パラレルシリーズ
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夜中にふとのどが渇いて部屋から降りてくると、明かりがついている。
(消し忘れちゃったかな・・・。)
ダイニングキッチンに通じる扉を開け、私は眼を見開いた。
「マスター・・・。」
自室でもある書斎で普段は作品作りをするけれど、時々気分を変えたいといってダイニングで仕事をするときはあった。
いつも一緒に朝食を食べるテーブルの上には原稿用紙や辞書が所狭しと広げられていて、
近くにあるストーブは3時間で自動で切れるものであるため、とうに火の気は失せていた。
(そりゃこの時間までついてたら、部屋中の酸素が無くなっちゃう。)
ぼんやりとは温かい部屋だが、パジャマの上に一枚カーディガンを引っかけただけの私には寒く、
ぶるりと身体が震えた。
そしてそんな部屋で、机に突っ伏して動かないマスター。
(寝ちゃってる・・・?)
そろそろと近づいて顔を覗き込む。
綺麗な鳶色の瞳は今は瞼の下。
背中がゆっくりと上下している。
右手には万年筆が握られたまま。
最後の方に書いていた文字はミミズのようになっている。
「もう・・・マスターったら・・・。」
思わず小さく笑ってしまう。
(卯の花先生に、12時までには必ず寝るように言われているのに。)
気分が乗っているんだ、といって仕事に没頭し、時間を忘れる癖が出たようだ。
「ぁっ、このままじゃ風邪ひいちゃう・・・!」
私は慌ててその肩に手を置き揺さぶった。
「マスター、マスター、起きてください。
ダメですよ、こんなところで寝ちゃ。
風邪ひいちゃいますよ。」
「んん・・・ん・・・・。」
小さく唸って顔を反対側に向けてしまった。
「マスター、ダメですったら。」
反対側に回って同じように揺さぶるも。
「・・・ん・・・・。」
また反対を向いてしまった。
「こりゃだめだ・・・。」
小さくため息をついてしばらく考える。
この大きな身体をマスターの寝室まで運ぶなんてとてもできそうにない。
こたつにすら運べないだろう・・・。
とりあえず自分のカーディガンをはおらせて部屋に戻る。
部屋はマスターが女の子らしいテイストにと、桜色を基調としてまとめられている。
(このカバーもそう。)
柔らかい桜色の布団カバー。
ーこれだとよく眠れそうだろう?ー
そういって笑いかけたマスターのぬくもりで、私はいつも切ないほどに温められる。
「よいしょ。」
その布団を抱え込んで階段を下り、マスターの背中に掛けた。
「・・・足もと寒いよね。」
もう一度階段を駆け上がり、今度は毛布を持ってくる。
さっきまできていたため、ほんのり温かい。
それを机の下に潜り込んで足もとに掛ける。
「これで大丈夫・・・かな。」
(少し不安だけれど、一応出来る限りのことはした・・かな。)
急に眠気に襲われて、私はよたよたと部屋に帰り始めた。
そして部屋の扉を開けて気付いたのだ。
「・・・布団ないじゃん・・・。
どうしよう・・・。」
しばらく考えてもいい方法が思い浮かばない。
眠気がひどくなるばかりだ。
一つあくびをして、私は階段を下り、ダイニングに入る。
眠た眼をこすって電気を消し、机の下にもぐりこんだ。
はいはいしてマスターの足もとに行く。
毛布をめくって中に入る。
その中はマスターの体温でほんのり温かかった。
「おやすみ・・・なさい・・・。
ます・・・た・・・。」
全身を毛布の中に入れると、私はマスターの足を抱き枕に、夢の世界へと吸い込まれていった。
「ん・・・・んん~・・・。」
ぼんやりとした頭を掻き、目をこすった。
時計の針は7時を少し回ったころ。
(書きかけのまま寝てしまったか・・・。)
突っ伏していた机から上体を起こそうとして、肩に掛けられた柔らかい感触に首をかしげる。
「・・・?」
滑り落ちた布団は、自分の若草色とは色違いのデザインで、柔らかい桜色。
(咲のじゃないか・・・。)
そう言えば足が動かない。
膝に眼を移せば、同じ色をした毛布。
そっとその毛布をめくれば、黒い頭が見えてきて、俺は目を見開いた。
「咲!?」
「・・・ん・・・。」
その声に咲は小さく唸って俺の脚を抱きしめた。
(俺の脚は・・・抱き枕か・・・?)
普通であれば冷たくなってしまっている足先が、今はほかほかと温かい。
柔らかくて温かい咲に、俺は目を細めた。
「咲、起きろ。朝だぞ。」
「ん・・・ます・・た?」
机の下で半分毛布に包まったまま、頬を俺の脚につけて寝ぼけ眼で俺を見上げる。
その仕草に、俺の脈が早まった。
(・・・咲に伝わらないといいが・・・。)
「俺がここで寝ているのに気づいて、温かくしておいてくれたんだな。
ありがとう、咲。」
気を取り直してそう言う間に、
徐々に眼がさめてきたのか、咲はじっと俺の顔を見て、
それから状況を理解して、
それから。
「すみませんっ!!」
ゴツンッ!!!
慌てて勢いよく立ち上がった咲は思いっきり机に頭をぶつけた。
「おいおい、大丈夫か!?」
慌てて俺は椅子から降りて机の下に入り、咲の頭を、抑える彼女の手の上からなでてやる。
「・・・・だ・・じょう・・・ぶ・・・れす・・・。」
涙目になっているのに必死に泣くのをこらえている。
胸が高鳴ると同時に、なんだかとてもおかしくて笑いがこみあげてきた。
「あははははは」
俺が笑えば、咲は少しきょとんとしてから、照れながら膨れていく。
「そんなに笑わないでくださいよっ。
本当に痛いんですから。」
「ああ、すまんすまん。」
その頭をまたなでてやる。
そうすると彼女の機嫌はすぐに治って、気持ちよさそうに目を細めた。
いつまでもこうしていたいと思うが、そうもいかない。
店だって開けねばならないし、原稿も書きあげねばならない。
「痛いの痛いのとんでけー!っと。
さて、朝メシ作るか。」
俺は咲の頭から手をどけ、立ち上がろうと足に力を込めて。
「あ!ダメっ!」
ゴツンッ!!!
俺は再びその場にうずくまることになった。
(本当に痛い・・・。
泣きそうなくらい痛い・・・。)
でも咲が耐えたのだから、耐えるしかない。
「マスター、涙目っ!」
くすくすと笑う咲を恨めしげに見上げる。
「わ・・・笑うなっ!」
「マスターだって笑ったじゃないですか。」
咲は微笑んで、頭上に気をつけて外に出る。
そしてずるずると机を引きずって俺の頭の上からどかしてくれた。
「これで大丈夫です。」
「・・・まだジンジンする・・・。」
咲はまた小さく笑い声をあげて、それから俺の前に立ち膝をして頭にそっと手を当ててくれた。
「痛いの痛いのとんでけー。」
「・・・うん、治った。」
「え、嘘。」
「本当だ。」
そう言って笑えば、咲も嬉しそうに笑ってくれる。
(咲、お前の笑顔が見られるようになって、本当に良かった。)
ちいさなおまじない
