ジェイド国
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
身体中が痛い。
魔力も減ったが、相手がサクラだったお陰でだいぶ楽に話せた。
(こっちも何とかせねば。)
傷からの出血を止める。
考えなければならないのは。
(どうやったらあいつを苦しめて殺せるか・・・)
それもちがう!と突っ込むモコナはここにはいない。
(嫌なものだ。
少し親しげにしてくるからと、モコナを思い出すなんて。)
静かに立ち上がる。
牢屋に施された魔法は複雑なもので、まるでいつか来る自分を閉じ込めるために誂えられたかのようだ。
城にもともと張り巡らされたシールドに、新たに魔力を練り込んで、内側から破られないようなシールドを作っている。
大抵はシールドの四隅に柱となりうる札が貼ってあったり、呪文が刻まれていたりする。
だがそこは、シールドの内側から手が届く筈がないわけで、シールドの向こう側に魔力も届かないわけで。
(だが甘いな。)
目を閉じてシールドを隅々まで探ると、城の壁に接触する部分だけ魔力が不安定だ。
(小さな綻びだが、これで充分。
派手にやろうか。
・・・あいつがこっちに向かうように。)
右手を刃に変化さ、そこに炎をたぎらせる。
(雪も氷も、全て融かしてやる。)
ニヤリと笑って、綻びに刃を突き刺した。
「さぁ、こちらへ!」
優しく手を差し出すカイル先生。
子どもたちはみなそれに従った。
でも私は、なんだか怖い。
咲も言っていた。
この人にだけは羽根を渡しちゃいけないって。
咲が教えてくれた羽根なんだ。
(渡さない。)
羽根を抱き締める。
カイル先生はしびれを切らし、ナイフを取り出した。
(咲ならどうするだろう・・・)
子どもたちはそのカイル先生の姿に怯えて逃げ出した。
(私も逃げなきゃ。
みんなが探してくれるこの羽根を、守らなきゃ。)
羽根が閉じ込められた氷をきつく抱き締めて走り出すけれど、足につけられた鎖が邪魔でうまく走れない。
まんまとカイル先生に捕まってしまった。
「やはり愚かだな。」
なぜ『やはり』なのか、一瞬疑問が湧いて消えた。
どうしようか、考える暇もなく、辺りに地響きが起きる。
城が大きく揺れ、一瞬強い魔力を感じた。
「予想以上に」
「予想以上に、なんだ?」
冷ややかな声に振り返る。
私の背後に立っていたカイル先生の首に短剣を添えているのは。
「咲!?」
そこに小狼君と黒鋼さん、ファイさんが駆け込んできたけれど、どうしようもない。
「愚かなのは私か。」
「その様だ。
短刀を捨てろ。」
咲の言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をして、カイル先生は私に突きつけていた短刀を投げ捨てた。
小狼君は驚いた顔をした。
ずっと咲のことを疑っているからだろう。
「おい、ウスノロ。
お前も殺してやろうか。」
咲に言われてあわてて小狼くんの方へと走った。
その時、また大きな地響きがあって、壁から水が溢れ出す。
「お前か。」
「ああ。
この城はもう用済みだろ。」
咲が広い天井を見上げる。
「苔むした廃墟にしてやろう。」
「私は。」
「残念だな。
・・・まだ聞くことがある。」
ひどく冷たい声だった。
冷たく、憎しみのこもった、声。
咲は小狼くんを見た。
いつもは深いフードに隠された顔が、蝋燭の灯りで今日は明るく照らされている。
強く見つめる瞳は誰かにひどく、
(そうだ、お父様に似ている。)
優しく温かかった父を不思議と思い出させた。
「出ていけ。」
「待って、咲も」
「分かった。」
私の言葉を遮って小狼くんが返事をし、私の足の鎖を踵落としで砕いた。
そして私の手をとる。
振り返ればファイさん達はもう子どもを連れて逃げようとしている。
「行きましょう。
おれたちは邪魔です。」
壁に次々と崩れ、水が溢れる。
分かっているけれど、置いていきたくなかった。
「行きますよ!」
その私の視界から己を隠すように、咲は壁に氷の剣を放ってを破壊して水流をさらに呼び込んだ。
「咲ー!」
溢れる水に、私もどうしようもなくなって小狼君に手を引かれて走り出した。
「用とはなんだ。」
首に刃を突きつけられたまま、男は問いかけた。
もう膝まで水に浸かっている。
男の体温はみるみるうちに下がってきている。
そして自分は、ピクリとも動かぬまま、返事をする。
「王は。」
男は目を見開いてから弾けたように笑った。
「笑わせるな。」
「答えろ。」
「答えてもお前は殺すさ。
そう教えた。」
彼が何処か悲しげに微笑むのが、一瞬水に映った気がした。
「だかその前に、答えを聞き出すために殺されたいと思うほど、残虐な拷問を与えよと。」
男は寒さのため青く震える唇で笑った。
「成長したものだ。
私の手に負えぬほど。」
揺らめく水に映る男は哀れな彼は、遠い昔、死に瀕したものを見ても哀れと思うなと私に教えた。
―苦しくなるからな―
そしてそう言って私の涙を拭いたのだ。
震えるほど、優しい指先で。