高麗国
名前変換
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春香ちゃんの見立てでは特に外傷は無いらしい。
ただ気を失っているだけなのだろう。
春香ちゃん曰く、さっきの風も領主の力らしい。
領主の力が急に強くなったと聞いて、小狼君が反応する。
「まさか、姫の羽根が関係しているのでは・・・?」
眠ったままの女をちらりと見る。
ずいぶんと顔色が悪い。
「少し情報を集めに町に行ってみます。」
「私も行く。」
サクラちゃんがとろん、と言った。
「じゃあ案内するよ。」
春香ちゃんが立ち上がり、にやっと楽しげに笑った。
「黒鋼は家を修理してくれると助かる。」
「なんだそれは。」
呆れつつも受け入れているのは黒りんの優しさだろう。
「ファイはその人見てて。
目が覚めたらそっちに置いてある粥を温めて食べさせてやってくれ。」
「え・・・?」
「あと、お礼を言って、名前を聞いといて。」
とんだ役回りを押しつけられ、瞬きしている間に春香ちゃん達は町へ出かけて行った。
トントン、と屋根を治す音をバックに、うっかり眠ってしまいそうだ。
そのくらい、ただ寝ているだけならば彼女はただの人だった。
じっと顔を見ていれば、この刺青が彼女の躯の中に何かを封じ込めるためのもので、誰かによって施されたものだということが分かる。
その魔力の残り香が、どこまでも自分にそっくりで、反吐が出そうだ。
「この封印が、お前と同じ魔力を持つ者によって施されたと知った顔だな。」
グリーンの瞳がオレを見上げていて、どきりとした。
彼女の瞳は、黒かったはずだ。
しかし瞬きをするまに漆黒に替わる。
見間違いだろうか。
「読心術?」
「馬鹿か、てめぇみたいなのにそんなの必要ねぇ屑。」
彼女はオレに背を向けるように寝がえりをした。
「・・・君の名前は?」
「てめぇごときに教える名前はねぇっつってんだろ。
頭悪いな、何度も言わせるな。」
今ならば、試しにあの魔女さんのように「愛している」と言っても殺されないだろうか、等と考えてしまう。
「余計なこと考えるなよ。」
ヒヤリと首筋に冷たいものがあてがわれた。
オレは目を見開く。
目の前でオレに背中を向けて寝ていたはずの彼女は視界にはいない。
有るのはもぬけの殻の布団だけだ。
生きているはずなのに、どこかひんやりとした体温の彼女はオレの背後に回り込み、手を刃物と変えて首にあてている。
「残念ながらてめぇの思考回路は分かりきってんだ。
馬鹿な真似すると死ぬより苦しい地獄を味あわせてやる。」
「・・・ありがとう。」
「・・・はぁ?」
「君だろう、オレ達を守ってくれたのは。」
あの爆風の中、オレ達を包んだ柔らかい風。
魔力は彼女のものだった。
「てめぇの頭はいかれているらしい。
助けるわけねぇだろ。
寝言は寝てから言え。」
何一つ変わらない悪態。
だからこそ、助けてくれたのは彼女だと思えたし、どことなく嫌なだけではない気がしてきた。
「じゃあ寝ようか。」
「はぁ?
独りで寝てろ、てめぇと寝るなんて死ぬ方がましだ。」
立ち上がる気配に振り返る。
彼女の肌はいつも通り深いフードとマントに隠れて見えない。
ふわりと裾を翻し、彼女はオレに背中を向けた。
「どこへ行くのかな?」
「鬱陶しい野郎め。
いちいちお前に報告しなければならない理由などねぇだろ。
その軽薄な口を閉じて寝てろ屑。」
足音も立てずに彼女は部屋から出て行った。