霧の国
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
気がつけば辺りに誰もいなくて、焚き火がぱちぱちと燃えていた。
(そうだ私、あの人に話している途中で…
みんなにいわなきゃ!)
立ち上がったものの、辺りには伝える相手などいない。
仕方なくもう一度座り込む。
(みんなはどこに行ったのだろう。
またあの人を責める目で見ているのだろうか。)
そんなの嫌だな、と思う。
他人事のはずなのに、自分のことのように感じるのだから不思議だ。
ほかのみんなのことはそんな風に思わないのに。
あの人は特別だ。
私のことをよく知っている小狼君とは、また別の意味で。
私があの人のことをよく知っている気がするのだ。
記憶を失っているはずなのに。
突然、湖から金色の光が溢れた。
「小狼くん!」
走ってきたのはファイさんと黒鋼さん。
そしてファイさんが湖に駆け寄ろうとしたところを黒い影が遮った。
「ここでお待ちください!」
あの人は鋭く言った。
ファイさんが大きく目を見開く。
その言葉はファイさんに向けられたものだったけれど、それはファイさんの向こうの誰かに発されたものだった。
あの人は黒いマントをひらりと脱ぎ捨てて湖に静かに飛び込んだ。
黒鋼さんがマントを拾い上げる。
辺りには静寂が満ちた。
「何か知っているのか?」
問いかけられたファイさんは不思議そうな顔をして首をふった。
そしてしばらくして口を開いた。
「もしあるとすれば、同じ魂を持つ人、かもしれない。」
「あいつのそばにいたと言うのか。」
「あくまで可能性だけどね。
今の様子を見ていると。
まるで…オレを知っているように見えた。」
ファイさんの瞳は遠くを見ていた。
じっとなにかを考え込むように。
驚いた。
湖な底にこんな町があるなんて。
明るい魚を見上げる。
その魚の明かりに照らされて、人が見えた。
黒鋼さんかと思った。
飛び込んでくるならその人だろうと思ったから。
でもそこにいる人は違った。
黒く長い髪を揺らめかせるその人は。
(なぜ、お前が。)
その人の回りを戯れるように魚はくるりと巡り、一枚の鱗を落とした。
一瞬、あの人の目がひどく優しく見えた気がした。
大きな輝く鱗を手に、その人は上へと昇っていく。
オレも慌ててそれを追いかけた。
地上に上がるとモコナが慌ててかけてくる。
「サクラが!サクラがー!」
だからおれは慌ててサクラの姿を探す。
何かあったのかと、焦燥に駆られて。
「目を覚ましたの!」
してやったりと言いたげなモコナの笑顔に思わずため息が漏れた。
「なにもなくてよかった 。」
「うん!」
無邪気なモコナだ。
ファイさんがおれの顔を見てやさしく笑った。
「本当にびっくりしたみたいだねぇ。」
「はい。」
恥ずかしくなってオレはうつむいた。
「これからも羽根を探すんでしょう?
だったらもっと気楽にいこうよ。
辛いことはいつも考えていなくていいんだよ。
忘れようとしたって忘れられないんだから。
誰も責めないよ。」
「待って。」
立ち去ろうとするびしょ濡れのその人を、モコナが呼び止めた。
「ねぇ、一緒だよ、君だって。」
その一言に思わず目を見開く。
「違うな。
罪を犯さぬものに許されるだけだ。」
男の声で返事をした。
彼女の寂しげな瞳が揺れる。
こんな顔もするのかと、驚いてしまう。
同時にファイさんがうつむいたのが気になる。
「お前は何の罪を犯したんだ。」
黒鋼さんが問いかける。
その人は馬鹿にしたように笑った。
「お前ごときが思い付くようなことならなんでもしたさ。」
次の瞬間、おれの回りを息もできないほどの熱風が吹き荒れ、それが止まったときには地面に倒れ込んでいた。
「移動だ。」
息は切れているが、体はきれいに乾いている。
姫が嬉しそうに笑った。