霧の国
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「で、どこなんだここは。」
黒鋼さんが呆れたように呟いた。
あたりは深い森で、霧が立ち込めている。
人を寄せ付けない冷たい空気を出して、あの人は私達の後ろに立っていた。
振り返っても深いフードの中に隠れて表情は見えない。
(きっと、なんで振り返るんだ屑、とか思っているんだろうな。)
などとボヤーと考えている。
「どうしたんですか、姫。」
不思議に思った小狼君が私に問いかける。
私は心配を書けないように彼に微笑んでから、あの人のところに駆け寄った。
(来るんじゃねーよって思った。)
思っていることが分かってしまうのがおかしくて、思わず笑う。
それから笑っている場合じゃないな、って思いだして、その人を見上げた。
私よりも少しだけ高い背。
そっとその腕に触れる。
「あのね、無理しないで。」
その言葉に、ファイさんも小狼君も驚いたみたいだった。
「なんだウスノロ。
てめぇ馬鹿にしてんのか。」
ぎろりと睨まれた気がした。
でも私は首を振る。
「心配しているだけ。」
その人はふん、と鼻で笑うと私の手を振り払った。
「いらねぇ心配だな。」
「そんな言い方ないよ!」
モコちゃんが私の肩の上にぴょーんと飛び乗って怒った。
「いいの。」
その頭を撫でて、言う。
そして。
「じゃあ必要なものを、貴女に」
「うっせぇ黙れ!
それとも黙らされたいのか!?」
怒鳴りつけるその人と私の間に小狼君が滑り込んだ。
「それ以上近づくな。」
明らかに攻撃態勢に入っている小狼君。
声も低くて、あの人を突き放そうとしているのが分かる。
「ちがうの。」
「姫、気をつけてください。」
「ちが・・・」
言わないといけないと思った。
私はその人に今一番必要な名前をみんなでプレゼントしたいのって。
この人も大切な人だから。
大切な旅の仲間、そして・・・
(・・・だれ・・・だっけ・・・)
睡魔に捕らわれてしまったて、眠気に耐えられない自分が、歯がゆいのに、吸い込まれるように夢の世界に入り込んでしまった。
「サクラになにをしたッ!?」
驚き詰め寄る小狼君とのその人の間に、黒りんが割って入る。
「何もしてねぇ。
・・・そうだろ。」
紅い目がオレを振り返った。
「魔法らしきものは使ってないよ。
春香ちゃんのところでずっと頑張っていたから、疲れちゃったんじゃないかな。」
なんでオレまでその人の方を持つような事を言わされているのかわからない。
「ちょっと冷えるし、オレのコート貸してあげるから、少し寝かせてあげよう?」
そう提案すると小狼君はひとつ頷いた。
そしてあの人に声をかけた。
「・・・すみません、おれ・・・。」
「黙れつってんだろ。
何もわかんねぇくせに余計なことしようと思うんじゃねぇ。」
その人はそう言ってオレ達に背中を向けた。
「おい、この国に羽根は。」
「・・・不思議な力は感じるけれど。」
モコナが自信なさそうに答える。
「馬鹿にはわからんか。」
「モコナ馬鹿じゃないもん!」
ぷんすか、と怒るモコナをファイさんがなだめている。
あの人はそんなのには構わず、森へと消えていった。
結局、オレと黒ぴーとモコナはあたりの様子を見て、サクラちゃんと小狼君が残ることになった。
湖から不思議な力を感じると言うモコナの言葉を信じ、小狼君は湖に潜るらしい。
あの女はどこに行ったのかはわからない。
「あいつ、羽根があるのかどうか、分かってるんじゃないか。」
黒様がぽつりと呟いた。
「・・・そう、かもねぇ。」
オレも下手なことは言えず、とりあえず相槌を打つ。
「あいつに魔力はあるんだろ?」
「うん。
すっごく強い魔力がある。
封印されているせいで今はオレよりは弱いけどね。」
「何故封印されているんだ?
何故自分で世界を渡らねぇんだ?
・・・不思議だと思わねぇか。」
黒ぽっぽが言うのももっともだ。
彼女がこの旅で果たす役割があるからこそ、同行者としている何か理由をつけられているのであろうが、そんなことを説明したら墓穴を掘るようなもの。
「確かにそうだねぇ。
でもあの封印は他人にされたものだったよ。
だから彼女の願いはその封印に関することかもしれないね。
モコナは何か聞いてないの?」
ちらりと話を振ってみる。
もしかしたら次元の魔女さんのところで何か聞いているかもしれないから。
「モコナは何も聞いていないよ。
・・・ただ、あの人は凄く悲しいんだって分かる。
あんな意地悪だけど、本当はすっごく悲しくて寂しいの。
モコナ108の秘密技のひとつなの。」
しょぼんと呟く小さい子の言葉が意外でオレ達は目を瞬かせた。
「意地悪だからちょっと嫌いだけど・・・。
サクラのあったかさが、少しでも伝わって、あの人もあったかくなればいいなって、思うの。」
オレとは全く別の視点から彼女のことを考えている純真さに、心がチクリと痛んだ。