紗羅ノ国
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「お待たせしました。」
東門にやって来た奴は、濃紺の着物に身を包んでいた。
相変わらず顔の殆どは長い前髪と口布で覆われている。
俺よりも背は低く、声も高いから、少し年下だろうと推測している。
「食えねぇもんとかあるか?」
「いいえ、特には。」
食事となれば素顔も見られる。
「じゃあお勧めの店に連れていってやる!」
「ありがとうございます。」
あまり見えていない顔で、微笑む。
少しは心を開いてくれているのかもしれない。
王の客人として招かれた黒鋼とふぁいという二人の男。
二人の剣と弓は夜叉族でも敵うものがいないのではないかと思うほどだ。
それから新たにやって来たこいつは槍の腕がピカイチだ。
兵士のなかには良い助っ人が来たと喜ぶものもいるが、それはあまりに短絡的だと言うのが俺達夜魔五家の意見だ。
夜魔ノ国の神話にまで登場するこの由緒正しき五つの家系は古来から天皇家に仕え、この国を陰となり日向となり支えてきた。
確かに戦力不足の今、彼らの存在はありがたいが、果たしてそんなに都合良く助っ人が表れるだろうか。
救援を他国に申し出ることなど、王は一言も口にされてはいなかった。
そして尋ねてみても詳しいことは一切口にはされない。
では彼らはどこからやって来たのか?
特にふぁいという男は見るからにこの大陸のものではない容姿をしている。
最近王が自室に引きこもりがちなことも気にかかる。
もし三人となにか関わりがあるのであれば、突き止めなければ。
(何とかして聞き出して見せる。)
五家の機密会議で、何も起きぬうちに方をつけることに決まった。
聞き出すための期限は最長でも1週間。
3人の目的は何なのか。
王に何をしたのか。
なぜ戦うのか。
1週間を越えて不明であれば、命を奪うことも視野にいれている。
何か起きてからでは遅い。
聞き出す役は一番若い俺になった。
相手も油断しやすいだろうと考えてのことだ。
俺はにかっと笑って隣を見た。
思ったより小柄でずっと細い。
「お前すごいな。
そんなに細いのに、あんな槍を振り回すなんて。」
「いいえ、私などまだまだです。」
扱う大槍は城の武器庫に眠っていたものだ。
うまく操ることが出来れば大きな戦力になるが、大きなそれは扱いにくく、ただの命取りになると誰もが嫌煙していた代物。
大男でも選ばぬそれを、小柄なこいつはいとも簡単に操る。
それのどこがまだまだだというのか。
「まだまだって・・・
お前のいた国では、みんなそんなに強いのか?」
驚いた振りをして探りをいれてみる。
「そうですね、訓練された者はこのくらいです。」
曖昧に返され、あまり踏み込まない方が警戒されないか、と思う。
「へぇ、すごいんだな!
俺なんか5つのときに親父に剣を習い初めたのにお前に助けられちまった。
参ったな!」
そう言って頭を掻いて笑う。
「そういえば自己紹介がまだだったな!
俺、龍王!」
「咲です。」
「よろしくな!」
手を差し出せばすんなり握り返してきた。
兵士としては驚くほど細く美しい手は、まるで女のようだった。
夕暮れ時の街は活気がある。
兵士たちもこの時間帯は自由に街にやって来て食事をとるものが多い。
「賑やかな街ですね。」
咲もそう思ったのだろう。
辺りを眺めながらポツリと言った。
「そうだな。
だが飯時はどこもそうだろう?」
そう言っていつもの店の暖簾をくぐった。