紗羅ノ国
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戦場に一筋の光が降りた。
見覚えのある光だ。
迷わず駆ける。
そこに、4人が居ると信じて。
「何奴!」
兵が円く集まっている。
距離をとっているのは、その唐突な登場と、見慣れぬ服装のせいだろう。
「人に聞くならまずお前が名乗れ。」
その声に聞き覚えがある。
だが言葉にはいつもと違って少し訛りがあった。
そしてやはりそこにいたのは。
「おい女っ!」
目以外を布でおおった女は丘の上にいる俺の声に気づいたようだ。
近くまで馬を走らせると、取り囲んでいた兵が道を開けた。
「黒鋼殿のお知り合いか?」
兵の1人が尋ねた。
「そうだ。」
「味方と思ってよろしいか?」
「ああ。
驚かせた。
戻ってくれ。」
兵は俺達に背を向け、戦いに戻っていった。
「・・・黒鋼・・・か?」
やや疑うように女が問う。
「瞳の色は黒だが、俺だ。
この国に移動したときに黒くなっちまった。
あの男もだ。」
女はひとつ頷く。
納得はしたようだ。
「ここは。」
「月の城という戦場だ。
詳しい話は後にする。
小僧達は別か?」
「別の場所にいる時に突然移動させられたから、あいつらのことは分からない。」
「そうか。」
ふと女の視線が俺からずれた。
その視線を辿ると、あいつがいた。
「言葉が通じないのが面倒だから、口が利けないことにしている。」
弓を引く横顔に、女はひとつ頷いた。
月の城から戻り、黒様に合流する。
彼の馬の後ろに乗せられている見覚えのある顔に驚くが、約束通り声は出さない。
軽く手を挙げると、見覚えのある顔ー咲に視線をはずされてしまった。
夜叉王のところに行くようなので、オレもついていく。
相変わらず言葉はわからないが、黒ぽんが何やら王に説明している。
大方、咲も連れの一人で、腕も立つから城に置いてもらえるように頼んでいるのだろう。
話を聞き終えた夜叉王は頷いた。
そして咲の方を向いて微笑みを浮かべて何か言った。
期待しているとか、何か、そんな感じだろう。
王の言葉に咲は深々と頭を下げて、何やら返事をした。
どうやらこの国の言葉が話せるらしい。
上品な身のこなしは、普段と見違える。
(きっと、彼女の国王にこうして仕えていたんだ。)
なんの感情も映さない漆黒の瞳。
桜都国で咲は言っていた。
ー呪、だな。ー
ー自国で仕えていた、こいつと同じ魂の王を守るという、身体に叩き込まれた義務・・・もはや呪だな。ー
そう言う彼女が王を想ってピアノを弾くとき、ひどく優しい顔をしていた。
彼女は死を望まれてなお、王への忠誠を失っていない。
彼らとの関係性を失っているにも関わらずだ。
その忠誠はオレから言わせれば限度を超えている。
ーこいつが知らぬところで殺られない限り、自分は命をかけてて守っちまうんだろうな。
あーいやだいやだ。ー
オレと瓜二つのその人を守るように、彼女はまたこの戦場で、オレのために傷つくかもしれない。
星史朗との戦いの後に見た酷く傷ついた姿が脳裏に蘇る。
(彼女が傷ついていいのは、オレなんかの為じゃないのに・・・)
夜叉王と話終えた咲の漆黒の瞳が、オレを捕らえた。
なんの感情も見せないその瞳に、胸が締め付けられるような気がした。