ジェイド国
名前変換
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見えてきた町並みに、みんな少し元気が出てきたようだ。
ところが、町に足をふみこむとその異様な空気に馬の足は止まった。
そんなオレ達の後ろに音もなく咲が着地する。
駆け寄る複数の足音と、カチャカチャと言う金属音。
聞き覚えのあるそれは。
「お前達なにものだ!」
銃を構えた青年達がオレ達を睨みつけた。
「旅をしながら本を書いているんです。」
「お前のような子どもがか?」
「いいえ、あの人が。」
小狼くんがオレを指差した。
その嘘に便乗していく。
「そうなんです。
この子がオレの妹で、
その子が助手で、
この人達は使用人で、」
そこまで話したとき、背後からまるで貫かれるような殺気を感じ、思わず言葉につまった。
(咲だ。)
黒りんでもこんな殺気は放たない。
否、放てない。
彼女のそれは、異常に鋭いのだ。
だがなぜそんなに殺気だったのか理由がわからない。
(まさか黒りんと一緒に使用人の括りにしたから!?
でも他になんて言えばいいのか思いつかないよ!)
「やめなさい!」
次の瞬間、辺りに声が響き、人々は口々に、先生、と言った。
殺気もそのざわめきに紛れて消えていた。
「旅の方に銃を向けるなんて!」
オレ達をかばうように立つその人。
この町に似合わぬ笑顔を浮かべる先生と呼ばれる人に、僅かに安堵する。
「でもこんな時期に!」
青年が訴えたが、先生は首を振った。
「こんな時期だからこそです!
旅の方、ようこそスピリットへ。」
なにが"だからこそ"なのかは大いに気になるところだ。
それから。
さっと背中がオレたちの前に現れる。
「ありがとうございます。
助かりました。」
落ち着き払った青年の声で、咲はそう言ってきれいに頭を下げた。
普段の様子とのあまりの差に、皆唖然とする。
「いいえ、こちらの方が失礼を。
今この町では不可解な事件が起こっていまして、皆不安なのです。
よろしければ家へ来て話だけでも。」
「それは大変だ。
我々でお役に立てることがあれば是非とも。」
「ではどうぞ!」
誘おうとする男に、咲は最後に問いかけた。
「お名前をうかがっても?」
「カイルです。
カイル=ロンダート。
貴方は?」
「咲です。」
彼女がそう名乗った瞬間、サクラちゃんが花が綻ぶように笑った。
自分がつけた名前を名乗ってくれるのが嬉しいのかもしれない。
「いい名前ですね。」
二人は親しげに微笑みあった。
「魂が一緒の人だったのかな?」
白饅頭が首をかしげる。
「どうだろう。」
小僧は考え込んでいる。
同じくあの魔法使いもだ。
「咲は今どこに?」
「部屋だ。」
俺の返事に姫はうつむいた。
「何もないといいな…」
「どうかしましたか?」
「咲、なんだかすごく辛そうだから。」
実に不思議だ。
姫はなぜ、これほどまでにあいつのことを思い、あいつのことがわかっているかのような話をするのか。
「大丈夫じゃないかな。」
そして白い青年はなぜあいつと関わりたがらないのか。
抱えるすべてをそのままに、雪は深々と降り積もっていった。