桜都国
名前変換
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「お前か、譲刃が言っていたやつは!」
少年が大きな刀を振り回していた。
「クソガキめ。
知らん名前だ。」
軽く身を翻す。
大きな刃はすかさず追いかけてきた。
「黒い髪の女の子と男の鬼児狩に会ったろ?!」
どれだけ振り回そうとそれが身に届くことはない。
「さぁな。」
「女の子が譲刃、男の方が草薙だ!」
くるくるとかわし続ける。
「クソッ!」
届く気配さえない圧倒的な力の差に思わず悪態をつく。
「龍王、そのくらいにしなさい!」
走ってきた褐色の肌の女性が叱るも聞く耳を持たない。
「ちっとも届かねぇっ!」
悔しそうに刃を振り回す。
「弱いからしかたねぇな。」
激しく息を切らした姿に、もう十分だろうと屋根の上に飛び上がる。
「おい!
どこに行く!」
聞き覚えのある問いかけにため息をつく。
「面倒な・・・」
いつもならここで去っている。
でもなぜだろう。
足は止まっていた。
人恋しくないと言えば嘘になる。
一人で失った存在を求め続けるのは、苦しい。
心には何もなく、ただ喪失感だけが疼いている。
(本当にこの国は調子が狂う。)
屋根をトンっと蹴って一気に少年の懐に飛び込む。
予想外の行動なのか、明らかに動揺している。
手甲の刃を煌めかせると焦ったように後ろに跳んだ。
それを間髪空けずに追う。
鼻先数ミリで手を閃かせると焦った顔で必死に逃げた。
それが面白くてギリギリを攻める。
「そろそろ血でも流してみるか?」
少年はその言葉に返事をする余裕もない。
遂に足がもつれて少年が転んだ。
「龍王!!!」
その喉に勢い良く手を振り下ろす。
少年は思わず目を閉じた。
「止めに入らんのか。
冷たいヤツめ。」
「お前は殺さねぇ。
殺すつもりだったならもうそいつはとっくに死んでる。」
どこかで聞き覚えのある言葉にため息をつく。
「生意気な口をきく。」
少年から離れ、静かに立つ黒鋼を振り返る。
路地で助けて以来となるから2日ぶりだろう。
この男も静かだ。
装いも存在も行動も。
もといた国でそういう仕事をしていたのだろう。
「入金されている報償金の額が多いと思ったらやっぱりお前か。」
「さぁな。」
頭をがしがしと掻いている黒鋼の隣で、小狼は呆気に取られていた。
この子の実力もきっと龍王と大差ない。
「お前も試すか?」
手甲をちらつかせると、唾を飲んだ。
そしてずいぶんと真面目な顔をして口を開いた。
「おねが」
「おいお前っ!」
小狼の言葉をかき消すように後ろから聞こえた声に振り返る。
立ち上がった少年がこっちを見ていた。
「本当に強いんだな。
お前ほど強いヤツは初めてだ。」
照れたように笑う姿は、自分にはないものだ。
そんな素直さはあいにく持ち合わせていない。
「世間知らずなだけじゃないか?
死ぬぞ。」
「そうかも知らねぇ。」
少年はくしゃりと笑った。
「俺、龍王!
お前は?」
振り返って黒鋼を見る。
「俺も知らん。」
首をふる隣で、小狼が躊躇いがちに口を開いた。
「おっきいウサギ・・・だそうです。」
「はぁ!?
有り得ねぇっ!」
ぎょっとした顔の黒鋼を鼻で笑う。
「確かにな。」
「なんだ、いいのかそれで。」
「どうせ仮の名前だろう。
夢物語に腹を立てるほどガキではないんでな。」
「でも名前はその人を表します。」
小狼の言葉に、咲は少し間をおいてから笑った。
「ちっこいわんこ、か。
確かにな。
そっちも忠犬だしな!」
「うっせぇ!!」
そのやり取りを横目に、小狼はしばらく前のことを思い出していた。
「咲、大丈夫かなぁ。」
そう呟いたのはモコナだった。
「心配するだけ叱られるぞ。」
「そうじゃなくて!
咲は寂しいんだよ、この国に来てからずっとそうなの。」
「はぁ?
あいつが?」
驚く小狼たちを他所に、モコナは真剣だ。
「咲は本当に寂しがりやなの。
モコナ分かる。
心のなかが冷たくて、痛くて、泣きたいくらいなの。」
ウサギは寂しがりやだと聞く。
もしモコナの言葉が正しければ、確かに彼女を表すのに適切な名前なのかもしれない。
「満更でもねぇだろ?」
「んなわけあるか!!!」
「馬鹿だな本当に!」
「てめぇっ!!!」
黒鋼をからかう意地悪な笑い声が響く。
少し楽しげな、笑い声が。