阪神国
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移動した阪神国では空ちゃんのところでお世話になることに決まった。
どうやら空ちゃんは、オレたちみたいな他の世界からやってくる人に慣れているようだ。
眠ったままのサクラちゃんはオレが持っていた羽根で一命を取り留めたみたいでよかった。
が、いきなり問題勃発。
「俺はごめんだ。」
黒りんはそっけなく言った。
「こんな奴と同じ部屋なんざ、いくつ命があっても足りねぇ。」
「なに?
負けるの怖い?
寝首を掻かれるの恐いの?
かわいいー!」
男が嬉しそうに反応した。
とにかく人を馬鹿にするのが好きらしい。
「黙れ!!」
青筋を立てて黒様が怒鳴った。
もっともである。
だが残念ながら、空ちゃんの家には空き部屋は2つしかない。
流石に小狼君とサクラちゃんの部屋にこの男を追いやるのは気がひけるのか、その提案は黒たんからは出てこなかった。
「いいよ、思いっきりかわいがってあげるから。
お前のろまそうで面白いもん。
しかも威勢がいいし。
そう言うのって殺すの楽しいんだよね!
最後まで抵抗してくんの。
できる限りじわじわ殺すの超いい感じ!」
テンションが上がっている男を尻目に、オレと黒たんは顔を見合わせる。
「どうする?
交代で寝る?」
「しかねぇな・・・。
てめぇも信用できる口ではねぇが、こいつよりましだ。」
「失礼な。
流石にオレも死ねないし。」
「無視すんじゃねぇよ!!!」
突然走った衝撃に、オレは何が起こったのか解らなかった。
バタン
バタン
二つの音は、オレと黒様が一瞬で畳に叩きつけられた音。
驚いているのは黒りんも同じだったらしい。
みぞおちに綺麗に入った攻撃のおかげでオレ達はひどく咽た。
「わかったぁ?
これだから低能は」
黒りんは次の瞬間反撃に出る。
あんなに咽ていたのに、演技だったのかな。
それは本当に瞬く間だった。
鋭い蹴りが男の左頬に向かったのだ。
でもそれは、まるで風でなびいた髪を撫でつけるように、静かに止められていた。
黒たんの赤い目が見開かれている。
「・・・嫌いなんだよ。」
壁に打ち付けられた黒様は、力なくずるずると座り込んだ。
壁がへこんでいる。
かなりの打撃だったのだろう。
「なにごとや?!」
驚いたように部屋の戸を空ちゃんが開けた。
「躾中。
邪魔しないでくれる?」
男の言葉に、空ちゃんは眉間にしわを作った。
「あんたなぁ、体罰はご法度やで。」
「体罰?」
「そや。
わいは学校で子供たちに社会科を教えとる先生や。
餓鬼どもはどうしようもないいたずらもしよるし、話を聞かん時もある。
でも、体罰はあかんで。
それは恐怖で相手を支配することや。」
「それが躾でしょ?」
「ちゃうちゃう。
ええか。」
不思議とあの男は空ちゃんの話はちゃんと聞くようだ。
どこからともなく出てきたホワイトボードに、空ちゃんはきゅきゅっと文字を書いた。
「身に美しいで躾や。
社会に出て、仰山の人と付き合っていく中で、ああ、一緒にいて楽しいな、と思えるような人にならなあかん。
そんな美しい身を作るのが躾や。」
「そのために暴力も必要だよ。」
「暴力は美しくない。」
空ちゃんがきっぱりと言った。
「美しくないものを使って、美しいものは作れへん。」
「じゃあ無理だ。
自分は醜いから。」
放り投げたような言葉が出た。
「醜い人間なんておらんよ。」
空ちゃんが静かに語りかける。
「この姿を見ても同じことが言えるか?」
ふわりとマントが脱ぎ捨てられた。
現れたのは、白い肌に這う、黒い刺青。
きっと全身に及ぶであろう絡めるように這うそれは、ひどくおぞましい。
不思議なことに、その子の容姿はどこかで見覚えがある気がしたが、思い出せない。
「えっ女!?」
「まじか!」
オレと黒いのの驚きなんて、二人は無視だ。
「言える。
お前の眼は真っ直ぐや。
大切な人を守れる、強い目や。」
空ちゃんは目をそらすことも、眉をひそめることもしなかった。
「顔見せてくれてありがとう。」
にっこりと笑ったのだ。
男、改め女は目を見開いた。
それから、ぷいっと顔を背けて、鈴の鳴るような声で言った。
「・・・帰る。」
あれが地声だとでも言うのだろうか。
さっきまでのは魔法でごまかしていたとでも言うのだろうか。
混乱したオレ達を残して、彼女はマントを拾うと窓から外へと出て行った。
「いいのか、あんなの外に出して。」
「あれでも反省しとるんよ。
そっとしておき。」
空ちゃんはそう言ってホワイトボードを片付ける。
「先生っていうのは、ああいう子も相手にするんですか?」
オレの質問に空ちゃんはくしゃりと笑った。
「そうやなぁ・・・。
人って言うのは、歪な環境の中にいると性格も歪になってまう。
世の中が真っ直ぐ見えへんのや。」
空ちゃんは静かに言った。
「それを真っ直ぐみせたるっちゅうのも、先生の仕事のひとつやさかい。」
そう言って照れたように笑う姿に、彼にとってそれが天職なのだろうと思う。