高麗国
名前変換
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「ここまで逃げて、なぜここから逃げねぇ。」
俺の問いかけに、黒いマントの中の女は、ふん、と鼻で笑った。
「血の匂いがひでぇからな。
てめぇみてぇな職種相手じゃ気合入れなきゃ逃げ切れねぇ。
・・・でもそれをするほどの相手じゃねぇ。」
その言葉の意味は、俺たちが小物だと言いたいのか、それとも心を許した相手だと言うことか。
(どうせ前者だ。)
思わずため息をついた。
ここまで森の中に入れば、確かに俺以外では簡単には追いつけないだろう。
「春香が探してんぞ。
薬瓶持って。」
「薬などいらん。
お前の馬鹿を治してもらえ。」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。」
探しに来てやったと言うのになんという言い様だ。
「この状況でもお前より強い。
お前を殺す力はある。
・・・殺されたくないならすぐに帰るんだな。」
「殺したくないとでも言うのか。」
女はじっとして動かない。
「名前は、そのものを縛る力がある。
てめぇにも有るはずだ。
同じ匂いがする。」
「誰かの犬の匂いか。」
月読の犬、と言えば俺のことだった。
褒め言葉としても、ねたみを込めた言葉としても、何度も掛けられた言葉。
「さぁな。」
でも不思議と、そう言われても嫌悪感はなかった。
「旅立ちも近い。
早く傷を治せ。」
「生憎薬が効くような身体ではない。
・・・明日には合流する。」
いつも散々悪態をつく癖に、これだけ傷だらけの己のせいで心配をかけたくないから帰らないのだろう。
「・・・そうか。
野良犬に喰い殺されるなよ。」
「てめぇと一緒にすんな。
逆に喰ってやる。」
その言葉を聞いて、俺は彼女に背を向けて、村に向かって歩き出した。
ここにいたと言えば春香は絶対にここに来るだろう。
薬が効かないと言っても、くるに違いない。
それを女は望んでいない。
だが捜索はやめさせなければ、無駄に皆が疲れるだけだ。
(どうしたもんか。)
空には星が瞬き始めた。
夜になるとこの国は冷える。
でもきっと、あの女は凍えたりはしないのだろう。
どれほど寒く、孤独であろうと。
彼女にも叶えたい望みがあるのだろうか。
きっとあるから、この旅に加わっているのだ。
だがそれが何か、俺達の誰も知らない。
(物騒な願いじゃないといいが。)
だがどこかで、そうでないだろうと思っている自分がいた。