紗羅ノ国
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彼女は自らを兵器だと言った。
でもオレは、どちらかというと鬼神のようだと思う。
鮮やかすぎるその腕前は、神がかっている、と。
(まるで『神の愛娘』だ。
・・・サクラちゃんとは違う意味で。)
馬の上から体に似合わぬ大きな刃の槍を、まるで曲芸の様に振り回す。
血飛沫を撒き散らしながら猛進する様子は、どの武人にもひけをとらないように見える。
だが良く見ればその動きには非常に無駄が多い。
彼女のその姿を見た黒りんが呆れたように何か言っていた。
ーありゃ武術ではなく、舞だな。ー
言葉は分からないけれど、言いたい事は差し詰めそんな所だろう。
(だが本当に見事だ。)
馬を操り、ひらりと敵の刃をかわす。
馬があんなに高く飛べるなんて、知らなかった。
それはきっと、彼女の力だ。
オレが今まで出会った誰よりも、馬の操りに長けている。
まるで自分の体かと思ってしまうほどで、数日前に会ったばかりの馬とは思えない。
彼女が戦に加わると知ったとき、そうすべきではないと柄にもなく焦った。
彼女の力は強大で、一瞬で阿修羅族を全滅させかねない。
むしろさせるに違いないと思ったのだ。
だが様子を見ているとそれは杞憂だったようだ。
黒ぽっぽが言い聞かせたのだろう。
彼の言うことを聞いたというのなら、それもそれで不思議だけれど。
様子を見ている限り、彼女は敵を戦闘不能な状態にはさせるが、命までは奪っていない。
それがまた不思議だ。
普段の様子を見ていたら、殺してもおかしくないだろうに。
それにこの戦場にいる誰よりも彼女は強い。
手加減ができるほどに強いのだ。
彼女が馬を走らせる先で、彼女と年の変わらぬ少年が苦戦を強いられていた。
まだ大人というには小柄な体では、敵に刀は届きにくく、敵の刀は届きやすい。
見覚えがあると思ったら、桜都国で出会った龍王君だ。
桜都国にいた時よりも成長しているみたいだ。
肩を切られたのか、血が舞い、顔を歪める。
敵兵は今だと言わんばかりに刀を振るう。
だが次の瞬間、咲によって馬から叩き落とされ、脇腹を切られたのか、押さえながら唸っている。
龍王は目を瞬かせ、それから笑顔を見せた。
「助かったぜ!」
眩しいその笑顔に咲は静かに首を振り、無言でその場を離れた。
だから彼女は見なかっただろう。
彼のどこか、疑うような眼差しを。
「待ってくれ!」
かけられた声に女が振り返った。
驚いたことに同じ年頃の少年に話しかけられている。
あれは桜都国で出会った龍王だ。
(正確に言うならば、龍王と同じ魂の持ち主、か。)
「さっきはありがとうな!」
「大したことは・・・。」
こっちに来たときにあった訛りはすぐになくなった。
この国の言葉に合わせたのだろう。
適応能力の高さには目を見張る。
「何言ってんだよ。
お前がいなけりゃ殺られてた。」
困ったように笑って頭をかく。
今の話では女が彼を助けたことになる。
「あんた、異国から来たんだろ?」
「そうですが。」
「街へは行ったか?」
「いいえ。」
「んじゃお礼に街を案内してやる!」
「・・・結構です。」
「なんでだよーいいじゃんか。」
人懐っこい様子にも動じることなく、女は軽く頭を振って彼の前から立ち去ろうとする。
「飯奢る!」
「気遣い無用、当然のことをしたまでです。」
「頼むよ、俺の気がすまないんだ。」
女は少し考えて、それからため息をついた。
「・・・では申し訳ないですが、お願いします。」
珍しいこともあるものだと思う。
「やりぃ!
じゃあ明日の夕方東門にきてくれ!」
「わかりました。
よろしくお願いします。」
「おう!」
見ていたことを気づかれないうちに部屋に戻ろうと振り返る。
そこには口が利けないことにしている男がいて、どこか渋い顔で女達のやり取りを見ていたが、俺の視線を感じて同じく部屋に戻ろうと背中を向けた。
彼は何か言いたげに、ちらりと俺を見た。
俺たちは言葉が通じない。
だが、同じことを思っている気がした。
(あいつは、何を企んでいる?)