高麗国
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
城はぼろぼろになっている。
壁は砕け、天井の一部が崩れて曇天の空が覗いている。
「逃げるのだけは早いようだな。」
身体に這う真っ赤な刺青から煙を上げながら、荒い息をした女がにやりと口の端を上げた。
(・・・違う、あいつが必死に抗っているんだ。
少しでも攻撃を抑えようと・・・。)
それが不思議だった。
あれほどまでに自分たちのことを嫌っているように見える彼女が、自分のことを守ろうとしている等。
(だがもう限界のはずだ。)
真っ赤な時点で危険信号だとファイさんは言っていた。
「次で終わりだ。」
飛び込んできた声に目を見開く。
目の前に驚くほど巨大な蒼い魔力の塊が現れる。
「こんなの・・・・避けられない。」
「小狼・・・!」
肩の上のモコナが怯えたように俺を呼んだ。
魔力の塊の向こうの女の身体からは煙が上がり、白く揺らめいて見えた。
相当な無理をしているのは見ればわかる。
(どうすれば・・・。)
「あいつの杖を構えろ!」
女の鋭い声が響いたと同時に、魔力が勢いよくおれ達の方へと飛んでくる。
「モコナ!」
「はいっ!」
口の中から杖が出てきた。
この杖は城に入る秘術を守るための石の対価として魔女さんのところに行ったはずだったのに、何故それが今ここにあるんだろう、なんていう疑問はとりあえず頭から追い出して、杖を構える。
全身を鞭うたれるようなエネルギーを感じる。
恐ろしい魔力だ。
おれは思わず目を閉じる。
なぎ倒されないように必死に踏ん張って、杖をつきだしていた。
だからその時、何が起きたのか見ることは無かった。
強大な爆発音が鳴り響き、城が揺れる。
再び目を開けた時、城の天井はきれいさっぱりなくなっていた。
領主の息子の姿もない。
そして。
「どこ・・・?」
ぽろりと、モコナが呼んだ。
女の姿が、見当たらないのだ。
「・・・おい!
大丈夫か!?」
呼ぶ名前を知らないおれたちは、ただそう叫ぶことしかできない。
コトリ
小さな石が転がる音がして、慌てて瓦礫の傍に駆け寄る。
黒い服の裾が見えて、モコナと慌てて瓦礫を避ければ、ぼろぼろになった女が現れた。
額には石がなくなった代わりに血が流れている。
「はっ・・・。
死に、損、なった、の、か・・・糞餓、鬼。」
咽て血を吐きながら、女はそう言った。
だからおれは、ひとつ頷く。
そして言わなければならない言葉を探して口を開いた。
「ありが」
「今度こそ死ね。」
「なんてこと言うの!」
モコナが声を上げる。
だが女はモコナの声など聞こえていないようだ。
「自分はこれ以上先へは進めない。
だからお前が進んで死んでしまえばいい。」
女が顎でしゃくる先には大きな扉があった。
殺気の爆発のせいか、ひびが入っている。
「あの扉のところが一番力が強いよ。
・・・サクラの羽根の気配もする。」
おれは立ちあがる。
「生きる覚悟は、できています。」
そう言えば、彼女は小さく鼻で笑った。