紗羅ノ国
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目が覚めたら天井が見えた。
枕元には鮮やかな花が一輪、生けてあった。
隣には小狼君が寝ている。
窓の外から差し込んでくる光はほの暗い。
「あ、目が覚めたー?」
小さな声に部屋の入り口を見ると、咲とモコちゃんが入ってきた。
「ファイさんと黒鋼さんは?」
「別の所に落ちちゃったみたい。
そんなに遠くはないと思うよ。」
ぴょこんと私のとなりに飛び降りてのんびりそう言った。
「ここは?」
「なんていう名前だっけ?」
振り返って首を傾げるモコちゃんに咲はため息をついた。
「聞いても忘れるなら教える必要もない。」
「咲のケチ!意地悪!」
仲のよいやり取りに思わず微笑む。
二人の後ろから一人の女性が室内に入ってきた。
「遊花区だよ、白いの。」
「モコナだもん。」
「こんにちは。
サクラ、だね?
旅のことはさっきその子達から聞いたよ。
もうすぐ主人 の手が空くから、そうしたら話をしよう。」
「あ、えっと・・・。」
なんと言おうかと考えているうちに女の人はきれいに笑った。
「自己紹介がまだたったね。
私のことは皆、火煉太夫 と呼ぶんだよ。」
「ありがとうございます、火煉太夫さん。」
火煉太夫さんの目が私から少しそれた。
「おや、お目覚めかい。」
振り返れば、小狼君が体を起こしたところだった。
「大丈夫?」
「はい、すみません寝入ってしまっていて。」
申し訳なさそうに笑う小狼君に首を振る。
きっと疲れていたのだ。
いつもいつも、私のために一生懸命になってくれるから。
「火煉太夫?
ここかい?」
襖の向こうから若い女の人の声がした。
「主人。」
火煉太夫の声に襖があく。
出てきた女性は、咲と似た年頃のようだ。
「話は粗方は聞いたよ。
旅をしている子ども達が倒れていたんだって?
この子達かい?」
「ああ。」
主人と呼ばれる女性の視線が咲で止まった。
「顔を見せな。」
凄みのある声に、咲は素直にフードを脱いだ。
彼女の顔に刻まれているのは、まるで捕らえて離さないとでも言うかのような、おどろおどろしい刺青。
「彼女にかけられた寿命を縮める呪いだそうだよ。
他者に害はないそうだ。
そうだね?」
突然同意を求められ、慌ててうなずく。
そう言う話にしているのだろう。
私もあの刺青について詳しいことは何も知らない。
「見たことのない模様だ・・・。」
「だろう。
私も驚いた。
大陸全土渡り歩いたが、こんなものははじめてだ。」
「そちらは昔に離れ離れになった両親を探しているらしい。」
「そうと分かれば見捨てるわけにもいくまい。」
主人はぽんと膝を叩き、勝ち気に笑った。
「あんたらのことはこの遊花区の主人鈴蘭が預かった!
さあ上がってお行き!旅の人!!
ここにいる間は不自由はさせないから、安心して人探しや呪いを解く方法を探しな!」
「助かります。
なんとお礼を申し上げたらいいか。」
静かにそう言って咲が頭を下げる。
小狼君は少し驚いたようだった。
普段の咲からは想像もつかないからだろう。
ファイさんや黒鋼さんがいない今、最年長の咲が私達の面倒を見るのが外部者から見れば当たり前。
その常識に乗った演技をしたのだろうが、いつ見てもその変り様には驚かされる。
「そんなこと気にするんじゃないよ!」
からりと笑う主人に、咲も釣られるかのように淡く微笑んだ。
それも演技だと、私には分かる。
主人の心を掴むための演技だということも。
胸の奥がじくりと痛んだ。
「大丈夫かなぁ、サクラちゃんと小狼くん。」
酒瓶をごとりと置いて、ぽつりと呟く。
この国の酒もなかなか美味い。
「姫一人だと不安だが、あの女が一緒なら上手くやってるんじゃねぇか。」
「ふーん。」
俺の返事に中途半端に返して見て来るから睨む。
「あぁ?」
「いやぁ、信頼しているなぁと思って。」
「信頼もなにも、ただの評価だろう。
それ以上でも以下でもねぇ。」
「ふーん。」
酒を煽る。
「あの子、何を隠しているのかな。
あの粗野な素振りも、素じゃないよね。」
こいつも気づいていたのかと思う。
「何が素なのかも分からねぇがな。
・・・もしかしたらあいつ自身も分からなくなっているかも知れねぇ。」
「分からない・・・?」
忍の中にも時折そういう者がいた。
敵地への潜伏や変装が長引き、与えられた命令や己を見失う者の末路は決まっていた。
死だ。
奴らは根本的に忍に向かない人間だったのだと、俺は思っている。
では、咲は向いていなかったのだろうか。
あいつの才能は目を見張るものがある。
精神面の強さも兼ね備えているように見える。
忍のような職種に就くべくして生まれてきた人間かのような。
しかし星史郎は、母国でさえ手を焼いていたといっていた。
いったい、なぜ。
「なんか、苦しそうだよね。」
ぽつりと呟かれた言葉に、俺は答えなかった。
枕元には鮮やかな花が一輪、生けてあった。
隣には小狼君が寝ている。
窓の外から差し込んでくる光はほの暗い。
「あ、目が覚めたー?」
小さな声に部屋の入り口を見ると、咲とモコちゃんが入ってきた。
「ファイさんと黒鋼さんは?」
「別の所に落ちちゃったみたい。
そんなに遠くはないと思うよ。」
ぴょこんと私のとなりに飛び降りてのんびりそう言った。
「ここは?」
「なんていう名前だっけ?」
振り返って首を傾げるモコちゃんに咲はため息をついた。
「聞いても忘れるなら教える必要もない。」
「咲のケチ!意地悪!」
仲のよいやり取りに思わず微笑む。
二人の後ろから一人の女性が室内に入ってきた。
「遊花区だよ、白いの。」
「モコナだもん。」
「こんにちは。
サクラ、だね?
