高麗国
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城の中でオレたち3人を襲ってきた秘妖は、額の石を黒様が叩き割るとすぐに攻撃をやめてくれた。
どうやら領主にその石を使って操られていたらしい。
ずいぶんと恐ろし石だ。
「私はあの石に込められた秘術で捕らわれていたのだ。
・・・もう一人、同じく捕らわれている者がおる。」
「それってまさか。」
「あの女・・・?」
嫌な予感が的中した、と言ったところだろうか。
あんな化け物が敵になるなんて、想像したくない。
オレと黒様は思わず頭を抱えた。
「上の階だ。
・・・あの小僧が戦っている。」
「・・・あいつッ!」
黒りんのあいつは誰のことを指しているのか、オレには分からない。
でもその声は、心配と怒りと、ごちゃ混ぜになっていた。
忍びなのに感情が声に現れるなんてらしくない。
「あ奴の力は強い。
倒すにせよ逃れるにせよ、犠牲はでかねん。」
意味深な言い方に、オレと黒たんは駆けだした。
酸で焼けたところが風にさらされて痛んだ。
「殺すか?」
背中越しに黒たんが問いかけた。
「そうだねぇ。
邪魔をするなら殺すしかないんじゃない?」
オレはそのためにここにいる。
黒ぽっぽの知らない旅の目的のために。
「・・・そうだな。」
少しの間は、もしかしたら、サクラちゃんと春香ちゃんの事を思った間なのかな、と思った。
あの子達は不思議とあの女に懐いていたから、殺したと言ったら悲しむだろう。
泣いて、怒るに違いない。
たとえどんな理由があっても。
「俺は人を殺めると弱くなる呪が掛けられていてな。」
「え?」
そんなの初耳だ。
続く言葉を思って、無意識に唾を呑んだ。
「・・・お前・・・。」
おれは目を見開く。
フードを取られ、刺青の這う顔があらわになった女の額に、赤黒い石が埋め込まれている。
春香の家を守るために倒れた時に顔は一度見ていたが、あんな石は無かったはずだ。
「さっさとやってしまえ!」
領主の息子が女に命令した。
「っざけんな屑。
糞餓鬼なんか殺しても楽しくねぇ。」
表情ひとつ変えることなく悪態をつく女。
なんだかひどく顔色が悪い。
「てめぇに反論する余地なんてねぇんだ!」
次の瞬間女が身体を固くする。
「いい気になりやがってッ・・・!」
必死に抵抗しようとしているだろうに、右手が掲げられ、おれに狙いを定める。
刺青が赤く染まっていた。
ファイさんが言っていた。
春香の家を壊そうとする風に対抗するために魔力を振り絞っていた時、刺青が真赤になっていたと。
危険を告げるサインのようだったと。
「・・・おい糞餓鬼。
てめぇが勝てるはずねぇよな。」
次の瞬間、蒼い炎がおれに向かって発される。
大きく飛び上がって避けるものの、その威力は凄まじく、後ろの壁が陥没している。
「てめぇみてぇな甘くて弱い餓鬼が・・・
願いなんざ叶えられるはずがねぇ・・・。」
まだ飛び上がったまま空中にいるおれの耳元でその声が聞こえ、女を視認した瞬間、殴り飛ばされた。
「小狼!!!」
モコナが心配そうに叫ぶ。
身体に激しい衝撃が走った。
早いし、威力も高い。
強い、強すぎるのだ。
「やめて!
ねぇお願いだよ!
みんなで助けに来たの!」
モコナが必死に女に呼びかける。
女は微かに眉を顰めた。
「有難迷惑だな。
こっちは操られてんだ、頼まれたところでどうしようもない。
・・・せめて黒いのだったらなんとかなったかもしれねぇが。」
ぼそりと聞こえた黒鋼さんを望む声。
不思議だ。
あれほどおれたちの事を邪険に思っているはずなのに。
ファイさんの目測が正しければ、彼女の顔に這う血のように赤い刺青は、彼女がずっと抵抗を続けていることを示しているのだろう。
「自分の身も守れねぇ糞餓鬼が来ちまった。」
何の感情もつかみとれない声色。
「終わりだな。
全て。
望みも、旅も、夢も。」
(誰の望みだ?誰の旅だ?誰の夢だ?)
瞼の裏によぎる、優しい笑顔、温かい日常。
「・・・おれは。」
痛む足を無視して立ちあがる。
「やると決めたことはやる。」
女の黒い目がじっと俺を見つめる。
思ったよりも、優しい目をしていると思った。
目だけを見ていれば、そう、さくらによく似ている。
あのかわいらしく人を引き付ける、優しい瞳に。
「なら殺しに来い。
どうせ殺せねぇからな。」
強い言葉に、おれは頷く。
「ああ。
・・・殺してやる。」