阪神国
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「嵐さんおやつ。」
「おかえりなさい。」
「おやつ。」
「手洗いうがいが先です。」
「そんなんしなくても死なねぇし。」
「おやつ抜きにしますよ。」
「奪う。」
「奪うような人には食べさせません。」
「ちぇ。」
きちんと水道で手を洗って、席に着く。
変わった人だ、と嵐は思う。
とやかく言うのに、案外素直。
もしやと思ってベランダに作ったお菓子を置いておけば、姿をくらましていた2日どちらも夜の間に綺麗に食べられていた。
彼女にかけられた術は複雑で高度な物。
体の中に、大きなものを封印している。
それは、魔力。
とてつもなく大きな魔力を、彼女は体内に保有している。
上の階で扉があく音がした。
「あ?」
焼き立てのガトーショコラにかじりつこうとしていた彼女は動きを止めた。
「起きた。」
ガトーショコラを持ったまま立ちあがって階段を上る。
どうやら上がりながら食べているらしい。
「こら。」
粉がこぼれるのにお構いなしだ。
後で掃除させなければ。
「おはよー、カス。」
廊下で鉢合わせしたのだろう。
女の子サクラちゃんに、彼女は挨拶をした。
「おはよう。
・・・あなたは、だれ?」
サクラちゃんに問いかけられて、初めて私は彼女の名前を知らなかったことに気づいた。
「・・・誰でもねぇよ。」
珍しく小さくなった声。
サクラちゃんはそこで力尽きたように倒れこんだ。
まだ本調子ではないのだろう。
彼女は最後の一欠片を口に放り込むと、またも珍しいことにサクラちゃんをそっと抱き上げて布団に運んだ。
「・・・あんた、気づいてるだろ。」
唐突な言葉に、私は一つうなずいた。
「言ったら殺すぞ。」
「ええ。」
殺しはしないのだろう。
でも、言われたくないのだろう。
「紅茶、冷めちまう。」
そう言って私の隣をふわりと通ってキッチンへと降りていった。
玄関が開く音がして、他の方も帰ってきたのだろうと思う。
彼らもきっと、彼女の名前は知らない。