紗羅ノ国
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昨日の地震や鈴蘭一座の阿修羅像に因縁をつけ、少女達に手をあげる陣社の男達。
鈴蘭さんが華麗な身のこなしで庇う。
だがどうやらそれでは済まないらしい。
信じられないことに鈴蘭さんに複数の男が襲いかかってきたため、おれは姫の安全を確認した上で蹴り倒した。
わらわらと逃げて行く姿に、もしおれがいなかったらどうなっていたことだろうと心配になる。
「ありがとう、助かったよ!」
鈴蘭さんの言葉に首を振る。
こちらは世話になっている身なのだ。
できることがあるなら、できる限りのことをしたい。
「あんたすごいね!」
「今日の興業に出てみないかい?」
だが話が少し変わってきたようだ。
「え、ええ!?」
驚くおれの隣で、姫は目を輝かせている。
「いいんですか?」
こうなった姫は、誰にも止められない。
困ったと思いつつも、思わず微笑んでしまう。
それだけ姫が、姫自身を取り戻したと言うことだから。
その日の夕のことだった。
興業の練習を終えて部屋に戻ると、朝から姿を消していた咲が窓辺に腰かけていた。
「おかえりなさい、咲。
どこにいっていたの?」
「お前に報告する義務はない。」
「もう、相変わらずケチなの。」
姫とモコナは、咲のつれなさにすっかり慣れている。
咲が着ている顔の下半分を口布で覆い、陣社の男によく似た形の服は、この国の用心棒のよくある服装なのだと火煉太夫さんが言っていた。
「お人好しも大概にしろと言っただろう。」
唐突な言葉に、なんの話かと首をかしげる。
興業に出ることはお人好しでもなんでもないはずだ。
(では他に何が?)
そもそも朝から今までずっと一座を離れていた咲が、何を知っているというのか。
「騒ぎが起きれば嫌でも気が付く。」
溜息とともに吐き出された言葉に、朝の陣社の男達との乱闘かと思い至る。
「おれ達をこんなに快く世話してくれているんだ。
できることがあるなら手伝うのは当たり前だろう。」
「お前は、もしお前がここに居なければ、ということは考えないのか。」
漆黒の瞳が、おれを見つめる。
そこに感情は見えない。
「お前はこの世界の住人ではない。
そのお前が誰かを助けると、助けられた者はその者かが歩むべきであった未来とは別の未来を歩むことになる。」
「そうかも、知れないが・・・」
「自分達は部外者だ。
その事を忘れると痛い目を見るぞ。」
彼女の言うことがあまり理解できない。
言っていることは分かる。
だがもしまた同じ状況になっても、おれの体は勝手に動いてしまうだろう。
そしておれの心はそれを望む。
「おれは、自分に嘘をつきたくない。」
目の前の人を助けられるなら、助けたい。
咲はおれの言葉を聞いているのかいないのか、ふっと目を逸らしてじっと窓の外を眺めている。
「何か面白いもの見えるの?」
重い空気に堪えかねたのか、モコナが咲の傍にぴょんと跳んだ。
その時、咲が勢いよく窓を開ける。
同時に激しい揺れに襲われ、慌てて姫を支える。
「お前達はあの
振り返ってそう怒鳴る咲がちらりと見えた。
ひゅん、と音をたてて白い玉が投げられ、反射的に掴んだらモコナだった。
「待って、咲は!?」
姫が声をあげたときには咲の姿はなく、開け放たれた窓から禍々しく渦巻く空が見えた。
「・・・鈴蘭さんの所に行きましょう。」
咲の判断力は高い。
姫やおれ達の身を守る最良の指針を与えたはずだ。
「咲は強い。
心配いりません。」
そう言えば姫も渋々頷いた。