桜都国
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「ゲスト番号 ベータ435689 死亡。
桜都国から強制退去となりました。」
「え?」
心臓がまたバクバク言っていている。
辺りを見回すが卵形の機械が並んでいるばかりで、咲の姿はなく、「猫の目」でもその近くでもないようだ。
「ここは・・・?」
急に脳に圧迫感があって、この国にやって来たときのことを思い出した。
(そうだ、移動してすぐにこの機械に入れられて・・・。
それから・・・どうなってるんだ・・・?)
気配に振り返ると、そこに髪の長い女性がいた。
暗く沈んだ訳知り顔に、話を聞くべき相手だと知る。
「良くご無事で。
干渉者の行動が読めなかったもので心配しました。」
「干渉者って、あのフードの男の人?」
「はい。
干渉者は現実世界と
「
「あなた方が利用されていた
申し遅れました。
私はこの
千歳さんの視線がオレからずれ、青褪める。
その視線を追ったオレも目を見開いた。
「咲っ!!!」
開いた卵形のカプセルの蓋からも滴るほどの夥しい出血。
服は赤黒く変色しているが、袈裟懸けに大きく切り裂かれているのがわかった。
他にも傷があるかもしれない。
襟元からも出血が激しく、苦しげに息が漏れる音がする。
駆け寄ってフードを持ち上げると、辛うじて生きているといった様子の真っ青な顔が表れた。
「す、すぐに医療チームを・・・!」
「待ってください。」
首の傷に淡い光が灯り、徐々に出血が止まっていく。
治癒魔法だ。
これを越える医療技術は存在しないと聞いたことがある。
それはきっとこの世界とて同じ。
ならば彼女の治癒を邪魔しないのが一番だ。
徐々に肌に這う刺青が赤く変色する。
彼女が無理をしない方がいいとわかっていても、治療が一刻を争うことはわかっていた。
だがオレは治癒魔法が使えない。
(オレはなにもできない。)
唇を噛み締めそう思ってからはっと我にかえる。
(いや、何をすると言うんだ。)
自分の旅の役割など、忘れてはならないのに。
「殺してやる。」
治癒魔法の光はどこまでも優しいのに、咲は血を吐きながら目をぎらつかせた。
無理をしずぎているせいか、刺青は赤く光り始め、煙を上げている。
「諦めて世界を繋げ。
干渉者を排除してやる。」
あまりのことに立ち竦む千歳さんに凄んだ。
「そ、それは・・・。」
あまりの気迫に口ごもる。
「早く!」
ごぼっと血を吐く姿に不安と怒りが沸き上がった。
「とりあえず治療を終えてからにしろ!」
気付いたら、叫んでいた。
「てめぇ・・・何様のつもりだ。」
低い声で凄まれたが、不思議と引き下がるつもりはなかった。
「オレは確かに君の主ではない。
だが主でなければ忠告してはならないなんて決まりもない。」
いつの間にか色が変わっている彼女の美しいグリーンの瞳から目を反らせなかったし、反らしたくなかった。
先に目を反らしたのは珍しく彼女だった。
おとなしく天井を見上げて目を閉じたのだ。
「おい、このゲームはどうしたらクリアできる?」
千歳さんに静かにそう問いかける。
「最強の鬼児であるイの一の鬼児を倒すことでストーリー自体はクリアとなります。」
「そうしたらどうなる?」
「永遠の命を得られると・・・
あくまで制作者サイドから与えられる特権を、
「成る程。」
治療をあらかた終えたのか、彼女は目を開けた。
顔色もやや戻り、刺青の色も落ち着いた。
ゆっくりと立ち上がる。
「あの勘違い野郎、叩き潰す。」
瞳の色もいつの間にか漆黒に戻っている。
怒りにかられているのが見てとれた。
だがそれも一瞬で、淡い風と濃い血の香りだけを残し姿を消した。
今どこにいるのかオレ達にはわからないが、干渉者の元へと行ったのだろう。
なぜ彼女はあの男を叩き潰すと言ったのだろうか。
なぜ彼女はオレを守ろうとしたのか。
そしてなぜ、オレはゲームの中で死んだのか。
彼女の胸に抱かれて、オレは何も見えず、何も聞こえなかった。
考えられることとすれば。
(守ろうとした彼女が、オレを殺した?)
