桜都国
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「一緒に来てほしい所があるんだ。」
にっこりと、きっと背後に居る彼は笑っているのだろう。
桜を見に来れば彼に会ってしまうような気はしていたのに、ついつい来てしまった自分が悪い。
「嫌だ。」
「どうして?」
「お前と行動するなんてヘドが出る。」
「そのくらいなら大丈夫だね。」
「触れるな!」
星史郎の動く気配を感じて振り返る。
彼の手が目と鼻の先にあって、彼はにっこりときれいに笑った。
危険を感じて軽く飛び下がる。
この男は強い。
気を付けなければ殺られかねない。
「行き先はカフェなんだ。
最近話題でね。」
彼の行き先は予想通りだ。
ならば尚更。
「断る。」
「そんなこと言わないで。
楽しくデートといこうじゃないか。」
桜の木よりも高く飛び上がる。
特殊な彼の刀をなんとか避けられたが、背後から鬼児が迫っていて、慌てて殴り飛ばす。
手段を選ばないのが彼だ。
口早に呪文を唱え、同時に周囲に火柱を幾本も上げる。
鬼児は消えては湧いてくる。
逃げても無駄だろう。
この男は捕まえに来る。
(それでも。)
姫を思いやる男の微笑みを思い出す。
着地と同時に魔方陣を呼び出した。
兵器と呼ばれはる所以となった得意技だ。
「逃がさないよ。」
男の声を無視して呪文を唱える。
星の魔方陣は赤い光を放ち、辺りに風を巻き起こす。
次の瞬間、広大な範囲を巻き込んで爆発を起こした。
「これがなかったら危なかったな。」
巻き上がる煙が収まった頃、星史郎は懐の羽根を大切そうにひとなでし、ひとり辺りを見回した。
桜など見る影もなく、荒れた大地がむき出しになっている。
大きな公園全てを飲み込んだ爆発で、何よりその範囲は計算されたように正確だった。
「訓練されるとこんなことまでできるんですね。」
優しく微笑むと星史郎はその場を去った。
黒鋼さんが振り返り、それに気づいてかおれも振り返る。
大きな爆発が見え、追って大きな音が届いた。
「公園の方だな。」
暗くなりかけている空に、煙がもうもうと上がっている。
こんな爆発はこの国に来てから見たことがなかった。
どこか嫌な予感がする。
「帰るか?」
黒鋼さんが尋ねた。
おれは一瞬迷ってから首を振る。
「先へ進みます。
早く解決しないと。」
星史郎さんのことも気になる。
羽根のありかも気になる。
(待っていてください、姫。)
小人の搭に足を踏み入れる。
(必ず帰りますから。)
巨大な魔力を感じて窓の外を見れば幾本も火柱が上がったのが見え、そして大きな爆発があった。
少しずれて音が聞こえる。
爆風も。
「なになにー?」
モコナが驚いてオレの肩に飛び付いた。
長い耳が風に煽られる。
そして目を大きく見開いた。
「めきょ!!!」
「咲だ。」
思わず呟く。
「えっ咲があの爆発起こしたの?!」
「たぶん・・・。」
「あっちって公園のある方じゃないですか?」
サクラちゃんも手を拭きながらやって来た。
「行こう。」
モコナがオレを見上げる。
「行きましょう。」
サクラちゃんもオレを見る。
どうすべきか迷って口ごもった。
羽根と咲が公園に居る。
でもきっとそこは安全じゃない。
黒たんも小狼君もいない。
(魔法を使わないオレが行って、何かに巻き込まれたら、サクラちゃん達はどうなる?)
その時だった。
店の扉が大きな音を立てて開いた。
扉に吊るしたベルがけたたましく鳴る。
「移動するぞ歯を食いしばれ!」
焦ったような声は咲のもので驚く。
彼女がそんなに焦るなど、いったい何事だろうかと。
オレ達の足元に星の魔方陣が表れる。
だがその陣の中に咲は入っていない。
「咲!」
それに気付いたのだろう。
サクラちゃんが咲の方に行こうとして倒れ込み、陣から出てしまう。
タミイング悪く眠ってしまったようだ。
「早く陣の中へ!」
怒鳴る咲の言う通りにサクラちゃんを抱き上げたときだった。
「火柱に大爆発、その次は移動魔法かい?
