旅立ち
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「ふざけんじゃねぇ!
近づくな糞野郎!
何様のつもりだ、あぁ!?」
ひどい悪態に、オレも、黒いのも、小狼君という少年も、目を瞬かせた。
それぞれが対価を支払った後、もう一人度に同行者がいると言われたんだけど。
玄関から現れたのは大きなフードをかぶった人で、顔は見えない。
けれど彼の視線が一瞬オレのところで止まったように感じた。
それは本当に一瞬で、気のせいかもしれないけれど。
声からしたら若い男だろう。
彼を連れてきてくれた男の子はひどく疲れた顔をしている。
「四月一日、御苦労様。」
「・・・いえ。」
ワタヌキ、と呼ばれた少年は、家の中に帰って行った。
「なんだ阿婆擦れ。
呼び出すたぁいい度胸じゃねぇか。」
「旅立ちの時が来たの。」
「何でも勝手に決めんじゃねぇ!
ぶっ殺すぞ!」
「あら、物騒ね。
そんなこと言っていいのかしら?」
フードの人物はぎくりと肩を揺らした。
そして首にかけられた鎖を握り締める。
袖から見えた手はずいぶんと細かった。
「こんな鎖なんか!!!」
「あらやだ、愛しているわ。」
次の瞬間、男がかけている鎖が地面に勢いよくへばりついた。
ガツン!!!
石造りの玄関にしたたかに打ちつけられた額は、フードに隠れて見えないが、きっとひどく傷むだろう。
あまりの展開に、オレ達は目を点にして見つめるばかりだ。
「てっめぇ殺す気か!!!」
地面から跳ね上がった男は、魔女にまた殴りかかろうとする。
「危ない!」
小狼君が悲鳴を上げる。
「なによ。
愛しているっていっているじゃない?」
また男は地面に勢いよく伏した。
ガツン!!!!
明らかに魔女さんは楽しんでいる。
「解ったかしら?」
「何がだ?」
黒いのが首をかしげる。
「この子に向かって愛している」
「ぎゃーッ!!!!」
ガツン!!!!
再び地面に勢いよく伏す。
だんだん不憫になってきた。
「って言うと、こうなる。」
魔女さんは楽しそうににやりと笑った。
「・・・それは分かった。
なんでそんなことが必要なのかって聞いてんだ。」
案外黒いのは聡いらしい。
「この子は野獣よ。
放っておけば人は殺すし物は盗むし大変なの。
これでも本来の魔力の大半は抑えている。
あって1割と言ったところかしら。」
「これで1割?」
耳を疑う話だ。
オレよりも幾分か弱いだけで1割程度なんて、本来はどれほどの力があるのだろう。
「万単位の人も瞬殺するわ。
だからこれは、ペットの鎖みたいなものね。」
ペットと言うほどかわいいものではない。
絶対に。
「そんな得体の知れない野郎と旅をしろと言うのか。」
それはもっともな話だ。
明らかに旅は危険になる。
身内が危険なのが一番危ない。
というのは、オレが言えた口ではないけれど。
「ほぉ。
魔力だけではなく剣でも俺に勝てないと気づいてビビったか筋肉馬鹿。」
男がフードの下でにやりと笑った気がした。
「黙れ!
銀龍さえあればお前など!!」
「それが今ねぇんだろ!
ウケるウケる!
負け犬の遠吠えほど好きな歌はねぇ!!」
黒いのの額に青筋がうかぶ。
「これも対価の一つ、と言ったところかしら。
全ては必然なの。
つべこべいう暇があったら、旅だったらどうかしら。
それぞれの願いのために。」
この魔女さんは何を考えているんだろう。
オレには見当もつかないけれど、オレはどうせ他の人とは違うんだ。
与えら得た仕事を全うするまで。
自分の願いを、叶えるまで。
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