隣の
中に居たのは小狼君だ。
目が覚めてすぐのオレのように辺りを見回している。
そしてお腹を押さえて驚いているようだ。
「小狼君、おはよー。」
「え?
ファイさん!?」
その驚き様は、オレが死んだと思っていたからだろう。
「まぁまぁ落ち着いてー。」
そうこうしているうちにどうやら記憶も戻って来たらしい。
千歳さんはインカムに通信があったみたいで何か話している。
「猫の目に戻ったら草薙さんと譲刃さんがいたんです。
なんでも急に姫とモコナが二人のところに現れたって。
モコナが咲の魔法だと言って、急いで猫の目に連れて帰ってもらったらしいんですが、ファイさんも咲も居なくなっていて・・・
そこにおれと黒鋼さんが帰ってきたみたいなんです。」
「オレ達もやられちゃったからね。」
「星史郎さんにですか。」
「たぶん。
すっごく強い人だったよ。」
小狼くんは少し俯く。
黒ぽんよりも前の師匠だって言っていたから、内心複雑なのだろう。
「あの、さっきの方の居場所がわかったみたいなんです。」
千歳さんがそう言って腕につけた機械のボタンを押した。
映像が浮かび上がって、その中に星史郎さんと黒ぽんと咲が見えた。
「行きましょう。」
小狼君がオレを見上げて言った。
強い瞳だ。
「あの人は本気だ。」
映像の中で、星史郎さんはめがねのブリッジをあげていた。
「猫の目に居たやつらを殺したのはお前か?」
「咲の心配もしているんですか?
あの子は手に負えないでしょう。」
にっこり、と男は笑った。
あの女を殺せると言うのなら、この男の強さは尋常じゃない。
「手中に納めるつもりはない。」
「勇ましいことだ。
いつ寝首をかかれるか分かったもんじゃないのに。」
「あいつに殺されるならそれまでだってことだろうよ。
あれでいて案外まともだ。」
「さぁ。
君達は彼女の兵器の姿を知らないから。」
次の瞬間、男の姿は消えた。
彼が居た場所には血飛沫が飛び散っている。
「殺したはず、なんだが。」
甲高い音を立てて、武器がぶつかっていた。
相手はあの女だ。
服は鮮血に染まっていて、大きく破かれているのがわかる。
深いフードを脱いでいるところを見ると、どうやら本気らしい。
「こっちの台詞だな。」
男の方が出血はひどい。
足下の血溜まりがどんどん大きくなっていく。
その差を見る限りでは、女の出血は止まっているようだった。
ぶつかり合った刀の継ぎ目から女が青い電撃が放つ。
辛うじて避けた男がにやりと笑う。
しかしすぐに爆風が男を襲った。
「おい!
てめぇが止めをさせ!
例の言葉を言われると自分は体の自由が奪われる!
それからっ・・・・!」
急に顔を歪める女。
男の方を見ると、暴風が収まって行く、
そして男の手に姫の羽根があり、思わず目を見開いた。
「この羽根を・・・出させないつもり、だったようだが・・・。
残念たったな。」
羽根の光が強まると、暴風が掻き消された。
女は膝を折る。
「おいっ!」
慌てて駆け寄る。
苦しげな呼吸に、まともに戦える状況ではないことを知る。
その原因は、あの羽根に間違いない。
「くっ、そっ!!!」
肌を這う刺青が真っ赤になって、煙をあげ始めた。
「やめろ。
俺が、殺る。」
殺して弱くなる云々は言っていられない。
「楽しいですね。
本当に。」
血を流しながら男が立ち上がる。
俺も刀を構える。
そして同時に駆け出した。
その時だった。
目の端に入っもたものに俺も男も衝突の寸前で何とかスピードを殺す。
足元に刺さったのは一本の矢。
「なんでしょう。
これは。」
跳んできた方を見れば、少年とその頭に乗る口をあけた白饅頭と、その横でぱちぱちと手をたたく青年。
「ちゃんとこっちに戻っていたようですね。」
男の言葉が、まるで2人のことを少しでも案じていたように聞こえて、俺はわからない奴だ、と思った。
男の手にある羽根の輝きが増す。
「そろそろ移動のようです。」
彼は俺の背後を見た。
振り返ると女が倒れ付していた。
慌てて駆け寄ると息はあるようだ。
「その子の取り扱いには気を付けた方がいい。」
男は意味深ににっこりと笑う。
「彼女の母国ですら、手を焼いていたから。」