まるで魔術ショーだね。」
咲の首に黒い触手が巻き付いた。
それは背後から入ってか来たマントを着た男の手にある柄から伸びている。
呪文が途切れた。
それでもなお術を発動させようとして彼女は手を動かす。
呪文を唱えず手の動きによる術式は高等な術だ。
高い集中力が必要で、体力と魔力を大量に消費する。
「しぶといな。」
嬉しそうに笑って男が柄を振るう。
「やめろ!」
思わず叫んでサクラちゃんから離れて立ち上がる。
咲は床に叩き付けられ、激しく噎せた。
直後に激しい爆発音と煙が立ち込めた。
「逃げろ!」
その中から咲の声がする。
オレはサクラちゃんを抱き上げる。
モコナが肩に飛び乗った。
晴れてきた煙のむこうで男の下半身が氷付けにされていて動けなくなっているのが見えた。
ボロボロになっている咲も。
「咲は!?」
「オレ達が足手まといなんだ。」
彼女一人ならなんとかなるかもしれない。
モコナをなだめ逃げようとすれば、行く手を鬼児が阻む。
(魔法を使うか?)
頭の片隅にある選択肢。
使わないと決めているのだ。
何があっても、あの人に見つからないために。
(でもこのままじゃ・・・。)
鬼児の攻撃を避けようとして、着地したところで足に痛みを感じ、バランスを崩す。
鬼児が迫ってくるのが見えてサクラちゃんとモコナを突き飛ばす。
(オレが死んだとして、そのあとサクラちゃんは?)
誰が守れると言うのだろう。
咲はあの男で手一杯のはずだ。
次の瞬間、サクラちゃんとモコナの体の下に星の魔方陣が表れる。
「ファイ!!!
咲!!!」
モコナの叫びを最後に二人の姿が消えた。
そしてオレに襲いかかる鬼児を咲が殴り飛ばす。
「咲、逃げろ。」
「言われなくとも。」
倒れこんだオレを抱き起こそうとするから慌てる。
「違う!
君だけで」
なぜそんなことを言おうとしたのかわからなかった。
オレは彼女を恐れているはずだった。
きつく抱き締められ言葉を失う。
彼女の体も暖かいのだと、こんなときなのに思う。
彼女の体も柔らかいのだと、こんなときなのに。
心臓が口から出そうなくらい激しく脈打った。
激しい眩暈がして、そして。
「殺してしまったのかい?
つまらない。」
「何を。」
「どうこうしようだなんて思ってないよ。
ただ遊びたかっただけだ。」
「どうだか。」
「小狼に伝えてくれるかな。
『小狼を待っている。桜の木の下で。』と。」
作られたこの世界は、5分立てば壊れた建物も元に戻るようにプログラムされている。
あの公園も、もう元通りなのだろう。
「嫌だ。」
「なら君に価値はないな。」
懐から出された羽根の力に片膝をつく。
汗が吹き出す。
「可愛いものだ。」
耳元で星史郎の声がする。
それを確認して腕を振るうと、確かに肉が切れた感触があった。
「どこにそんな力があるのか、興味があるな。」
霞む視界で、彼は左肩を押さえながら微笑む。
「でも今は邪魔なだけだ。」
周囲に鬼児が表れた。
呪文を唱え、突風を起こす。
羽根を片手に、男はその突風の中を突き進んできた。
魔力は全て、羽根によって無効化されてしまうらしい。
(最悪だ。)
「本当に君は、不幸な姫君、だな。」
彼は刀を構え、それは優しく、まるで恋人に向けるような微笑みをうかべた。
「でも僕は、君を愛しているよ。」