桜都国

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ぼんやりと毎日を過ごしている気がする。
この国に来てからもう3週間は経つのではないだろうか。

(いつまでたっても羽根は見つけられないだろうな。
 彼が動かない限り。)





!」

「あ。」





洗濯物を干している姫に声をかけられ、どうやら店の前まで帰ってきてしまったらしいことに気づく。
「猫の目」という看板が増えていて、店としてこの国に馴染んできているのかも知れないと思う。
ぼうっとしていると彼女は目の前まで走ってきた。

「ずっとどこに行ってたの?!」

姫はずいぶんご立腹らしい。

「その辺?」

「ちゃんとご飯の時間には帰ってこないとだめでしょ!」

お小言を聞いていると目の端に光を集めた様な金色が映る。
目で追ってしまうのは性でどうしようもない。
相手もそれに気づいたらしい。
一瞬迷ったあと、こちらにやってきて姫に声をかけた。

「サクラちゃん、お説教はそのくらいにしておこうか。」

「でも!」

「帰ってきたわけだし、中で作ったお菓子でも食べてもらったらどうかな?」

しばらく考えたあと、姫は嬉しそうに笑って頷いた。

「そうですね。
 、私先に入って用意しておくから、」

そして洗濯物の入ったバスケットを無理やり渡される。

「残りお願いね。」

そして楽しそうに「猫の目」に帰っていく。
その瞬間的、隣の男が緊張したのがわかる。



「いい子だなぁ、サクラちゃん。」



緊張を解くためか、彼はそう言った。
その言葉を無視して、バスケットを彼に押し付け、背を向けた。

「もう行くの?」

「その言葉は姫のためか。
 出来るだけ接触を避けている者の言葉とは思えない。」

「・・・そうだね。」

彼は困ったように肩をすくめたのを視界の端で捉える。
一瞬躊躇ってから、口を開いた。

「・・・それなら気を付けることだ。」

それだけ言い残して歩き出す。

「ちょっと待って!」

急に腕をつかまれ、彼を見上げる。
青い瞳が困惑したように見下ろしていた。
じわりじわりと布を介してその体温が伝わってくる。

「君こそそうだ。
 オレ達を突き放すようでそうして忠告を与える。
 どうして?
 仕えていた王様と同じ魂を持つオレがいるから?」

確かにファイ王とこの男は似ている。
記憶にないユゥイ王とは年齢こそ違えど全く同じなのだろうと思う。

だが別人なのだ。

喪った記憶のその人は特別で、目の前にいる彼とは雲泥の差がある。
記憶を喪ってなお、その人は偉大だ。
抜け落ちたことで心に大きな穴が開いて、それでもなお支えてくれる存在。
彼の命令のために死に場所を探そうと思える、この世でただ一人だけの主。

(魂が同じ?
 だからなんだというのだ。)

「傲るな。
 お前は王とは違う。
 王を貶めるつもりか。」

静かに出た言葉は、酷い怒りを孕んでいた。
思っていることを考えることもなく言葉にしていた事に気づいたがもう遅い。
すれ違いも甚だしい彼とこんなに話すつもりなど微塵もなかったのに。

「違う!じゃあなんで」

「らしくないことをするな離せ!」

(なぜ彼に気を遣うのか。)

それは考えたことのない問いで、誤魔化すために怒鳴り付けて腕を振り払う。
その時ちょうど風か吹いたこともあって、フードが脱げてしまった。

「らしくないって・・・。」

男は戸惑った様にどもる。
にやりと笑顔を張り付ける。

「何を必死になっている?
 他人に言われないと分からないほど馬鹿ではないだろう?
 それとも、いい加減笑顔を張り付けるのに飽きでもしたのか?」

同じ言葉は自分にも言えることだ。
心を必死に押し殺している。
遠い昔に捨ててきたはずの心を。

同じ魂の彼は"反射的に"助けてしまう。
では何故彼に刃が突き立てられるわけでもないのに忠告をしたのか。

「目の届かぬところで早く死ね!
 それがお前の願いなんだろう!」

呆気にとられた男を置いて去る。

死ぬ事こそが、自分が生きる理由だ。
投げ付けた言葉だったはずなのに、自分の心を酷く抉る。
だがその言葉で同じく彼は傷つくだろう。
深すぎる溝に、いつぶりかわからないくらい無性に心が痛かった。

















「ファイさん。」

声をかけられて初めて、自分が呆気にとられていたことに気がついた。

、行っちゃったんですね。」

「うん・・・ごめん、オレまた・・・。」

高麗国の時も彼女を見失った。
引き留めるように言われていたのに。
彼女の言葉が胸を抉った。
どうしてこんなに胸が痛むのかと、不思議なくらいに。

「いいんです。
 でも、嫌いにならないであげてください、のこと。」

意外な言葉に顔をあげる。

は同じ魂の人に重ねている訳じゃないと思います。」

サクラちゃんは不思議な子だ。
人の痛みを感じとり、理解し、そして周りを変えていく。

はいつも、ファイさんを見ています。
 そしての氷のように冷えきっていた心が少しずつ溶けてきている。」

優しい笑顔がオレに向けられ、ふと気付く、

「だからファイさんも、を一緒に温めてあげてほしいんです。」

さっきの感情を露にしたの瞳が一瞬美しいグリーンに煌めいていた。
まるで感情の昂りを抑えきれないかのように。

その瞳の色は、目の前の少女と同じだった。

「サクラちゃんってなんでそんなにのことが分かるの?
 ってほら、つんけんしてて全然自分を見せてくれないのにさ。」

表情さえうかがえないのだ。
判断する材料がそもそもない。
これだけの間一緒に旅をしていて、今初めて瞳のことに気がついたほど、オレ達の距離は遠い。

「わからないんです、私にも。」

サクラちゃんは不思議そうに首をかしげた。

「でもなんだかずっと昔から知っているような気がして。
 もしかしたらなくした記憶の中にいるのかな。」

それだけではないような気がした。
漠然とした、魔術師の勘に過ぎないけれど。








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