散臭い。
彼は不意に腕時計を見て、ああいけない、と芝居がかった声を上げた。
「夕食会に呼ばれていたんだった!
じゃあ僕はこの辺で。」
「この辺でって、え、どういうことですか?」
「明治時代ライフ、楽しんでねってこと。」
「楽しむって、えっ、あの、何をどうやって?」
「サバイバルして、だよ!
じゃ、またね。」
ぽんっと軽い音を立てて煙に包まれたかと思うと、チャーリーさんは姿を消していた。
(マジシャンっていうか、忍者!?)
もう彼のことはどうでもいい。
とにかく、この場を何とかする必要がある。
一晩くらい、野宿で過ごせるのだろうか。
とりあえず頭の整理をして気持ちを落ち着けることが先決だ。
と思っていた矢先、またがさっと背後で物音がして驚いて振り返る。
闇の中でぎらつく目。
(のら、いぬ・・・?)
やせ細った犬がこっちを見ている。
危険を感じるのは気のせいか。
(気のせいじゃない!)
一歩後退すると、犬は一歩近づいてくる。
ふと他のもの音に目を向ければ、また1匹、近づいてきている。
(何かやばくないですか?)
これはタイミングをみて逃げるしかない。
(でもどこへ?)
ちらりと右手を見れば、門の向こうにぼんやりと街並みが見える。
(せめて通りに出れば・・・。)
あとは瞬発力の勝負になるだろう。
自分の鼓動がやけに大きく聞こえる。
でも腹をくくって逃げるしかなくて。
(腹くくって逃げる、ってわけわからない。)
と、思える余裕はあるらしい。
私はじりじりと後退し、そして、一気に地面を蹴って駆けだした。
激しく吠えながら犬が追いかけてくる。
(やばいやばいやばいよっ!!!)
門からの階段を転がるように降り、5段くらい上からはもう飛び降りて、私は道に出た。
(とりあえず、ダッシュだ!)
犬はしつこく追いかけてくる。
私は震える身体を叱咤してとにかく駆ける。
不意に目の端に入った赤。
(助かった、人が・・・)
でもそれは近づけば近づくほど今助けてくれそうにない後ろ姿で。
(女の人、しかも着物着てる!!)
しかし相手はこちらに気づいて振り返った。
自分の語彙力の無さがもどかしいくらいの、とにかく、すっごい美人だ。
「に、逃げてください!!」
とりあえずそう叫ぶのが精いっぱい。
しかし女の人はこっちをみて眉をしかめると抱えていた荷物を、片手に持ち直した。
(ええっ!?)
「走るのやめて後ろに隠れな!」
ハスキーな声が飛んでくる。
ずいぶん男前だ。
だか後ろって、このお姉さんの後ろだろうか。
走るのやめろって、犬にかまれろってことだろうか。
私の不安げな表情を見たのか、お姉さんはどなった。
「心配するな!」
とにかくこの人に賭けるしかない。
私はお姉さんの身体にしがみつくように後ろに隠れた。
身体の震えが止まらない。
「おら!
こっちに来るんじゃねぇ!!」
お姉さんが果敢にも荷物を振りまわし、犬を蹴散らす。
「食べもんなんて持ってねぇんだ!
とっとと失せな!」
その威圧感に押されたのか、野良犬たちは悔しそうな顔をしながらもすごすごと帰って行った。
私はもう耐えきれなくなって、そのばにへたりと座り込んでしまった。
「おや、大丈夫かい?」
お姉さんは振り返って驚いたように私を見た。
「あの、は、い、あり、が、とう、ご」
震えながら言葉にならないお礼を言おうとする私に、お姉さんはおかしそうに噴き出した。
「怖かったんだねぇ、もう大丈夫だよぉ。」
独特の話口調。
さっきまでの男らしさはどこへやら。
近くで見れば見るほど色っぽく、まるで子ょうとの修学旅行で遠目に見た、芸子さんのような人だ。
よしよし、と身体を抱きしめてくれるのに思わず甘えてしまう。
「よしよし、さ、深呼吸してご覧。」
言われるがままに深呼吸をして、ようやく震えが収まってきた。
「あの、本当にありがとうございました。」
と思えば、今度は安心したせいか涙があふれてきてしまって、お姉さんはまた笑いだした。
「あんたって子は、忙しいねぇ。
気にしなさんな、ほら。」
優しく目元を拭いてくれるのに、涙は止まるどころかどんどん流れてくる。
「全く世話が焼けるねぇ。」
「ご、ごめんなさいぃ。」
「ああ、そう言う意味じゃなくて。
もう良いからさぁ。」
お姉さんはやっぱりおかしそうに笑って、それから立ち上がってぐいっと私の手を引いた。
「家は近いの?」
(家・・・)
どこにあるのか、分からない。
さっき会ったチャーリーさんによればここは明治時代の東京だから、私の家はないわけで。
「わか、らなくて・・・。」
ぐすぐすと泣いていると、お姉さんは頭をよしよししてくれた。
「迷子か・・・。
まぁ今日はあたしんとこに泊りな。」
「で、でもぉ」
「どうしようもないだろ?
また犬に追いかけられたいのかい?」
「いや、です。」
「じゃあおいで。」
大きな手が私を引っ張って行ってくれる。
ようやく涙もおさまってきた私は、ぐすぐす泣いていたのも恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「怖かったんだ、仕方ないさ。」
そんな私にお姉さんはとても優しくて、温かくて。
「私、桃乃花っていいます。
あの、本当にありがとうございます。」
そう言えば、お姉さんは見とれてしまうほど綺麗な笑顔を見せた。
「花か、いい名前じゃないか。
ほら、泣いてないで笑ってごらんよぉ。」
そう小突かれて思わずはにかめば、よしよしとまた頭を撫でてくれる。
「私のことは、そうだねぇ、姐さんとでも呼んどくれよ。」
その姉ご肌っぷりに、私は思わず姐さんに抱きついてしまう。
「ね、姐さん!」
「はいはい。」
まるでじゃれつく子犬のように私を引きはがし、さぁついたよ、と姐さんは言った。
大きな大きな建物だ。
なんだかきてはいけないところにきてしまった気がした。
とっても温かい人