旅のことはさっきその子達から聞いたよ。
もうすぐ
「あ、えっと・・・。」
なんと言おうかと考えているうちに女の人はきれいに笑った。
「自己紹介がまだたったね。
私のことは皆、
「ありがとうございます、火煉太夫さん。」
火煉太夫さんの目が私から少しそれた。
「おや、お目覚めかい。」
振り返れば、小狼君が体を起こしたところだった。
「大丈夫?」
「はい、すみません寝入ってしまっていて。」
申し訳なさそうに笑う小狼君に首を振る。
きっと疲れていたのだ。
いつもいつも、私のために一生懸命になってくれるから。
「火煉太夫?
ここかい?」
襖の向こうから若い女の人の声がした。
「主人。」
火煉太夫の声に襖があく。
出てきた女性は、咲と似た年頃のようだ。
「話は粗方は聞いたよ。
旅をしている子ども達が倒れていたんだって?
この子達かい?」
「ああ。」
主人と呼ばれる女性の視線が咲で止まった。
「顔を見せな。」
凄みのある声に、咲は素直にフードを脱いだ。
彼女の顔に刻まれているのは、まるで捕らえて離さないとでも言うかのような、おどろおどろしい刺青。
「彼女にかけられた寿命を縮める呪いだそうだよ。
他者に害はないそうだ。
そうだね?」
突然同意を求められ、慌ててうなずく。
そう言う話にしているのだろう。
私もあの刺青について詳しいことは何も知らない。
「見たことのない模様だ・・・。」
「だろう。
私も驚いた。
大陸全土渡り歩いたが、こんなものははじめてだ。」
「そちらは昔に離れ離れになった両親を探しているらしい。」
「そうと分かれば見捨てるわけにもいくまい。」
主人はぽんと膝を叩き、勝ち気に笑った。
「あんたらのことはこの遊花区の主人鈴蘭が預かった!
さあ上がってお行き!旅の人!!
ここにいる間は不自由はさせないから、安心して人探しや呪いを解く方法を探しな!」
「助かります。
なんとお礼を申し上げたらいいか。」
静かにそう言って咲が頭を下げる。
小狼君は少し驚いたようだった。
普段の咲からは想像もつかないからだろう。
ファイさんや黒鋼さんがいない今、最年長の咲が私達の面倒を見るのが外部者から見れば当たり前。
その常識に乗った演技をしたのだろうが、いつ見てもその変り様には驚かされる。
「そんなこと気にするんじゃないよ!」
からりと笑う主人に、咲も釣られるかのように淡く微笑んだ。
それも演技だと、私には分かる。
主人の心を掴むための演技だということも。
胸の奥がじくりと痛んだ。
「大丈夫かなぁ、サクラちゃんと小狼くん。」
酒瓶をごとりと置いて、ぽつりと呟く。
この国の酒もなかなか美味い。
「姫一人だと不安だが、あの女が一緒なら上手くやってるんじゃねぇか。」
「ふーん。」
俺の返事に中途半端に返して見て来るから睨む。
「あぁ?」
「いやぁ、信頼しているなぁと思って。」
「信頼もなにも、ただの評価だろう。
それ以上でも以下でもねぇ。」
「ふーん。」
酒を煽る。
「あの子、何を隠しているのかな。
あの粗野な素振りも、素じゃないよね。」
こいつも気づいていたのかと思う。
「何が素なのかも分からねぇがな。
・・・もしかしたらあいつ自身も分からなくなっているかも知れねぇ。」
「分からない・・・?」
忍の中にも時折そういう者がいた。
敵地への潜伏や変装が長引き、与えられた命令や己を見失う者の末路は決まっていた。
死だ。
奴らは根本的に忍に向かない人間だったのだと、俺は思っている。
では、咲は向いていなかったのだろうか。
あいつの才能は目を見張るものがある。
精神面の強さも兼ね備えているように見える。
忍のような職種に就くべくして生まれてきた人間かのような。
しかし星史郎は、母国でさえ手を焼いていたといっていた。
いったい、なぜ。
「なんか、苦しそうだよね。」
ぽつりと呟かれた言葉に、俺は答えなかった。