高麗国
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姫と春香とともに町へ出る。
何度やっても賭けごとに勝つ姫は「神の愛娘」なのだと春香は教えてくれた。
特別幸運な物のことをそう言うのだそうだ。
記憶を失わされたサクラが幸運の持ち主と言うのだから、どこか不思議だ。
とはいえ、記憶を失ってもこうして幸運に守られているわけなのだが。
「やめてください!祖父は病気なんです!」
向こうの店から女性の悲鳴が聞こえた。
春香が駆けだし、おれと姫もそのあとを追う。
「今すぐ滞っている税金をすべて払ってもらおう!」
老人とその娘らしき女性に鞭を振り上げる男は、姫に手を上げようとした男。
つまり春香が言っていた領主の息子だ。
「無理です!前の領主様の時の20倍なんてとても払えません!」
「だったらその爺さんをもっとムチ打ってやる!」
気づけば隣にいたはずの姫は女性と老人を庇うために駆けだしている。
こんなところは記憶を失っても変わらない。
おれと春香は慌ててそのあとを追いかける。
だがそんなおれたちの頭の上を、領主の息子が軽く吹き飛ばされていった。
驚くおれの視線の先には。
「ありがとう。」
老人を庇うように座り込んだままお礼を言う姫の前に立つ、あの女。
「てめぇ本当になんも分かんねぇのか。
そんなら家から出るんじゃねぇ、邪魔だ。」
姫の手を無理に引っ張って立ち上がらせ、その背中を押して部屋の隅に追いやる。
おれは慌ててよろめく姫に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。」
おれに向ける笑顔も、あの女に向けるものと同じ。
胸が小さく痛んだ。
「なんだ、鞭で死ぬまで叩かれたいのか?」
振り返る先では、女が領主の息子から鞭を奪い、それを振った。
するとその鞭が叩きつけられた机が見事に割れる。
どれだけ馬鹿力なのかと、息子だけでなく町民たちも春香も顔を青くした。
「てめぇなんかすぐに殺せそうだがな。」
領主の息子は震える手で懐から扇を取り出した。
「く、くらえ!!!」
一振りすれば巨人が現れる。
「心配するな、たっぷり甚振ってやる。」
長い袖口を捲って右手が現れた。
刺青の這う異様な手は、思ったよりも小さい。
その手が巨人に向けられ、次の瞬間、光の帯が発された。
爆発とともに、巨人は一瞬で消える。
「あいつは、秘術師か・・・?」
春香が恐ろしい者を見たように小さく呟いた。
「ば、ばけもんだぁ!!!
親父!!親父!!!
助けてくれぇぇ!!!」
息子は情けなく叫び、扇を振る。
現れた巨人は次々と咲によって灰にされていった。
「うるせぇ!!!
こっちはいらついてんだ!!!」
彼女が勢いよく足をふみならすと、彼女を中心に鎌居達が舞い、一気に3体の巨人を砕いた。
一人の若者までもが巻き込まれかけ、おれは慌ててその人の手を引いた。
それを見た町人達は慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「危ないだろ!!」
おれの怒鳴り声など聞こえないように、彼女の攻撃は激しくなるから、慌てて姫と春香の背中を押す。
「逃げてください。
おれが止めに行く。」
「待って。」
姫がふと立ち止まる。
「風の音がする・・・。」
女の方へと駆けだそうとする姫の手を引き、春香の頭も抑え込んでおれは二人を守る様に床に伏せる。
次の瞬間、あたりに突風が吹き荒れた。
そして何かが頭に当たったのだろう。
強い衝撃を受けておれは気を失った。
「小狼!」
風が吹きやむと春香ちゃんが小狼君を呼んだ。
息はしているけれど、気を失っている。
どうやら柱が飛んできて小狼君にぶつかったみたい。
私達を守ってくれたんだ。
どうしてこんなことまでしてくれるんだろう、とちょっと不思議になる。
「この野郎!!!
思い知ったか!!!」
領主の息子の声に顔を上げる。
彼はあの人を片手で持ち上げ地面にたたきつけた。
そんなふうに簡単に扱われてしまうほど、あの人は小柄だ。
細くて、かよわくて、意地っ張りで、何も知らない。
「やめて!」
思わず駆けだそうとする私の腕に春香ちゃんがしがみつく。
「無理だ!」
春香ちゃんの言うとおりだ。
私じゃ何もできない。
でも、あの人を放っておけないんだ。
「気持ち悪い化け物だ。
連れて帰れ!」
その言葉にさすがに春香ちゃんも驚く。
「そいつは関係ないだろ!」
噛みつく春香ちゃんを見て、領主の息子はほくそ笑む。
「関係ないだと?
これほどまでに馬鹿にしておいてか!
こいつには俺の城で充分に働いてもらう。
行くぞ!」
「待て!」
追いかけようとする私と春香ちゃんを、店の女性と老人が止める。
「だめよ、あなた達まで捕まってしまう!」
「でもあいつが!」
「助けてくれたのに!」
「じゃがお前達が捕まったら元も子もない!」
「待って・・・。」
あの人の名前を呼びたかったのに、名前を知らない自分が歯がゆいと思った。
歯がゆくて、悔しくて、私はその場に座り込んでしまった。